ついにBMWのコンパクトハッチバックモデル「1シリーズ」の次期モデルがFF化されることが、正式に発表された。そこでBMWのこだわりが生んだこのFRハッチバックにフォーカス。そこで世界的にも最後の直6ホットハッチとなるであろうM140iに試乗し、その魅力に迫ってみた。REPORT&PHOTO●大音安弘(OHTO Yasuhiro)
BMWのFF化は、新規モデルである2シリーズのアクティブツアラー及びグランツアラーというMPVを皮切りに、SUVモデルへと波及。二代目へと進化したX1。そして、そのクーペモデルのX2が投入されている。BMWとしては外角から攻めてきたともいえるが、ついにBMWエントリーとして重要な役割を果たしてきた1シリーズまでFFへと生まれ変わることになった。
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第二世代となる現行型は、2011年デビュー。今年で8年目となるが、マイナーチェンジによるブラッシュアップに加え、他にライバルとなるFRハッチが存在しないこともあり、今なお古さは感じさせない。まさに唯一無二の存在となっている。
試乗車は、9月5日に発表された特別仕様車”Edition Shadow”であり、最も熟成された1シリーズだ。売りやすいエントリーモデルだけでなく、最強グレードM140iにも最終特別仕様車が設定されたことは、BMWの粋な計らいともいえるだろう。
BMWらしいフロントマスクとともに特徴的なのが、サイドビュー。ロングノーズとダッシュ・トゥ・アクスル(Aピラーからフロントホイールの距離)の長さは、まさにFRである証だ。それでいて前後のオーバーハングは、しっかりと切りつめられており、機敏な走りを予感させる。
そのロングノーズの中に鎮座するのが、BMW謹製の3.0L直列6気筒ターボエンジンだ。最高出力340ps/5500rpm、最大トルク500Nm/1520~4500rpmを発揮する。エントリーモデルの「118i」には、1.5L直列3気筒ターボが搭載されるが、その性能差は、馬力で2.5倍。トルクでは約2.3倍にもなる。スペックだけ見ると、M140iは手強いホットハッチであることを予感させるが……。
インテリアは、華やかな演出はなく、アダルトな仕立てとなる。 ”Edition Shadow”では、ブルーステッチ入りのダゴタレザーシートが奢られる。メーターはアナログの2眼式となり、今や貴重なサイドブレーキレバーも備わる。これらを古臭いと取る向きもあるだろうが、ドライバーズカーとしては、ベターなセレクトのではないだろうか。
これほどコスパの優れたBMWはM140iが最後か?
M140iを、街中、高速、ワインディングと様々なシチュエーションに連れ出した。その感想は、痛快の一言に尽きる。ただ楽しいだけでなく、かなり従順なのだ。最も心を揺さぶるのは、やはり6気筒エンジンだ。そのスムースな回転フィールと澄んだサウンドは、まさに至極の逸品といえる。昨今の4気筒ターボは、性能やフィーリングも磨きあがられているが、6気筒には遠く及ばない。やはり6気筒でなければ出せない味があることを再認識させられた。
意外だったのは、先代の340i M sportよりも扱いやすいエンジン設定だったこと。数字だけみれば、M140iの方がハイスペックにも関わらずだ。340iは、低回転から溢れるパワーを封じ込めるような味付けで、ややじゃじゃ馬的であったのだが、140iはそうではなく、アクセル操作に対して従順なのだ。もちろん、アクセルを開ければ、瞬時に強烈な加速をもたらしてくれる。この二面性は、守備範囲の広い1シリーズのために作りこんだものかもしれない。
足回りの印象も良い。ブレーキは踏み込むと制動が高くなるコントロールし易すく、サスペンション自体も昔のBMWのように固すぎず、快適性とのバランスを図ったものなので、疲れにくい。さらに前後のオーバーハングは切り詰められているので、街中での取り回しにも優れる。ということは、ワインディングでも最適なBMWということでもある。噛めば噛むではないが、如何なるステージでも楽しめる。懐の深いホットハッチであった。
末期モデルでありながら、久しぶりに離れがたい一台であったM140i。正直、今すぐ、在庫を抑えに走れ!と言いたくなるほどだ。しかし、先に目を向けると、心配になるのが、似た構成となるBMW2シリーズクーペの動向だ。コンパクトFRの最後の砦となってくれるのだろうか……。ただ最もスペックが近いM240iの価格は、701万円。それに対して、M140i Edition Shadowは、充実装備で655万円。標準車なら632万円だった。残念ながら、BMWファンの美味しいところを満載しながらも、これほどコスパに優れるBMWが登場することはないだろう。
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