近年、製造業関係をテーマにしたテレビドラマが制作される機会が増えつつあります。
最近も「マチ工場のオンナ」や「陸王」(架空のランニングシューズメーカーのドラマですが、二輪メーカーの陸王の作品かと思った人もいるそうです)が放映され、自動車会社も多分に漏れず、トヨタ自動車をモデルにした「LEADERS リーダーズ」「LEADERS II」が制作されたのも記憶に新しいかと思いますが、今度は愛知発地域ドラマとして、NHK名古屋放送局制作でトヨタ2000GTをテーマにしたファンタジードラマ「真夜中のスーパーカー」が、平成30年3月28日にBSプレミアムにて放映されることが決定しました。
お金持ちでもスーパーカーを買わないのはなぜ?そこには2つの理由があった
1月より撮影が開始したとのことで、このドラマの舞台となり所蔵車両が物語のキーとなるトヨタ博物館にて、プレス向け1月15日ロケ取材会が行われました。
真夜中のスーパーカーのあらすじとは?
主人公白雪(山本美月)は愛知県にある世界最大の自動車メーカー「ナゴヤ自動車」で修行中のカーデザイナー。しかし伝説の名車「ナゴヤ2000GT」を超えるスーパーカーを作る事を夢見ている白雪は、上司と衝突し自動運転車の開発部署へ異動を命じられ、運転の楽しみを奪われたクルマを作るくらいなら会社を辞めてしまおうと苦悩する。
そんな白雪が向かったのは、世界各国の名車を所蔵するナゴヤ自動車博物館。
閉館時間にも気づかず、一心不乱にナゴヤ2000GTをデッサンしていた白雪に「早く帰れ、夜は危険だ」と謎の言葉を残す警備員福谷(大森博史)、ナゴヤ2000GTを盗み出そうとする日系ブラジル人4世リカルド(上遠野太洸)、そしてナゴヤ2000GTの運転席に白いレーシングスーツのレーサー(唐沢寿明)が現れ…という、ナイトミュージアムテイストの自動車と自動車の開発秘話をめぐるファンタジードラマです。
ファンタジードラマとはいえども、やはり自動車がテーマだけにクライマックスは全開で疾走するナゴヤ2000GT(トヨタ2000GT)のレースシーン。公式Webサイトの、あの甲高い排気音が轟くプロモーション動画を見ているだけで放映が待ち遠しい限りです。
いざロケ取材会があるトヨタ博物館へ
光栄な事に、我らがCL編集部にもNHK名古屋放送局からロケ取材会のお誘いがあり、名古屋在住で同じくトヨタツインカムのセリカLB(ナゴヤセリカLB?)オーナーの筆者が、NHK制作ドラマの取材参加という重責を担う事になりました。
ロケ取材会当日は月曜日で、本来トヨタ博物館は休館日となっている日でした。
いつもと違う休館日の人気のないトヨタ博物館の敷地に入り、「あらすじにあった『真夜中のナゴヤ自動車博物館』はこんな感じだろうか?」なんてことを思いながら駐車場に愛車のセリカLBを停めると、守衛さんから「すみません今日は休館日で…」「いえ、CLっていうWeb自動車メディアの者で真夜中のスーパーカーの…」と、休館日と知らずに来た一般来場者と間違われる一幕も(たしかに、普通プレスがあんなクルマで取材に来るとは思いませんよねぇ)。
むしろ制作者自身が作りたいドラマを楽しみながら作っている
吉永証さんによると、「撮影は1月7日に始まり、折り返しを迎えたところで20日まで撮影予定です。唐沢さん演じる『白いレーシングスーツの男』はクルマを作った人たちの思いが魂となって、人間の形で現れたクルマの化身のような存在で、ナゴヤ自動車博物館にあるクルマのリーダー的存在であり、自動車開発に携わってきた人たちの思いの代弁者で、挫折した美月がその代弁者と向き合うことで、夢やこれからやっていくこともう一回再認識していくようなお話です。」とのこと。
つづけて、NHK名古屋演出・大橋守さんから。
「言い出しっぺは私なんですが、本当の事を言うと最初はもうちょっと簡単に考えていたんです(苦笑)。愛知で地域発ドラマを作るならやっぱり自動車だろうと、地域ドラマはどこを撮っても面白い絵になるんですよ。だったらこのトヨタ博物館はどこをどう切り取っても面白い、絵になる、なのでトヨタ博物館でベン・スティラーのナイトミュージアムのようなものをうまく作ればいいんだ、最初はそういう発想でした。ところが色々調べているうちに、2017年度というのはトヨタ2000GTが発売されてちょうど50周年という節目の年であると知って、スーパーカーブームの真っただ中で小学生を過ごした自分としては、日本唯一のスーパーカーの、トヨタ2000GTができて50周年なんだというアイディアが浮かんで、じゃあ2000GT主役でいいんじゃないか、2000GTと戦うクルマが欲しいなと」
「ちょうどそこで、トヨタがレクサスブランドでLFAというスーパーカーを作っているという事を知りまして、LFAの開発チーフの棚橋さんという開発チーフの方に直接お会いしたりして、これは新旧スーパーカーの対決をクライマックスに持ってくるべきだろうと、当初の地域発ドラマの予算枠を完全に超えてしまいまして(苦笑)。妄想が膨らんで、そんな事難しいんじゃないかと思っていたんですけど、実現しました。そしてトヨタ2000GTのオーナーでいらっしゃる唐沢さんが御出演していただけることに恵まれまして、言いだしたのは私ですが、自動車を愛する人たちの絆といいますか、自動車は愛車というくらい『愛の対象』なんですね、人がクルマに愛を託す気持ち、そして愛するクルマと一つになって走る事の悦びそういったものが伝わるドラマになったらいいなと思って、出演者の皆様と相談しながら撮影している最中です。」
どちらかというと、NHKの制作担当者の方が(いい意味で)暴走して、ドラマ制作を一番楽しんでるのではないかとすら思えてきました。よく、往年の名車の開発秘話には綿密なマーケティングや市場からの要望もさることながら、実はエンジニア自身が「とにかく俺が自分の給料払って買いたいと思うクルマを開発した」という話や、売上が全てのセールスマンでさえ「私が売りたかったクルマはこれだ!と思ったんです」という話が残っていることがあります。愛知県という土地でクリエイター、エンジニア、ありとあらゆる「創造」を生業としている者にとって、自分が本当に作りたい物を作って、世にその名を知らしめるという行為の象徴が、トヨタ2000GTというクルマなのかもしれません。
クルマ好きには失礼のない内容!出演者の意気込み
主演の山本美月さんは、このドラマの魅力を以下のように話しました。
「この物語は、リカルドと白雪が出会う事で成長していくお話になっているので、このドラマを通して私自身も成長していけたらなと思っています。私は元々クルマに詳しくなかったんですけど、このドラマを撮影していてクルマに興味が出てきたので、クルマの事を知らない方でも楽しんでいただける内容になっていると思いますし、クルマが好きな方には失礼のないように撮っています。大橋さんが色々な仕掛けをしているので、クルマ好きの方なら『おっ!?』と驚くようなところもあると思います。細かいところまでぜひ楽しんでください。」
白いレーシングスーツの男役の唐沢寿明さんは、切れ味のある一言。
「おそらく予算が膨らんだ原因の一人だと思いますが、よろしくお願いします。僕は今日から撮影に入りますが、ナイトミュージアムのようなファンタジーであり、僕も所有してますが、好きなクルマを見てるだけで顔がほころんでしまうような、相変わらずこのクルマにほれ込んでおります。その化身の役ができるというのは非常に嬉しい事です。このドラマをやらなくて何をやるんだ、そのぐらい嬉しい役どころです。」
リカルド役の上遠野太洸さんは、ドラマに対する熱い思いを語りました。
「僕はそこまで、今回の作品でクルマに関する知識を披露する、クルマへの愛を語る、といったことはないのですけど、そういうのとは違った今回のドラマの見どころの一つだと思うのですが、現実に日本にいる日系人の方たちの一人として、そういった人たちの心情を、悲劇的ではなく、悲しいけれどありふれた現実の一人として、そこに悲壮感とかではなく現実にあることなんだよと、そういった人たちがどういう思いをいだきながら生きているのか、そういうモノを表現して伝えていけたらなと思って参加させていただきます。」
記者の質問も熱気を帯びる。やっぱりクルマは夢があっていい
山本美月さん:
「クルマに対する思いは、私もオタクみたいなところがあって、共感できる部分がありました。そういう思いをクルマに置き換えて表現出来たらなと思っています。」
「このスーツは夏ごろには出来上がりまして、そこから役作りも始まっていたような気がします。『DOHCダブルオーバーヘッドカムシャフト』とか専門用語が凄く難しくて、『グリップ』の発音とか結構アフレコから苦労していました。」
上遠野太洸さん:
「日系ブラジル人のドキュメンタリーDVDをお借りして、どうやって生きているのかを取り込み、それを可愛そうでしょではなく、それでも生きてるというのをどういう風に出していこうかと悩みながら、微調整しつつ演じさせてもらっています。」
唐沢寿明さん:
「僕は2000GTですからそれだけでいいんじゃないですか(苦笑)。専門用語ですがよく間違ってる人がいるんですけど、よくMTで運転していることを『ミッション、ミッション』という人がいて『ミッション車』なんていいますが、あれは『マニュアルトランスミッション車』といってMTと言って、オートマはATと言って『オートマチックトランスミッション』といってトランスミッションは一個しかないから、それで間違ってる人もいるくらいだからよいんだよ間違って、と。ドラマじゃだめだけどね(苦笑)。」
「2000GTは20数年前に手に入れましたけど、いろんなところに行きましたよ。夫婦で色んなところにいきました。荷物を後ろに積んで、喋ってる途中でお巡りさんにつかまって、飛ばしてないのに、ただ2000GTを見るためだけに止められて。やっぱりクルマは夢があっていいですよ。」
「古いクルマに乗る苦労なんてないですよ。そりゃあ最初は、ラジエーターの水が空になって、オーバーヒートになって、マネージャーさんに一番いい水を買ってきてもらって、待ってる間、通る人がみんな見るじゃないですか、ただ待ってる間も、前とか後とかずっと見ていても飽きないんです。実は、トヨタ博物館に来たのは今日がはじめてなんです。どこに行きたかったというと売店に行きたかったんですよね。そこにたまにトヨタ2000GTのキーホルダーとか出てるんです。それが欲しくて、撮影の合間に見てみようと思ってます。擬人化といっても有難いことですよ。自分の好きな作品が出来るんですから。」
最後に、演出の大橋守さんはこう語りました。
「トヨタ2000GTがなかったら、その後の日本車はどうなっていたかわからなかった、というのも台本に込めています。トヨタ2000GTの登場がその後の国産車の命運を分けたと思っていまして、ファンタジーではあるんですけど、そこは大事なドキュメンタリー要素として皆さんにお伝えしたいと思っています。」
ドラマの撮影現場ゆえに、当然役者さんの芝居に対する真剣な思いはもちろんの事、とくにご自身もトヨタ2000GTオーナーの唐沢さんから、芝居の話以上にトヨタ2000GTに対するマニアックな話や思い入れを存分に語っていました。また、演出の大橋さんの言葉には、ファンタジードラマというエンタテインメント作品でありつつ、戦後の国産自動車産業の発展、更には愛知県の製造業が抱えている日系人の出稼ぎ労働者の現実などのドキュメンタリーという要素を込めるなど、NHKの矜持を感じさせる物がありました。
やっぱり愛知県にとって自動車は、ただの産業ではなく郷土文化
筆者は常々、自動車をはじめとする航空機や鉄道といった輸送機器製造が愛知県の産業としてだけでなく、文化として観光資源やコンテンツになってほしいと願っています。
ここ数年の東海地区のクラシックカーイベントの盛り上がりや、2019年に開催がほぼ確実視されている愛知県のWRC日本など、いよいよその機運が盛り上がってきました。ある意味、日本の自動車産業が急速な発展を遂げる中、トヨタ2000GTは生まれるべくして生まれた名車だったのかもしれません。そして、この「真夜中のスーパーカー」も自動車が愛知県の郷土文化に根付きつつある中、必然的に生まれたTVドラマなのかもしれません。
願わくは、この「真夜中のスーパーカー」自体が末永く続く愛知県のご当地コンテンツになればと、一人の愛知県生まれのクラシックカー愛好家として願ってやみません。
●真夜中のスーパーカー
放送予定:平成30年3月28日(水)22時 BSプレミアム
出演:山本美月/上遠野太洸/大森博史/MEGUMI/深沢敦/水木一郎/団時朗/唐沢寿明 ほか
制作:NHK名古屋放送局
http://www.nhk.or.jp/nagoya/supercar/
※公式Webサイトでは、配布コンテンツとして壁紙やイメージイラストの塗り絵、「クルマとわたし」と題して愛車の写真を募集しています
[ライター・カメラ/鈴木修一郎]
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