タイヤは装着後に「成長」するもの
クルマの消耗品の中でも重要度が高く、しかも高価なタイヤ。せっかく新しいタイヤを購入したら、いい状態で、少しでも長持ちさせたいもの。そのための大きなカギを握っているのが、“新品タイヤのナラシ”
「新車や、オーバーホールしたエンジンのナラシなら知っているけど、タイヤのナラシって?」と思うかもしれないが、タイヤだってエンジンと同じ回転体で、しかも大きな部品なのだから、ナラシは必要だ。
タイヤのナラシの目的は、タイヤのゴムやカーカスコードなどの内部構造を安定させ、一定状態に落ち着かせること。新品タイヤをホイールに組んで、はじめて空気を入れるとタイヤ全体がストレッチされ、タイヤの構造部材が若干膨張する。
その結果、新品タイヤに交換後、約1ヶ月で空気圧が10~20kPa(約0.1~0.2kgf/cm2)減少する。これを「タイヤが成長する」(専門的には寸度成長)という。この装着初期の“成長期”には、発熱もしやすいので過酷な使用は避けるのがいいとされる。
また、新品タイヤは細かく見ると、グリップのいい部分とそうでない部分が点在しているので、馴染む前に、タイヤを滑らせるような走りをすると、グリップしづらい部分だけ先に減って、扁摩耗の原因になる。
もうひとつ、タイヤとホイールを組む際は、ビート部などにビートクリームを塗る。そのおかげで脱着しやすくなるわけだが、その分、交換した直後は、タイヤとホイールの位置がずれやすくなる。いわゆる「リムずれ」が起きやすいということ。
リムずれが起きると、せっかく合わせたウエイトバランスもずれるし、真円度だって狂ってくる。というわけで、リムと馴染んでフィット感が出てくるまで、できるだけ強いブレーキや急発進は避けた方がいい。
とくに路面温度の高い夏場、トラクションのいい4WDで、下からトルクがモリモリ出るエンジン特性のターボ車やディーゼル、ハイブリッド、大排気量車は、リムずれが起こりやすいので要注意。
さらに、ドライバー自身が、交換前のタイヤとの性能差に慣れるための時間だって必要だろう。
速度を抑えて夏タイヤなら100kmほど走行
さて、そんな重要な新品タイヤのナラシだが、具体的にはどうするのか。一般的なタイヤなら、急の付く操作を避け、80km/h以下で、100kmほど走ればOK。
スタッドレスタイヤなら、60km/h以下で、200km以上走るのが目安とされている(冬用タイヤは、交換してすぐに、十分な性能を発揮するのではないのだ!)。前記の通り、新品タイヤは“成長”するので、交換から一週間ほどたったら、もう一度空気圧を再調整しておくことも重要。
ちなみに、タイヤの表面を一皮むく、いわゆる「タイヤの皮むき」だけなら、数kmも走れば十分で、ナラシ走行とはほとんど関係がない……。ご存じのとおり、F1だって「タイヤマネージメント」の巧拙が、ドライバーの評価に直結しているぐらいなのだ。一般ドライバーもちょっとした気遣いで、タイヤマネージメントの上手い、賢いドライバーの仲間入りを果たしていきたい。
(文:藤田竜太)
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