フィアット創業家の“ヤンチャ”な御曹司
イタリアの“お騒がせセレブ”であるラポ・エルカンが特注したアーミー仕様のフェラーリ「458イタリア」が、RMサザビーズのオークションに出品されました。
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“海外のお騒がせセレブ”といえば、ラポ・エルカンを超える人物はなかなかいません。セレブなプレイボーイとしてゴシップ誌をにぎわせただけでなく、ひかえめにいっても“ヤンチャ”。薬物疑惑どころか自分のこづかい稼ぎ(?)のために虚言誘拐までくわだてたことがあるんです。超富裕層なのに……。荒れた私生活は、超真っ当に生きる兄への反動なのか? と、しばしば邪推したものです。
イタリアを代表する華麗なる一族といえば、総資産240億ユーロともウワサされるフィアットを創業したアニェッリ家をおいてほかにありません。
フィアット社を通じて、1969年にはフェラーリとランチアを、1986年にはアルファ ロメオを、そして2009年にはクライスラー(破産申請後)を買収しています。
その後、誕生したフィアット・クライスラー・オートモーティブでは、フランスのグループPSAと共同出資でステランティスを設立。アバルト、アルファ ロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、DSオートモビル、フィアット、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ラム・トラックス、ボクスホールと、14ものブランドが傘下に収まっています。
フェラーリはご存じのとおり単独で上場を果たしているので、ステランティスとは無関係のように見えますが、ネクソ―ル社を通じてのアニェッリ家の影響力は依然として絶大です。24%強という同社の株式保有率は、機関投資家の中でも最大です。
このネクソ―ル社は、ステランティスの株式を14.9%保有する、アニェッリ家の実質的な“資産運用会社”です。アニェッリ家の当主はフェラーリの会長やステランティスの会長を務めるジョン・エルカン。もちろん彼はネクソ―ル社のCEO(最高経営責任者)も兼務しており、同社を通じてセリエAのユベントス、イタリアの産業用車両メーカーであるイヴェコ・グループ、イギリスの老舗経済誌『エコノミスト』なども所有……と聞けば、華麗なる一族ぶりが想像できるのではないでしょうか? なお、アニェッリ家と苗字が異なるのは、母親の結婚に伴い父親の姓を名乗っているからです。
今回フォーカスするアーミー仕様のフェラーリ「458イタリア」、その名も「458アーミー」を特注したラポ・エルカンは、そんなジョン・エルカンの弟です。
ラポ・エルカンは高校卒業後、アニェッリ家の伝統に従い、イタリアのバイクメーカーであるピアッジョ(1999年までアニェッリ家が大株主)の生産工場でルポ・ロッシという偽名で下働きを始め、大学卒業後はアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーの私設秘書を務めます。その後は、金融機関であるソロモン・スミス・バーニーや食品メーカーであるダノンなどで勤務した経験を持ちます。
やがてフェラーリ、マセラティのマーケティング部門で研鑽を積み、フィアットのマーケティングを担当することに。2007年に投入されたいわゆる新生フィアット「500」の世界的マーケティングを担当したのは、ラポ・エルカンだったのでした。
●インテリアまでカモフラージュ柄にこだわった特別仕様
そんなラポ・エルカンが特注した「458アーミー」が、先頃モナコで開催されたRMサザビーズのオークションに出品されました。
「458イタリア」のボディを包むカモフラージュ柄は、ラッピングではなく特注ペイントによるもの。エンジンカバーまでカモフラージュ柄となるほか、インテリアの本革にまでカモフラージュ柄があしらわれるというこだわりようです。
インテリアのカーボンパネルが配される箇所には、カモフラージュ柄のケブラーがおごられています。
そして本来、両フロントフェンダーのドアに近い場所に配される“跳ね馬”のロゴに代わって、メタルペイントが施されたピースマークがあしらわれています。
ラポ・エルカンが特注したフェラーリは、この「458アーミー」が初めてではありません。ツートーンカラーで仕上げられた「599」では、インテリアやシートにデニム生地を用いたことで話題を呼び、SNSでバズったことが記憶に新しいです。
そういう意味で、ラポ・エルカンはお騒がせセレブでありながら、インフルエンサーとしての役割をきちんとこなしていました。なお当時、フェラーリの顧客にパーソナライゼーションを可能にするテーラーメイド部門を立ち上げたのが、ラポ・エルカンだといわれています。
2017年には、フェラーリ社の取締役に就任したラポ・エルカン。「まもなくフェラーリのCEOに就任か?」なんてウワサされたものの、数年後にひっそりと退任。自身が設立し、上場までこぎつけたイタリア インディペンデントというサングラスや衣料品ブランドもいつしか手放しており、現在は開店休業中だといわれています。「これからはアーティストとして生きる」という、やや意味不明な記事が『フィナンシャルタイムズ』で取り上げられましたが、あれは生存証明だったのでしょうか?
そんなラポ・エルカンが特注した「458アーミー」は、2016年に本人がニューヨークで開催したチャリティオークションに供され、なんと100万ユーロで落札されました。しかし翌年、RMサザビーズがイタリアで開催したオークションに出品された際には、38万5250ユーロと大幅ダウンの金額で落札されています。
2017年に出品された際の「458アーミー」の走行距離は1万8760kmでしたが、今回は2万4482kmとなっています。そのため、予想落札価格は25万~35万ユーロ(約4238万円~5934万円)と見積もられていましたが、結果的には46万6250ユーロ(約7904万円)まで高騰しました。
破天荒な御曹司が特注した「458アーミー」は、いずれ歴史的価値を持つ車両へ昇華することでしょう。
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