356スピードスターや914、944ターボ・カブリオレ、964カブリオレ、初代ボクスターをドライブ!
これまでも911の50周年に合わせた歴代911一気乗りや、トランスアクスル・モデルのテストドライブ、さらに発祥の地ともいえるスイスを舞台にした356ツーリングなど、様々な企画を催してきたポルシェ・ミュージアムが、また新たな催しを立ち上げた。それがこのポルシェ・ヘリテージ・エクスペリエンスだ。
「ミュージアムというと過去ばかりをみているようだけど、現在があるからこそ、未来に繋げることができる。だからクラシック・モデルも今体験することが大事なんです」
ポルシェ・ミュージアムのアヒム・ステヤスカル館長は、プログラムの意義をそう話す。
「実はこのプログラムは2年前に中国でスタートする予定でしたがCOVID-19の影響で中止になってしまった。世界各地を訪ね、その文化、自然、歴史、そして今をクラシック・モデルを通じて触れてもらいたいのです」
今回の舞台となったのは、ハワイ島。今も活火山として活動を続けるマウナ・ロア、キラウエア、そしてコーヒー農園や、植物園から、フラなどの伝統文化、そして海洋温度差発電や、海洋深層水を使った養殖技術など、ハワイ島の様々な“今”を巡りながら、2日間に渡ってクラシック・ポルシェのドライブを楽しんだ。
わざわざシュトゥットガルトのミュージアムから持ち込んだという試乗車は、1956年型356Aスピードスター1600、1970年型914/6、1991年型944ターボ・カブリオレ、1992年型964カレラ2カブリオレ、2002年型ボクスター2.7と、ハワイに相応しい歴代のオープンモデルたちだ。
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低いウインドスクリーンが特徴の356スピードスターは、イギリスのスポーツカーに対抗してクラブマン・レースなどに使える軽量で安価なモデルとして登場。そのスタイルと高性能っぷりから、ジェームス・ディーンやスティーブ・マックイーンらにも愛された、50年代ポルシェのアイコンというべき1台である。
ハワイの爽やかな空の下、オープントップにして走るのは最高だが、改めて驚くのはリヤタイヤにトラクションが掛かっていれば、どのような状況下でもコントローラブルなハンドリングだ。オープンモデルでありながら強固なフロアパンに支えられた剛性の高いシャシー、メカニカルグリップに優れた足回り、コンパクトかつパワフルで扱いやすい1.6Lフラット4エンジン……その全てが絶妙にバランスしているのが、よくわかる。もちろん、動力性能的に今の路上で走っていて不満に思うことは1つもない。
改めてこんなスポーツカーを65年以上前に生産していたポルシェの底力には驚くばかりだが、その後に乗った914/6もまた衝撃的だった。
914の登場は1969年と、市販ミッドシップ・スポーツとしては初期に属するが、そのファンで安定したハンドリング、そして素晴らしいスペースユーティリティは現在でも十分通じるものがある。今回ドライブしたのは、914に110psの911T用の2Lフラット6を搭載した914/6。パワフルながら大きく重いエンジンを積むことで、バランスが崩れるかと思いきや、パワーとトルクに余裕がある分乗りやすく、914の魅力をより上手に引き出しているように感じた。
この適度にパワフルでコントローラブルでファンというキャラクターは、220psの2.5L直4ターボとトランスアクスルを組み合わせた944ターボにも、そして964カレラ2カブリオレにもピタリと当てはまる。
中でも944は、このまま市場に出しても十分に通用すると思うほどの完成度の高さだった。ただ、唯一物足りなく思うのは「ポルシェらしさに欠ける」気がすることだ。試乗中、ずっとそのことを考えていたのだが、次に初代986型ボクスターに乗って気がついた。
それはドライバーの背後にエンジンがあるという当たり前だが決定的な違いだ。背後から聞こえるエンジンの鼓動、そしてリヤタイヤが路面を蹴って前に進むトラクション感、軽いノーズゆえの切り込みの鋭さ、ボクスターはそうした誰もが想起する「ポルシェらしさ」を徹底的に研究し尽くして生まれたスポーツカーなのだ。
それもこれも、ハワイの素晴らしいワインディングで、5台を乗り比べたからこそわかることなのは間違いない。そういう意味でも実に興味深く、かつ心底楽しいプログラムだった。
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