トヨタの「カローラ」に設定された高性能モデル「GRカローラ」を、さらに高性能化したモリゾウエディションに今尾直樹がテストドライブ。豊田章男氏の愛称を冠するという世界的にも珍しいモデルの実力をチェック!
リヤシートがない!
2.0リッターとは思えぬラグジュアリースポーツ──新型メルセデスAMG SL43試乗記
いまから考えると、GRカローラ RZ“MORIZO Edition”(以下、GRカローラ モリゾウエディション)にはなにやらただならぬ雰囲気があった。神社とかお寺の境内、あるいは柔道とかの道場に共通する神聖な雰囲気というか、ある種のオーラを感じたのだ。
もっとも、筆者は霊感とは縁遠いタイプでありまして、そのようなオーラを微妙に感じつつも、気にすることなく自分のカバンを置くために後ろのドアを開けた。すると、あるべきはずの後部座席はそこになく、単に平べったい棚みたいなものが広がっている。フロアには巨大な「かすがい」みたいなスティールのパイプが埋め込んであって、こんなに頑丈そうな補強がしてあるのか……と、たまげた。
モリゾウエディションは軽量化のためにリヤシートが取り払われている。ということは知っていたけれど、5ドア・ハッチバックの後席がないというのは、定食を頼んだはずなのに、ごはんがついてなかった……みたいな気がした。ごはんがないですよ。
後席がないことで生まれたスペースを生かして、「リヤサスペンションタワーブレース」という補強材も加えられている。その名の通り、リヤのサスペンションの上部をつなぐことでボディ剛性を上げる、と、同時にタイヤを縦に4本積むときの枠の役目を果たしているらしい。サーキットに通うひとにとっては、とても重宝するアイテムだろう。
タイヤをチェックすると、ミシュランのパイロット・スポーツ・カップ2が奢られている。公道も走れるサーキット・タイヤで、サイズは245/40ZR18と、GRカローラの235/45R18より、10mm幅広い。タイヤの設置面を増やすことで、コーナリング性能とブレーキ性能の向上を狙っている。フツウのGRカローラがヨコハマなのに対して、こちらはミシュランである。なるほどなぁ。
運転席に座ってみると、ステアリングホイールのリムがウルトラスエードという、アルカンターラみたいな合成皮革で覆われていて12時の位置に赤いラインが入っている。まるでポルシェ「911GT3」みたいである。ウルトラスエードはシフトノブにも使われており、ホンモノのスエードそっくりの手触りに私はつぶやく。ボカァ、好きなだなぁ。
ボディ剛性がモノスゴく高い!いざ。出発しようとしたら、それは東京・九段にあるトヨタの広報車貸し出し&返却所の屋外駐車場だったのですけれど、担当の方が慌てて近寄ってきて、こうおっしゃった。
「そっちではないです。GQさんはそちらです」
と、左に首を振ってみると、なんと国内限定わずか70台のGRカローラRZモリゾウエディションがもう1台、停まっているではないか! ナンバーを確かめず、手前にあるほうがてっきりそうだと思い込んでしまいました。あるところにはあるのである。当たり前ですけど。
すぐに乗り換え、シートのポジションを確認したのち、クラッチペダルを踏んでみる。重いっす。とんでもなく重いわけではないけれど、足応えがある。でもって、ダッシュボードのスターターを押す。ヴァフォン! と、1.6リッターの3気筒ターボ・エンジンが目覚める。ゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉっ、という怪物の鼻息みたいな排気サウンドは、1カ月前に試乗したGRカローラRZと同じだけれど、記憶よりも強めのショックがクラッチペダルを踏んでいる足の裏に伝わってくる。
う~む。いいね、いいね、いいね。
モリゾウエディションのエンジンは、最大トルクがGRカローラRZの370Nmから400Nmに引き上げられている。最高出力304psは変わらないものの、エンジンの性能曲線を見ると、トルクがぶ厚くなっている分、ピークパワーに達する角度がよりゆるやかに描かれている。
ペダルへのショックが大きくなっている。というのは筆者の単なるカン違いに過ぎないとしても、マスタードライバーの狙った野生味は確実に増している。と、筆者はそういう気分になっているのであるからよいではありませんか。
でもって、6MTのシフト・レバーを1速に入れ、やや重めのクラッチをゆっくりリリースする。強力なトルクに誘われるようにして、モリゾウエディションは抵抗感なくスーッと動き始める。駆動系がスムーズだから、であるにちがいない。
公道に出ての第一印象は、ボディ剛性がモノスゴく高い! ということである。GRカローラRZもボディの剛性感は高かったけれど、これはそれをグッと上まわる。乗り込む前に補強材を目の当たりにしたということもある。Bピラーから後ろがコンクリートの塊、というといくらなんでも大袈裟か、コンクリートの壁でできたハコになっている。あくまで個人の印象です。
ボディ補強のブレース(つっかい棒)だけではなくて、構造接着剤を3.3m、追加で塗布している。これは元町工場のGRファクトリーで「匠」の技を持つ熟練職人が手作業でおこなっている。ひとが精魂込めてつくったものには、大量生産品にはない、なにかが感じられる。というのは読者諸兄も賛同されるところだろうと思う。私の場合、霊感はないんですけどね。
サスペンションはそうとう硬い。コイル・スプリングについての言及はないけれど、感覚的にはGRカローラRZより、ボディの動きが小さいように感じる。硬いのに低速での乗り心地に不満がないのはミシュランの働きも大きいかもしれない。
モリゾウの願いドライブには絶好の日和で、筆者はアクアライン経由で内房方面に足をのばして房総の山道を駆け巡った。館山自動車道をぶっ飛ばしていると、荒れた路面では一瞬ジャンプしたりする。それほど足まわりははっきり硬い。
それがまったく不快に思えないのは、ボディ剛性がものすごく高いからだ。路面からの入力をいくら受けようと、ガッチリとしたボディが受け止める。もうひとつ、異次元の剛性感をもたらしている大きな要因がシートだろうと思う。
トルクアップにくわえて、ギア比がGRカローラRZより低めてあることもあって、加速は痛快。6MTのギヤボックスは極めて操作しやすいけれど、やや重めというか硬めというか、カッチリしている。バターを熱いナイフで切るのではなくて、レゴのブロックを二つくっつけては、はずす、というような、カチリカチリというかコクリコクリというか、小気味のよいフィールで、しかもおそらくブレーキペダルが重めになっている。サーボが弱めで、強く踏まないと制動力が立ち上がらない。おかげでヒール&トーのマネごとが楽しめちゃう。
超絶コーナリングマシンのGRカローラRZに輪をかけて、ぶっ飛ばしたくなる。それはサーキットとかクローズドで、というのがモリゾウの願いだろうけれど、よくもまあ、こういうエンスージアスティックなホットハッチを、ホモロゲーションの規定もないのにつくったものだ。と素直に頭を垂れたい。
本稿を書くにあたって、あれこれネット検索していたら、「GRMNヤリス」という限定500台の、GRヤリスのフルチューンバージョンが2022年1月の東京オートサロンで発表されていたことを知った。GRカローラ モリゾウエディションのつくり方は、このGRMNヤリスに準じている。というか、そっくりおなじだ。パワートレインを共有しているので当然ともいえるけれど、6MTのギヤ比も同じだし、たとえば後席シートを省いて軽量化を図るとか、ハコのスポーツカーをつくる王道に乗っ取っている、という見方をすれば、それはそうである。
ここで申し上げたいのは、GRヤリスの限定バージョンにMNという、モリゾウのドライビングの師匠のイニシャルだともいわれる名称を与え、GRカローラにはみずからの名前を冠しているという点である。
ふたつのモデルは別の体だけれど、おなじ心を持っている。モリゾウこと豊田章男は社長交代を機に、マイスター・オブ・ニュルブルクリンクとして彼の地で逝った師匠に、卒業制作を送り出すことで感謝の意を伝えたかったのではあるまいか。
GRカローラ モリゾウエディションは、社長卒業の記念作として長く記憶に残ることになるだろう。
文・今尾直樹 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
早く再販してくださいな。
好き勝手やりますよ将軍様は