7月15日に新型クラウンがワールドプレミアを控えている。今まで採用し続けていたFRからFFベースになることが話題で、さまざまな場面で賛否両論見かける話題車種だ。
そも、クラウンは「FR」「全幅1800mm以下」の2つを不文律に、その時代その時代にトヨタが採用する先進技術を搭載し、トヨタ流のおもてなしを表現し続けてきた。
間もなくクラウンが生まれ変わる今、改めて注目したい「ゼロクラウン」という存在
一方、クラウンは歴史的に挑戦を行う車種でもある。今回は挑戦の姿勢が色濃かった12代目、いわゆるゼロクラウンを通して、新型の行方を占ってみる!
文/片岡英明
写真/トヨタ、ベストカーweb編集部
■クラウンこそ、こだわりの日本車だ
日本を代表する伝統のブランドがトヨタのクラウンである。トヨタの技術の粋を集めて開発され、1955年にデビューした。今では日本の乗用車のなかで最も長い歴史を誇り、ステイタスの象徴ともなっている。
「いつかはクラウン」のキャッチフレーズからもわかるように、憧れの存在であり、オーナーになることを多くの成功者が夢見てきた。ユーザーフレンドリーな設計哲学に共感し、何台も乗り継ぐ熱狂的なファンも少なくない。
クラウンは誕生から70年近くもの間、初代のスピリットを受け継いできた。独自の技術、純国産の技術にこだわり続け、いつの時代も明日を担うエグゼクティブが満足するクルマ作りに邁進してきた。
高級セダンにふさわしい新しい技術を時代に先駆けて積極的に採用し、日本初、世界初のメカニズムも少なくない。もうひとつこだわったのは「ニッポン」らしさだ。歴代すべてのクラウンに「おもてなし」の精神が息づき、日本人が好む高級感と快適性に対するきめ細やかな配慮を注ぎ込んでいる。
■一方で挑戦を絶やさないのもクラウン
クラウンは、何度か大きな変革を行ってきた。今年7月15日にベールを脱ぐ新型の16代目は、カムリと同じプラットフォームを採用してFFのプレミアムセダンに生まれ変わる。メカニズムに加え、クーペを思わせる流麗なデザインもチャームポイントだ。
全長4930mm×全幅1840mm×全高1540mmという新型クラウン。カムリの最小旋回半径が5.7~5.9mなので、新型クラウンも同じくらいか?(画像はベストカー編集部作の予想CG)
クラウンは20年くらいに一度、驚くような変身を遂げるが、21世紀になって最大の驚きは、12代目のGRS180系クラウンだろう。ベールを脱いだのは2003年12月22日だった。
■「静」から「動」へ
東京の全日空ホテルでお披露目されたが、来場者を驚かせたのは「ZEROクラウン」のキャッチフレーズを掲げたことだ。それまで築いてきた伝統から解き放ち、「静」から「動」へと躍進する変革を掲げてゼロからの再スタートを断行した。
壇上に上がった当時の加藤光久エクゼクティブチーフエンジニアは、これまでのクラウンへの挑戦と言い切り、継承したのは精神のみ、と言い放っている。クラウンは国内専用モデルといえる存在だが、12代目は高級車の新しい基準を掲げ、世界に通用する走りを追求した。
劇的な変化を遂げたのは、プラットフォームとサスペンションだけではない。パワーユニットとトランスミッションも新設計だ。
ロイヤルシリーズと丸型リアコンビランプのアスリートシリーズを設定するのは先代11代目と同じだが、両方に新開発のV型6気筒DOHCを搭載している。ストイキ直噴を採用したD4エンジンは2.5Lの4GR-FSE型と3Lの3GR-FSE型があり、4GR-FSE型にはカギ型シフトの電子制御5速ATを、3GR-FSE型にはシーケンシャルシフト付きの6速ATを組み合わせた。
■クルマとしての本質を磨いた
また、2005年のマイナーチェンジを機に、アスリートにパワフルな3.5LのV6ユニットを追加している。クラウンとして初めて電動パワーステアリングを採用したのもゼロクラウンの特徴のひとつだ。
先代の直6からV6にエンジンが変更。フロントヨーモーメントが減少したためにハンドリングが俊敏に。気になる静粛性も問題なく、結果クルマの本質が磨かれたといえる
フラッグシップのロイヤルサルーンGはプリクラッシュセーフティを筆頭に、インテリジェントAFSやナイトビジョン、ディスチャージヘッドライトなど、当時の最先端を行く先進安全装備を満載した。
ナビシステムは、G-BOOK対応のDVDボイスナビとし、マークレビンソンの高級オーディオと組み合わせることもできる。もちろん、主力モデルはフロントがパワーシートだ。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアはマルチリンクとした。プラットフォームを一新し、高剛性ボディを採用したことと相まって軽やかなハンドリングと懐の深いコーナリングを見せた。
特にアスリート系はボディの大きさを感じさせない俊びんな身のこなしを披露した。それでいて乗り心地も上質だった。路面の凹凸を上手にいなしていた。荒れた路面でも優れた接地フィールを実現し、気持ちよく駆け抜けていく。
■市場に受け入れられた挑戦
ゼロクラウンの当初の月販目標台数は、ロイヤルとアスリートの2車種合わせて5000台だ。景気が低迷していたので、この目標を達成するのは困難だと思われた。
だが、大方の予想を覆してゼロクラウンは好調に販売を伸ばしていったのである。通期で月平均5000台ラインを超え、目標を達成した。ラージクラスのセダン市場は漸減傾向にあり、ライバルたちは軒並み販売台数を落としている。だが、クラウンだけは大躍進を遂げた。高級車クラスのシェアを先代の30%から50%以上に高め、ライバルを大きく突き放した。
ゼロクラウンの革新は成功し、ヤングエグゼクティブを含む新しいユーザー層の獲得にも成功した。低迷していた日本車のカンフル剤になり、高級セダンの新しい姿を見せてくれたのがゼロクラウンだ。
あの革新があったから、クラウンは挑戦を続けている。2012年にデビューした14代目は、時代の要請で4気筒モデルを復活させるとともにダウンサイジングを行った。そして大胆なイナズマグリルの採用も大きなニュースとなっていた。
■新型はクルマの本質が進化しているかどうかが注目点
平成から令和の時代になり、高級セダンの環境は大きく変化した。技術革新を積極的に行い、新しい価値を加えたドイツ勢は存在感を強めている。日本ではレクサスが新しい高級車像を掲げ、販売を軌道に乗せた。
だが、元気がいいのはセダンではなくプレミアムSUVだ。伝統の高級セダン、クラウンもどの方向に進むかを問われている。16代目クラウンはデザインとパッケージングだけではなく、駆動方式までも変え、走りのポテンシャルと快適性も高められるだろう。
もちろん、安全性能も新しいステージに突入しているはずだ。ゼロクラウンと同じように、革命児になるのか風雲児になるのか、興味は尽きない。その評価と販売状況もおおいに気になるところだ。
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