昨年はトヨタがチャンピオンに輝いたSUPER GT。ホンダNSXも速さを取り戻しつつあり、GT-Rも最終戦で最高のポテンシャルを発揮した。史上最年少23歳コンビがGT500クラスチャンピオンに輝いた2017年のSUPER GT。若手にありがちな勢いに身を任せることなく、彼らはSUPER GTで勝つために必要なアプローチをどのコンビよりもより忠実に果たしてきた。
フォーミュラよりもベテランの巧みなレース運びが勝負を左右すると言われるSUPER GTだが、最年少コンビは、実のところしたたかな試合巧者だったということになる。果たして、2018年はこのふたりに匹敵するコンビは出現するのか? 各メーカーが目論む新たなシーズンとは? SUPER GT、GT500の3社のファンが期待すべきことはこれだ!!
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文:島村元子/写真:塩川雅人
■トヨタは今年も若手が躍進!? GT300からのステップアップにも期待
ワンシーズン前の話になるが、元F1ドライバーのヘイキ・コバライネンが参戦2年目で、2016年のGT500クラスチャンピオンに輝いた。レース中のコバライネンは、フォーミュラレースの頂点で戦っていたドライバーならではのスキルをツーリングカーに見合うスタイルへと見事にスイッチ、SUPER GTで勝つための走りを見せていた。前を走るライバルへつねにプレッシャーをかける一方、自身はいたって冷静沈着。そして僅かなスキをついて逆転を果たす…。そう何度も巡ってはこない好機を確実にモノにできることを証明してみせた。
コバライネンのような百戦錬磨のベテラン、しかも世界中のあらゆるサーキットで多くのマイレージを稼いだドライバーであるならば、柔軟性の高さを備えていることは容易に想像できる。だが、2017年のチャンピオンコンビである平川亮/ニック・キャシディ組(No.37 KeePer TOM'S LC500)は、23歳にしてそのスキルを身に着けていたように思う。
チャンピオンになった23歳コンビ。2018シーズンも連覇に期待がかかる
ところで、平川とキャシディのふたり。同い年の場合、日本人の方が若く(精神年齢含め)見られることが多いと思うのだが、彼らの場合は逆の感じ。口数が少なく、感情をあまり表に出さない平川対し、勝ってはしゃぎ、負けてヘコむキャシディ。似たもの同士とはいい難い。
とはいえ、シーズン中の平川は「言語が違うから、お互い理解していたようでも微妙に解釈が違ったりするので、必要以上にというか積極的にメールや電話だけでなく、直接会ってコミュニケーションを取るようにしている」と、外国人とコンビを組むことを厭わず率先してできることに取り組んでいた。また、キャシディもキャシディで"タメ年"の日本人をリスペクトし、互いの良さを引き出す努力をしてきた。遠慮のなく真正面から”共同作業”を進めることができたからこそ、チャンピオンという勲章を得られたのだろう。
これに対し、最終戦であっけなく勝機を逃したのが、No. 6 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/アンドレア・カルダレッリ組)。開幕戦から2戦連続で表彰台に上がるも、優勝は果たせず。しかし、総合力の高さを武器にランキング2位で最終戦を迎えた。ところが、決勝ではフォーメーションラップ中の接触等で不運が重なり、終わって見れば13位という悔やみ切れない結果に。序盤から安定した速さを見せながらも、あと一歩で優勝を逃してきたツケがこの最終戦で表れた、と言ってしまうにはあまりにも惜しい。
大嶋、カルダレッリともレースキャリアは充分、レース中の安定感も申し分ない。だが、今のSUPER GTはそれだけでタイトルは獲れない。昨シーズンの6号車はその最たる例であったと言えるだろう。ほんのちょっとの綻びが、あっという間に取り返しのつかない痛手となる。その怖さをどのチームよりも体感したのが6号車だったのだ。
最終戦でアクシデントに見舞われた6号車。ドライバーはもとより、そろそろ勝たせてやりたいと寿一監督も思っていることだろう
1月下旬時点で、今シーズンのチーム体制発表はまだ正式に発表されていない。だが、水面下ではドライバーのシャッフルが噂されている。平川とキャシディのコンビは不動だろうが、もう一台のTOM'Sをはじめ、コンビネーションに変化があるチームが多くなるだろうと言われている。GT300クラスからのステップアップを含め、新たな顔ぶれに期待がかかる。
■日産はテコ入れが必要か!? 絶対的強さを取り戻せ
トヨタ同様、まだ体制発表を行っていない日産。昨年のタイトル争いでは、松田次生/ロニー・クインタレッリがギリギリまで平川とキャシディに迫った。シーズン序盤、大不調だった日産勢の中で唯一連戦ポイント獲得を続けることができたのは、NISMOとしての総合力も大きいが、2014、2015年連続で松田とクインタレッリが2人揃ってタイトルを手にしている経験値が大きいはず。
23号車は最終戦でキッチリ勝ったもののシーズンは落とした
ウェイトハンディを採るSUPER GTならではの戦い方を熟知し、その都度ベストなレースを心がけた。綿密に練られた戦略、それを着実に実行するドライバーのスキルの高さ…。すべてが噛み合う状況をコース上で作り上げることで、ベテランらしいしたたかさを見せつけられた。
46号車に乗る千代勝正は次代のエースになるのか!? ミシュランでの経験を積んでいずれは23号車か
いっぽう、クルマの熟成という部分ではライバルに遅れを取った感は正直否めない。今シーズンのスタートラインに向け、相当なテコ入れは始まっているだろうが、加えて日産もドライバーラインナップ変更の予定アリと言われている。NISMOのコンビは継続だろうが、若手ドライバーのチーム移籍やステップアップによるリフレッシュ効果!? による躍進を狙っているようだ。
■バトン参戦でホンダ陣営はまとまるか!? 今年は躍進のNSXに期待
早くも今シーズンの体制を明らかにしたのが、ホンダ。その目玉となるのは、何と言ってもジェンソン・バトンのフル参戦に他ならない。昨シーズン、鈴鹿1000kmにスポット参戦した際には非凡な才能を遺憾なく発揮、ハンパない熱烈ファンが押しかけたパドックのテンションは最後まで冷めることがなかった。
いきなりのSUPER GT車両(もちろんテストはしたが)、しかもNSXへの装着としてはシーズン1年目となるヨコハマタイヤでの戦い。お世辞にも万全な体制とは言い難い中、ポテンシャルを最大限引き出そうとするパフォーマンスは、F1での百戦錬磨があってこそだったろう。
バトンはテストも精力的にこなす。いくらF1ドライバーとはいえ、GTへの転換はかなり大変な部分も多そうだ
そのバトンがコンビを組むのはホンダのエース、山本尚貴。チームはチームクニミツとなる。昨年、ホンダ勢としてランキングトップにつけたチームでどのような走りを見せるのか。勝利への探究心が強い山本とのコンビにより、これまでよりもさらなる高みを目指すことになるはずだ。加えて、コンビ結成3年目を迎えるKEIHIN REAL RACINGの塚越広大/小暮卓史コンビにも注目。ともに一発の速さとレース中の粘り強さがウリの実力派ドライバー。ゆえに、すべての要因がパチッと組み合わされば怖いものナシの存在になり得る。
KEIHINのコンビは熟成が進んでいる。一発の速さとレースのペースを守ることが求められるGTではかなり強いタッグだ
なお、NSX勢全体としては、2016年の厳しいシーズンから一転、昨シーズンはポールポジションを4回獲得し、2度の優勝を達成する活躍を見せた。一方、チームとしての戦歴にムラが多く、シリーズランキング最上位はチームクニミツの7位どまり。ライバルメーカーと遜色ない戦いが進む中で、よりいっそうの安定感が求められそうだ。
現在、各メーカーはオープニングに向けて開発テスト等を実施。厳冬の中、国内サーキットの”準備演習”が回を重ねるごとに、2018年シーズン開幕がまた一歩、近づく。
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