ここ最近の日本は大規模な自然災害に見舞われることが多い。特に2019年9~10月は台風15号、そして19号と立て続けに東日本を中心に記録的な豪雨災害をもたらした。
今回の台風で各地に河川の氾濫が相次いだ結果、クローズアップされたのがクルマの水没。そこで本企画ではあまり知られていない水没車の詳細について追ってみた。
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※本稿は2019年11月のものです
文:小沢コージ、編集部/写真:小沢コージ、Adobe Stock
初出:『ベストカー』 2019年12月10日号
【画像ギャラリー】水没したクルマは、このように車内も丸洗いされる!!
■水に浸かってしまったらどうなる? 水没車の定義づけ
そもそも水没車とは、いったいクルマがどのような状態になったものなのか。財団法人日本自動車査定協会(JAAI)によれば、水没車とは「室内フロア以上に浸水したクルマ、浸水の痕跡が複数確認されるクルマ」と定義づけされている。
具体的には室内のシート回りやペダル類、ステアリング、センターコンソール、シートベルトの根本、ドアトリムボードなどに使われている金属類に錆びや腐食が認められたり、泥水が乾いて粉末状になった汚れがシートや内張りにあったり、室内から泥やカビの臭いが感じられたりした場合を指す。
水没車は、泥水が乾いて車内は粉末状の汚れでビッシリ…という状態のものが多い
一般的にはフロアが水に浸かったところから水没車に認定され、そこから水位が上がるごとに買い取り価格が下がっていくのだという。
では、実際に水没車の買取を請け負う業者はどのように水没車を扱っているのか、現地で業者を直撃取材した小沢コージ氏に次のページから報告してもらうことにした。
■実はかなり値がつく!? 水没車業者直撃〈REPORT/小沢コージ〉
衝撃! 目からウロコが落ちたぜ。それは知られざるクルマ版死後の世界であり、今台風19号の被害で深刻な水没車、専門的には「水害車」と呼ばれる被災車の世界だ。
取材したのは九州。最近、台風や大型梅雨前線の被害に遭うことが多く、過去3年間で5回の大規模水害を発生。19号直前の2019年8月28日にも線状降水帯を原因とする記録的大豪雨で、佐賀県始め九州北部で多数の水害車を生み出した。
そこで小沢は事故車、水害車、故障車専門の株式会社タウを直撃。佐賀県の臨時モータープールで福岡支店長の信國健介氏に話を聞いてきた。
故障車専門の業者、株式会社タウの福岡支店、信國健介氏に話を聞いた
佐賀豪雨では約1万台の水没車が発生。発生日からざっくり3カ月で収束させるというが、今回はそのうち約6000台が廃車。一時抹消か永久抹消となる。しかし、そのうち本当に鉄屑になるのは35%に過ぎず、残りは再利用されて全体のうち約4000台はナンバーそのままで修理されたり、売却されたりする。
なぜなら水害車にもいろんなレベルがあり、俗にいう屋根まで水に浸かった冠水車もあれば、ステップ下に留まる軽度なものもあり、清水、泥水、海水と浸かる水の質によっても被害度は異なる。当然海水は塩害も伴うので深刻度は自ずと高まるのだ。
まず、タウでは浸かった水の高さでザックリ被害度を分けていて、軽いものから順にステップ(フロア)下、ステップ上、シート上、ダッシュボード、全冠水の5段階。さらにクルマの中古車相場が買い取り額の元となり、そこから修理見積もりをし、直った時にいくらで売れるかで金額が決まる。
例えば今回小沢が佐賀で見た4~5年落ちのトヨタ マークXはそのままであれば中古車相場100万~120万円。しかし、全冠水で車内は泥水パックでインパネ、シート、エンジンルームと覆われすでにボロ雑巾のような匂いでムンムン。でも水は淡水だったので買い取り額は15万~20万円。見る人にもよるが小沢は案外高いじゃん! と思った。
泥が落とされているため、外見だけではわからないが、こちらのマークXは被害が深刻な1台
泥水に浸水したため、インテリアはすべて乾いた泥に覆われていた
しかもこれは段階順に価値が高まり、ダッシュボードレベルで20万円、シート上で30万円、ステップ上で40万円、ステップ下なら40万~50万円の値がつく。水没は水没でも床下浸水なら半額が残る可能性があるのだ。最も個々の被害レベルで価格は異なるが。
また被害度を大きく分けるポイントは水没後にエンジンをかけていたか止めてたか。走りながらノーズが水に浸かり、エンジンが水を吸い込むことを専門家はウォーターハンマーと呼び、そうなるとエンジンはダメになる。急激に冷やされることでピストンなどが割れ、パーツのなかで最も高値で取引されるエンジンに値がつかなくなる。それだけで30万~50万円は異なる。
さらに気になっていたのはEVとハイブリッドの扱い。フル電化商品なのでてっきり水に弱く、低値安定かと思いきや、ガソリン車と変わらないか時に高値がつく。
なぜならガソリン車でもEVでも直す部分は電気系統と変わらないし、逆にエンジンがないぶん、故障する範囲が狭まるので安心。また日本製EVだと防水加工はバッチリで、実際小沢が現場で見た3年落ちリーフはシート上水没なのに下取り100万円! 基本は中古車相場に比例。「電動車は水没に弱い」はウソだったのだ。
パッと見では水没車に見えない先代リーフ。2016年モデルで3年落ちだが、買取価格は100万円の値がついた
メーターも作動しており、完動状態だったリーフ。実はシート下まで水没していたクルマとは思えないレベルにまで戻っている
■なぜ海外では引き合いがあるのか? 水没車取材で見えたもの
正直、誤解も多い水害車。特に神経質な日本では比較的いいイメージは持たれておらず高値がつきづらい。それはフレームまで被害が及んでなくても、板金修復歴があるだけで下取り価格が下がってしまう状況と似ていて、日本車を骨の髄までしゃぶるロシアやアジアでは水害だろうが事故車だろうが、程度を見て買い取るという。
逆に水害車は事故車と比べて、フェンダーやらガラスやら欠損部品が少なく、電装品だけ直せば動くケースは多い。特にハイエースなどは内装を取っ払って改造するケースも多いので、機関さえ上等なら大丈夫! という感覚なのかもしれない。
ましてや日本では修復歴同様、水害車を販売する場合は告知義務がある。機関万全で匂いが残ってなくとも「水害車」と聞くだけで敬遠する人も多い。繊細すぎるニッポンならではの現象だ。
その点タウが凄いのは広い海外ネットワーク。世界119カ国に水害車や事故車の販売ルートを持っていて、佐賀豪雨ではロシア、パキスタン、UAE、フィリピンなどに多くが売られていったようで、被害ランクが高くても比較的値段がついたりする。
具体的にはグローバル人気のランクルやハイエース、プリウスは全冠水でも高値がつく可能性があるのだ。逆に国内向けの軽は厳しかったり。今回見たなかで具体的に興味深かったのは10年落ちのR35GT-Rで、シート上水害レベルでなんと買い取り200万円。行き先は決まってないが基本は海外とか。
浸水被害に遭い、サイドガーニッシュが外れた10年落ちのR35GT-R。シート下まで浸かった個体だが、200万円の下取り価格がついた
こちらは水没したGT-Rの内装。通常の10年落ちのGT-Rの下取り価格の相場は、標準グレードで約350万円といったところ。浸水でもブランド力は抜群!?
また、事故車や水害車、故障車専門のタウのお仕事だが、水害車買い取りにしろ経済的支援、復興支援の側面があることはあまり知られてない。
例えば、水害に遭った被災者の方がまず優先するのは家屋。優先順位として「クルマより家」なので、まず家をキレイにし、乾かし、住めるようにすることを優先する。あげく大量の荷物を出す時に、急に駐車場が必要になり、突如「早くクルマをどかしてくれ」となる。
よって業者が意識しているのは早期引き取りであり、早期の値づけ。水害車がその後いくらの値段で売れるかを、すばやく予想し、市場価値を正確に見積もらなければいけない。高値で買いすぎると会社が損をするし、低値で買いすぎるとユーザーが損をする。
今もまだまだ水害車に値段がつくことを知らない人は多い。被災した時こそ冷静に。「水害車買い取り」をぜひネット検索していただきたい。
しかし、こういう被災シーンの場合、冷静に見積もりしている時間的心理的余裕がなく、すぐ駐車場を開けたい、いくらでもいいから持ってってくれ、となりタダで引き取られることも。逆にお金を払って持っていってもらうことも多いという。
専門業者、タウの佐賀県内にある臨時モータープールには、浸水被害に遭った水没車がズラリと並んでいた
続々とモータープールには水没車が運ばれてくる。水害車買取には、復興支援の側面があるということも念頭に置いてタウでは引き取っている
〈小沢コージ〉
■水没したハイブリッド車は危険なのか?
ハイブリッド車やEVなど高電圧なバッテリーを搭載しているクルマは、水没した場合に漏電する危険性はあるのだろうか。
国沢光宏氏によれば、「国産のハイブリッド車ならクルマの取扱説明書に『事故時は触れないように』と明記されているが、これはメーカー側が万が一の漏電の危険性を勘案してそう記載しているのに過ぎない。
実際には漏電の可能性はない。なぜなら精密で大きな容量のブレーカーが瞬時に作動して漏電を防ぎ、仮に電池に釘が刺さったとしても漏電しないように設計されている」という。
プリウスなど高電圧なバッテリーを搭載するハイブリッド車は、冠水時に漏電する危険性を指摘する声もあるが……
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