現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 昭和天皇の御料車に座った!「タイプ770」通称「グロッサー・メルセデス」には後席から運転手に走行指示をするリモコンがあった!?【クルマ昔噺】

ここから本文です

昭和天皇の御料車に座った!「タイプ770」通称「グロッサー・メルセデス」には後席から運転手に走行指示をするリモコンがあった!?【クルマ昔噺】

掲載 5
昭和天皇の御料車に座った!「タイプ770」通称「グロッサー・メルセデス」には後席から運転手に走行指示をするリモコンがあった!?【クルマ昔噺】

昭和天皇のクルマは今もメルセデス・ベンツ・ミュージアムに展示

モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。若い時、ドイツ(当時は東西分断で西ドイツ)に留学していた中村氏が取材でダイムラー・ベンツ・ミュージアム(現在のメルセデス・ベンツ・ミュージアムの前身)を訪問したときに見た「タイプ770」を振り返ってもらいます。

ヤマハが見た夢「OX99-11」とは? F1エンジンをデチューンしてロードカーに搭載…ロンドンでの初公開ではジョン・ワトソンがドライブ【クルマ昔噺】

宮内庁はタイプ770を合計7台輸入

メルセデス・ベンツのミュージアム(当時はダイムラー・ベンツ・ミュージアム)を初めて訪れたのはたしか1977年のこと。ドイツ中の自動車博物館を見ようと、足しげく回った。それが実って1978年には『世界の自動車博物館』シリーズという本をカースタイリング出版から刊行することになり、その取材のために2度目のダイムラー・ベンツ・ミュージアム訪問。そして3度目は別の企画で本を出すことになって再び訪問した。

この博物館には御存知の通り、昭和天皇がお乗りになった「タイプ770」、通称「グロッサー・メルセデス」が展示されている。敢えてうるさく言うつもりはないが、グロッサーという発音は間違いで、本来ならグローサーが正しい。ドイツ語独特のウムラウトを省いて呼んだ結果グロッサーになったのだろう。まあ、それはどうでも良い。

戦後昭和天皇がご移動の際にはこのクルマが頻繁に使われ、私も現物は見たことがなかったが、テレビなどでは拝見していた。それがただ1台、オリジナルで残ったモデルがダイムラー・ベンツ・ミュージアムに展示されていたのである。宮内庁はこのタイプ770を合計7台輸入したという。

それらはいずれも第二次世界大戦の戦禍を潜り抜け、戦後まで生き残ったそうだがこの博物館の1台を除き、他の6台は全て解体処分となったようである。

タイプ770は2種類存在する

タイプ770と呼ばれるメルセデスは1930年から1938年まで生産されており、聞くところによれば宮内庁が購入したのは1932年式と1935年式。そして現存するのは1932年式の方だ。いずれのモデルも巨大な7655ccの直列8気筒エンジンを搭載していたが、単に「770」と呼ばれるものと「770K」と呼ばれる2種が存在する。後者にはスーパーチャージャーが装着されていた。

スーパーチャージャー無しは最高出力150ps。一方のスーパーチャージャー付きは200psのパワーを持ち、後者のトップスピードは160km/hに達した。ただし、燃費の方はすこぶる悪く、100kmあたり30Lを消費したというから、3.3km/Lというところ。タンクは120L入りだそうだが、それでも300kmちょっとの航続距離しかなかったことになる。ちなみに当然のことながら第2次大戦中はヒトラーも装甲したこのクルマを使っていた。装甲した場合その車重は4.8tにも及んだというから、あまり走りは期待できなかったことだろう。

現在も昭和天皇のクルマは、メルセデス・ベンツ・ミュージアムに展示されていて、もう1台、旧ドイツ帝国最後の皇帝、ヴィルヘルム2世のクルマとともに並んでいる。ヴィルヘルム2世のクルマは「カブリオレF」と呼ばれるもので、4ドアの巨大なオープンモデルである。同じ1932年式だそうだが、プルマンリムジンの天皇御料車と比べて少しモダンに見える。

>>>もうすぐ発売! メルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.222を読みたい人はこちら(外部サイト)

乗り込んで撮影することができた!

さて、宮内庁がこのクルマをドイツ本国に戻すにあたり、菊のご紋はフェイクが用いられ、花弁の数が異なるという話を聞いたことがあるが、何度行っても花弁の数など数えたことがない。残念ながら写真でも確認する術はないからわからない。

そして、1998年になって、とある取材で再びこのダイムラー・ベンツ・ミュージアムを訪れ、いつも通り(もう何度訪れたかわからないので)天皇御料車に対面してきた。この時は博物館が休館日だったこともあり、ダイムラーのお目付け役が同行していたのだが、その時に限ってなぜか、「室内の写真を撮ることは可能か?」と聞いてみると、「OK」と言って、いとも簡単にリアドアを開けてくれて、めでたく玉座と対面した。

じつはその撮った写真がどうしても見つからず、極めて残念である。中を見るだけでもすごいことだったのに、なぜかその時はついでとばかり、「乗っても大丈夫か?」と聞くと、これもあっさりとOK。それがここに紹介する写真である。一緒に同行した編集者と御料車の後部座席に収まってしまった。

私の座る側にはリモコンのようなものが置いてあり、そこには「右に曲がれ」、「左に曲がれ」、「もっとゆっくり」、「もっと速く」などと書かれたボタンがあり、恐らくはドライバーズシートにその情報を飛ばす仕組みになっているのだと思う。天皇陛下御自身がそうした操作をやるとは思えないので、私が座った側は本当の玉座ではないらしいので少し気が楽である。

きっと今は開くことはないであろうリアドアである。今から30年近く前はまだベンツもおおらかだったのか、あるいは日本人の天皇陛下に対する思いが理解できなかったのか、いずれにせよもう2度とない体験であった。

>>>もうすぐ発売! メルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.222を読みたい人はこちら(外部サイト)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

フランスの高級車ブランド「ファセル・ヴェガ」を知っていますか? スターリング・モスがアンバサダーを務めるも10年でなくなった理由とは【クルマ昔噺】
フランスの高級車ブランド「ファセル・ヴェガ」を知っていますか? スターリング・モスがアンバサダーを務めるも10年でなくなった理由とは【クルマ昔噺】
Auto Messe Web
バブリー感たっぷりなベンツ「500SEC」をガルウイングに! 80年代欧州チューナー魔改造車の現在の評価は? 当時はベースの2倍以上でした
バブリー感たっぷりなベンツ「500SEC」をガルウイングに! 80年代欧州チューナー魔改造車の現在の評価は? 当時はベースの2倍以上でした
Auto Messe Web
80年代バブル当時、六本木界隈で存在感抜群だったアルピナ「B9 3.5/1」が1000万円オーバーで落札! ヤングタイマー人気で今後の価格に要注目
80年代バブル当時、六本木界隈で存在感抜群だったアルピナ「B9 3.5/1」が1000万円オーバーで落札! ヤングタイマー人気で今後の価格に要注目
Auto Messe Web
首都高速で間一髪の衝突回避もホイールキャップが…エンジンのオーバーホールが決まった矢先にごめん、ゴブジ号【週刊チンクエチェントVol.49】
首都高速で間一髪の衝突回避もホイールキャップが…エンジンのオーバーホールが決まった矢先にごめん、ゴブジ号【週刊チンクエチェントVol.49】
Auto Messe Web
『サーキットの狼』の中でもランボルギーニ「ミウラ」は別格だった! 憧れの地「ミウラ牧場」を訪ねる夢を実現しました【極私的スーパーカーブーム】
『サーキットの狼』の中でもランボルギーニ「ミウラ」は別格だった! 憧れの地「ミウラ牧場」を訪ねる夢を実現しました【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
昭和の日本レース黎明期を牽引した「タキ・レーシング」とは? ポルシェが無造作に並んでいた世田谷のファクトリーを振り返る【クルマ昔噺】
昭和の日本レース黎明期を牽引した「タキ・レーシング」とは? ポルシェが無造作に並んでいた世田谷のファクトリーを振り返る【クルマ昔噺】
Auto Messe Web
750万円で「V12」が手に入る!? BMW「850Ci」が再評価されつつあるいま、リトラクタブルヘッドライトの「8シリーズ」に注目です!
750万円で「V12」が手に入る!? BMW「850Ci」が再評価されつつあるいま、リトラクタブルヘッドライトの「8シリーズ」に注目です!
Auto Messe Web
愛車の履歴書──Vol58. 雛形あきこさん(後編)
愛車の履歴書──Vol58. 雛形あきこさん(後編)
GQ JAPAN
20年かけてレトロな「メッサーシュミット」を完調に仕上げた!「飛べない戦闘機」で平和に地元のワインディングロードをのんびり楽しんでます
20年かけてレトロな「メッサーシュミット」を完調に仕上げた!「飛べない戦闘機」で平和に地元のワインディングロードをのんびり楽しんでます
Auto Messe Web
「365GTB/4デイトナ」の出没情報を聞いて張り込み! フェラーリへの憧れは遅効性で人生を変えてしまいました【極私的スーパーカーブーム】
「365GTB/4デイトナ」の出没情報を聞いて張り込み! フェラーリへの憧れは遅効性で人生を変えてしまいました【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
ジープTJ型「ラングラー」の謎モデル「トレイルキャット」とは?「いかにもありそうな仮想の限定車を自分で設定しました」
ジープTJ型「ラングラー」の謎モデル「トレイルキャット」とは?「いかにもありそうな仮想の限定車を自分で設定しました」
Auto Messe Web
『サーキットの狼』を読んでいた幼稚園児が「カウンタック」の生みの親である「スタンツァーニ」さんにどうやって巡り会えた?【極私的スーパーカーブーム】
『サーキットの狼』を読んでいた幼稚園児が「カウンタック」の生みの親である「スタンツァーニ」さんにどうやって巡り会えた?【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
70年代の夜の六本木で出会ったロータス「ヨーロッパ SP」! 英国ロック好きの若者のハートに突き刺さりました【極私的スーパーカーブーム】
70年代の夜の六本木で出会ったロータス「ヨーロッパ SP」! 英国ロック好きの若者のハートに突き刺さりました【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
ランボルギーニ「エスパーダ」やマセラティ「ギブリ」が審美眼を養ってくれた! スーパーカーの「基準」は美しいスタイルでした【極私的スーパーカーブーム】
ランボルギーニ「エスパーダ」やマセラティ「ギブリ」が審美眼を養ってくれた! スーパーカーの「基準」は美しいスタイルでした【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
ディーノ「206/246」は『サーキットの狼』沖田の悲劇とフェラーリ家の逸話がクロス…イタリアまで足跡を追いに行きました【極私的スーパーカーブーム】
ディーノ「206/246」は『サーキットの狼』沖田の悲劇とフェラーリ家の逸話がクロス…イタリアまで足跡を追いに行きました【極私的スーパーカーブーム】
Auto Messe Web
日産「サファリ」から三菱「ジープ」へ! お気に入りは英国旧車のような十字スポークのステアリング…直径32インチタイヤが迫力満点
日産「サファリ」から三菱「ジープ」へ! お気に入りは英国旧車のような十字スポークのステアリング…直径32インチタイヤが迫力満点
Auto Messe Web
日産「フェアレディZ」からマツダ「アテンザ」に乗り換え! 大人セダンに憧れたはずが後席に巨大な…ハイドロで「パシュッ」と下げて遊んでます
日産「フェアレディZ」からマツダ「アテンザ」に乗り換え! 大人セダンに憧れたはずが後席に巨大な…ハイドロで「パシュッ」と下げて遊んでます
Auto Messe Web
200万円のトヨタ100系「チェイサー」を450万円かけドリ車に! 20代の頃を思い出して「ワイスピ」と「ナイトライダー」のテイストを取り入れカスタム!
200万円のトヨタ100系「チェイサー」を450万円かけドリ車に! 20代の頃を思い出して「ワイスピ」と「ナイトライダー」のテイストを取り入れカスタム!
Auto Messe Web

みんなのコメント

5件
  • dar********
    戦前は「宮内庁」ではなくて「宮内省」だった。カーグラフィックの小林編集長がベンツの博物館に行った時にはエンジンをかけて走ってくれたという記事が古いカーグラフィックに載っている。博物館の人が運転して走り出して意外に力強く走ったが、頑張り過ぎたのか途中でラジエターから湯気を吹いて止まったそうです。
  • won********
    ウムラウトじゃなくてエスツェットだろ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

146.3190.3万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

34.8201.3万円

中古車を検索
タンクの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

146.3190.3万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

34.8201.3万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村