ガラパゴスと揶揄されてきたCVT。最近、昔のように、「つながりがギグシャクする」、「アクセルを踏んでいるんだけどCVTのせいなのか、なかなか前で進まない……」という不満が少なくなってきたように感じるのだが、いかがだろうか?
軽自動車からSUVの大排気量車、スポーツモデルまでありとあらゆる車種に採用されているCVT。いまや燃費向上にも欠かせないものとなっている。
買っときゃよかった!! あの時買えなかったあの『凄すぎる限定車』の今を追う!!
はたして今、CVTはどこまで進化しているのだろうか? モータージャーナリストの御堀直嗣氏がCVTの今をお伝えする。
文/御堀直嗣
写真/トヨタ、ホンダ、スバル、メルセデス・ベンツ、ベストカーweb編集部
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■1980年代に普及し始めたCVT
1987年、ジャスティ1LのFF車に追加されたが同クラスのAT車に比べ高価だったことから商業的には失敗
ジャスティ等に搭載されたスバルのECVT。当時高級車でもATは4速が主流の中、夢の自動変速機として登場。ただ電磁クラッチ式のため、低速のギクシャク感等走行フィールの悪さが課題だった
CVT(スチールベルト式無段変速機)を開発したのは、オランダ人のヨーゼフ・ファン・ドールネだ。そして、1980年代のフィアットなどで実用化された。
1987年にジャスティに、電子制御電磁クラッチにスチールベルトプーリーを組み合わせた世界初の電子制御電磁クラッチ式CVTが採用された。
本格的な普及に弾みをつけたのは、1987年のスバルレックスへの搭載といえるのではないか。続いて、日産マーチに採用された。レックスは軽自動車だが、マーチは小型車である。そのぶん、出力増に対する変速機としての容量にゆとりが求められた。
自動変速機は、1960年代の米国で普及した。トルクコンバーターと遊星歯車を利用した、いわゆるトルコンATは、1960年代に米国車の8割近くという普及率になった。これが、日本を含め世界的な自動変速機の主流となっていった。
2ペダルによる運転は楽で、老若男女にクルマの利便性を広めたが、弱点は燃費の悪さだ。クラッチの役目を担うトルクコンバーターと呼ぶ継手は、流体(ATフルード)を使うため、エンジンからの動力伝達効率が悪く、エンジン出力をタイヤ駆動に伝える際に無駄があった。したがって、マニュアルミッションに比べオートマチックは燃費が悪いというのが、永年の通説だった。
■そもそもCVTはどうやって動いている?
大小2つのーーリ―を使うCVTの構造図。プーリーの径を変化させることにより、変速効果をもたらしている。最も効率のよい径のまま加速することも理論上は可能だ(rumruay@Adobe Stock)
より低燃費の自動変速を!と考えられたのがCVTだ。スチールベルト式CVTの機構は、柔軟性を備えた金属の薄いベルトに、扇のような形をした薄い板を並べ、動力を伝える。
変速は、2つのプーリー(滑車)を使い、その半径を調節することで大小の変化をできるようにしておき、巻き付けた金属ベルトがエンジンからの動力を伝える際に、プーリー径の大小を変えることで変速効果をもたらす。
従来の変速機が、歯車を用い、その大小(歯の数の多少ともいえる)によって変速したのに対し、スチールベルト式CVTは、プーリーの径を無段階で連続的に調整できるため、燃費を改善することができると考えられた。
なぜなら、エンジンは、もっとも燃費のよい(つまり効率がよい)回転数は、アイドリングから少し高めのところで、その前後は燃費が悪化する。歯車を使う変速機では、常に燃費のよい回転を維持するのは難しい。
しかし、無段階で連続的に変速できるCVTであれば、エンジンがもっとも燃費のよい回転数を維持したまま、速度を上げていく(加速する)ことができるのである。
とはいえ、運転者の感覚としては、エンジンの回転数が上昇するのに合わせて速度が上がっていくのが自然に思えるので、エンジン回転数が一定のまま車速が変化することには違和感を覚えやすい。
そこでCVTといえども、ある程度、速度の上昇とエンジン回転数の変化をあわせることで、違和感を減らす制御が用いられるようになった。
■副変速機付きCVTの登場によって大きく変わった
RAV4の2Lガソリンモデルに設定されているダイレクトシフトCVT。発進ギアがあるため、低速時のつながりは非常にスムーズだが、中高速域になるとCVTならではの段付きを感じる
トヨタ(生産は共同開発したアイシン)のダイレクトシフトCVTは発進専用ギア(ブルーの部分)を組み込むことで、ベルトの負担を抑えて燃費と加速フィールを向上。現在、レクサスUXやRAV4、ハリアーに搭載
それを大きく前進させたのが、副変速機を持つCVTの誕生だ。これは、上下2段変速の歯車式変速機を活用し、変速の幅を広げ、それによって、ことに発進時のトルクが必要なところで、歯車のギア比を利用して力を増大し、エンジン回転をあまり高めなくても走りだせるようにした。同時に、上の段を利用することで高速走行でのエンジン回転数を下げ、燃費を改善することにも利用した。
これにより、日常的に頻繁に使う発進直後の加速で、エンジン回転数が高まり、唸るような騒音を発しやすかったCVTの弱点が改善されるようになったのである。
ダイハツは、通常の金属ベルト式CVTに遊星ギア式動力分割機構を追加した全面新設計のCVT(無段変速機)、D-CVT(デュアルモードCVT)を採用
そのあと発進用の減速機構を用いるCVTも登場した。考え方は、副変速機を併用するCVTと同様に、発進で減速を行うことで、エンジン回転数をみやみに高めなくても滑らかに動き出せ、あわせて発進でのエンジン騒音を抑えることができる。
こうして、CVTを使う小型車も、快適に運転できるようになった。
また、大排気量のV型6気筒エンジンのようなトルクの大きいSUVにも使えるCVTの開発も行われた。あるいは、金属ベルトに替えて、チェーンを利用することでガソリンターボエンジン車へも適用できるCVTも開発された。
こうして国内では、当初燃費向上を目的とした軽自動車から小型車だけでなく、3ナンバーの普通車もCVTを採用する車種が増えたのである。
■なぜ欧州ではCVTは普及しないのか?
欧州ではATの多段化が進んでいる。10速ATのフィアット500Xやジープチェロキーはのレシオカバッレジは9.812、9速ATのベンツCクラスは9.156と多段化によるワイドなギアレシオを獲得
一方、先にCVTを導入しはじめた欧州では、そもそもマニュアルシフト車が基本で、それは3ナンバーの普通車にもおよぶ。米国のように自動変速が8~9割というような習慣はなかった。
したがって欧州ではトルクコンバーター式の自動変速の普及は遅れたし、大衆車から普通車まで、マニュアルトランスミッションのほうが燃費もよく、運転も快適という意識が強く、CVTであっても自動変速を選ぶ理由がなかった。
自動変速の採用が広がりだしてからも、ロックアップの技術を利用したトルクコンバーター式が大きな車種で利用される、小型車ではマニュアルトランスミッションの変速機を活用したDCT(デュアル・クラッチ式トランスミッション)が普及した。
米国は、ガソリン価格が日欧の1/3ほどであったから、多少燃費が悪くても、トルクコンバーター式の自動変速機で不満がなかった。なぜガソリン価格がそれほど安いかといえば、クルマは必需品であり、貧富の差なく利用できるよう、税金がほとんどかかっていないためだ。
以上のような、技術的、あるいは国や地域でのクルマ社会の違いによって、日本車にCVTが増えるようになった。
副変速機や発進用の減速機構を併用することで、運転での違和感を抑え、変速の幅を広げたCVTは、大排気量エンジン用やチェーン式なども加わり、より高性能エンジン車への適応も可能になっていった。
標準タイプのヤリスと同じ直列3気筒1.5Lエンジンを搭載するGRヤリスRS。トランスミッションはダイレクトシフトCVTを採用。GRヤリスRSは標準タイプにはない10速マニュアルモードを備える
したがって、スポーティな車種へもCVTが展開されるようになったのである。また変速の幅が広がることで、歯車式でいえば6~7速といった変速幅を持てるようになり、それを利用してマニュアル操作でステップ変速を疑似的に体験できる制御も組み込まれるようになった。
そして、トヨタのGRヤリスにもCVT車(発進用歯車付)の選択肢がある。SUBARUのガソリンターボエンジン車にCVT(チェーン方式)が採用されている。
いいCVTの指標とされる、レシオカバレッジ。最も低速のギア比を最も高速のギア比で割って求める値だが、この値が大きいほど、エンジンが低回転のままで走ることができる車速の幅が広いことになり、低燃費で静粛性に優れるということになる。レヴォーグとフォレスターの1.8Lターボのレシオカバレッジ8.098は8速ATと同等である。
CVTの出来が秀逸な現行レヴォーグ。スバルは日本初のジャスティ用ベルト式CVTから現在ほぼ全車種に搭載するチェーン式のリニアトロニックCVTまで30年以上CVTを搭載してきたメーカーだ
■レシオカバレッジの高い主なCVT搭載車
・レヴォーグ1.8、フォレスターSPORT1.8/8.098
・レクサスUX、ハリアー、RAV4/7.555
・GRヤリス、ヤリス、ヤリスクロス/7.521
・スイフト1.3/7.284
・インプレッサスポーツ1.6/7.031
・シビックセダン/6.531
・ekスペースG、デイズルークスターボ/7.285
・ハスラーXターボ、ワゴンRスティングレイHV/7.284
・アルトX、アルトラパンX、ワゴンR HV/7.197
・タントXターボ/6.619
※レシオカバレッジは4速ATで4程度、6速ATで6程度、8速ATでは8程度、9速ATでは9.8、10速ATでは8.23となっている。CVTは一般に5.5~6程度。
■新型シビックのCVTの出来は?
新型シビックは6速MTの販売比率が35.1%となったことで話題になったが、CVTの出来はいかに?
新型シビックのCVT。ハンドルにはパドルシフトがあり、マニュアルシフによるスポーティな走りを楽しむこともできる。2ペダルとはいえ、侮れない実力をもつ
新型シビックは、1.5Lのガソリンターボエンジン車のみで先に発売され、ハイブリッド車とタイプRは来年からとなる。
ガソリンターボエンジン車にはCVTと6速MTの選択肢がある。しかも今日では、CVTのほうが燃費性能はよくなっている。かつて、自動変速は燃費が悪いとされてきた時代からすると、隔世の感がある。
試乗をしてみると、1300kg台という車両重量の軽さとともに、運転者のアクセル操作や、道路の上り下りなどに対する出力の出方など、エンジンとCVTを協調させる制御により、無暗なエンジン回転の上昇を感じさせず加速とエンジン回転数が調和した、快く、また壮快な運転を新型シビックは味わわせる。
一方、6速MTでは、変速段数を誤ると、ターボチャージャーの過給効果が十分でないエンジン回転数でアクセルを踏み込めば、1.5Lエンジン本来の排気量分の出力しか出ず、加速に物足りなさを覚える場合がある。
もちろんそこでダウンシフト操作を行えばターボ過給の得られる回転数に跳ね上がり、力強い出力が得られる。マニュアル操作を駆使する腕を磨いて運転するという面白みがあるのも事実だ。
それでも2ペダルでの運転でありながら、自動変速であることを意識させないCVT制御の巧みさには驚くばかりである。ハンドルにはパドルシフトがあり、これでマニュアル感覚の運転も楽しめる。
ほかの車種でもCVTを選んで、自動変速だから面白みに欠けたり、エンジン出力の出方に不満を持ったりといった懸念はもはやないのではないか。AT限定免許の人でも、運転の醍醐味を味わえる時代となっている。
国内でも、トルクコンバーター式の自動変速機で、ロックアップ機構の緻密な制御により、壮快な運転を楽しませる車種はある。
しかし、1980年代からCVTを磨き続けてきた日本の部品メーカーや車体メーカーの努力は、単にガラパゴスとかたづけてしまうわけにはいかない成果をもたらしている。
EVの時代まで、トルクコンバーター式とDCTとCVTが、それぞれに持ち味を活かしてエンジン車を支えていくことになるのではないか。
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