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結局「歩兵戦闘車」の役割は 変わる戦車との関係性 紆余曲折を重ねたブラッドレー2後継開発

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結局「歩兵戦闘車」の役割は 変わる戦車との関係性 紆余曲折を重ねたブラッドレー2後継開発

歩兵戦闘車とは

 ウクライナで、レオパルト2戦車と協同していたと思われるM2ブラッドレー歩兵戦闘車がまとまって破壊され、煙を噴き上げている画像が現在SNSに投稿されています。西側戦闘車の残骸を見慣れていない層には一定のショックを与えたようですが、この画像から戦車と歩兵戦闘車、歩兵の関係が見えてきます。

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 歩兵戦闘車とは、第2次大戦の経験から戦車と歩兵の協同が重要なことが確認され、それを有効に行うために生まれたカテゴリーの装甲車です。戦車は火力と防御力、機動力に優れ陸戦の骨幹といわれますが、視界が狭いので隠れている敵歩兵を発見できず、対戦車火器の不意打ちを受ける危険があります。その脇を固めるのが歩兵戦闘車です。

 下車展開した多くの歩兵分隊が隠れている敵を見つけ出し、たとえ攻撃されてもすぐに反撃が可能です。歩兵戦闘車は機関砲や対戦車ミサイルも搭載し、歩兵にも、戦車にも頼りにされるパートナーなのです。

 戦車と協同することが前提だった歩兵戦闘車ですが、21世紀に入ると本格的な機甲戦は起きないと考えられるようになり、歩兵戦闘車は戦車ほどではないにせよ、それなりの火力と防御力を持ち、歩兵も添乗できるマルチな戦闘車として捉えられるようになっていきます。そのひとつの姿が、アメリカ陸軍がM2ブラッドレーの後継として開発しているOMFV(任意人員配置戦闘車)です。

 任意人員配置とは日本語に訳すと分かりにくいのですが、必要に応じて無人でリモコン操縦も可能な戦闘車ということを意味します。アメリカ陸軍が将来戦で目指す「次世代戦闘車システム」(NGCV)プログラムの一部で、戦闘車両をより軽量に、かつネットワーク化し近代化しようというものです。OMFVは2023年から、「XM30機械化歩兵戦闘車」と呼称されることになりました。

コロコロ変わる要求仕様

 M2ブラッドレーの原型完成は1978(昭和53)年であり、後継車開発プログラムは20年の紆余曲折を経ています。2003(平成15) 2009(平成21)年には兵力近代化構想「フューチャー・コンバット・システム」(FCS)が立ち上がりますが、予算超過と計画遅延でキャンセル。2009 2014(平成26)年には、「グランド・コンバット・ビークル」(GCV)が予算の見直しと複雑すぎる内容でキャンセルされています。2014 2020年には、NGCVプログラムの中で第1次ともいうべきOMFVが立ち上がりますが、入札不調でとん挫します。

 こうしている間にもM2ブラッドレーの老朽化は進行し後継問題は待ったなしになっていきます。陸軍は要求仕様と応札条件を緩和して4回目の仕切り直しをし、第2次OMFVがようやく形になってきたのです。

 このプログラムに応札していたのは5つのメーカーチームですが、アメリカ陸軍は2023年6月26日にゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)のチームとアメリカン・ラインメタル(ARM)のチームを、詳細設計やプロトタイプの製造とテスト段階に進むチームに選定しました。ちなみにGDLSは、NGCVの中の近接戦闘火力(MPF)として制式採用されたM10ブッカーのメーカーです。

 キャンセルと再立ち上げを繰り返した要因のひとつが、何度も要求仕様が変わるということです。M2の能力向上型なのか、どの能力向上を重視するのか、新しい機能を付加するのか、そもそも戦車と歩兵戦闘車のような区別が将来も必要なのかなどが議論され、そのこと自体は歩兵戦闘車というカテゴリーの立ち位置がはっきりしていないということの証左かもしれません。

新しい戦闘チーム構想のハブ機能に特化するのか?

 OMFVは任意人員配置という名が示すように、当初は無人化によるロボティックス技術を盛り込んでいましたが、プログラムが進むにつれて技術開発が追いついていないようで、無人化の要素は重視されなくなっています。一応XM30は、地図上のウェイポイント間を自律走行する機能を備えることになっていますが、無人戦闘能力付与はさらに後になりそうです。空では無人機が活躍していますが、地上ではまだハードルは高いようです。

 XM30はM2ブラッドレーよりも乗員や歩兵収容数は減ります。M2は乗員3名、添乗歩兵7名ですが、XM30は乗員2名、添乗歩兵6名となります。武装は強化され、50mm機関砲を装備します。またアクティブ防御システム(APS)を採用し、防御力向上も図られています。

 目玉となっているのがドローンの運用能力付与です。アメリカ陸軍には無人機、無人車を部隊に参加させる「有人無人戦闘チーム」という構想があり、XM30はドローンの発射、制御管制機能を含むこの戦闘チームのハブ機能も期待されています。

 一方ロシア・ウクライナ戦争では、戦車が歩兵戦闘車の役割を兼ねるような場面も見られます。戦車の本来任務とされていた対戦車戦闘はほとんど起こらず、戦車が歩兵の支援や砲兵のような砲撃戦を行っています。ロシアがT-55戦車のような、1960年代の旧式戦車まで持ち出していることに西側の一部は嘲笑しているようですが、歩兵支援なら十分な戦力になります。戦車は歩兵戦闘車より火力も防御力も優れるからです。歩兵にしてみれば乗車こそできませんが、旧式でもBMP歩兵戦闘車よりT-55の方が頼りになります。

 結局、歩兵戦闘車の任務は何がふさわしいのか。アメリカ陸軍が歩兵戦闘車の将来形を、XM30でどのように具現化していくのか注目されます。マルチな戦闘車は歩兵戦闘車からではなく戦車から生まれ、歩兵戦闘車は直接戦闘しないネットワークのハブに特化した指揮通信車になってしまう可能性もあります。

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みんなのコメント

5件
  • ライメタルが開発したKF51 パンターにもドローンを使う機能があるとか。ウクライナ戦争でもそうですが、これからはドローンを使った戦術が主となりそうです。自衛隊もドローン活用の戦術研究を行うべきでしょうね。しかし一つの兵器に何もかも詰め込みすぎですね。シンプルに歩兵線輸送と火力支援車を分けるべきかも。
  • ブラッドレーといえば「ペンタゴン・ウォーズ」のイメージが強すぎて…
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