遠くから見た姿はティーポ159にそっくり
執筆:Colin Goodwin(コリン・グッドウィン)
<span>【画像】アルファ・ティーポ159風 ジョン・ナッシュ・スペシャル 往年のマシンも 全64枚</span>
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
まるで往年のF1ドライバー、ファン・マヌエル・ファンジオ氏が見た景色を、体験しているかのようだ。小さなフロントガラスが、華奢なアルミニウム製のフレームに収まっている。その先で、細長いボンネットの峰をワイヤーホイールが支えている。
筆者の手は、十字に切られたアルミスポークをウッドリムが挟む、ステアリングホイールを握っている。右足の横には、握りやすそうなシフトノブが突き出ている。
アルミ製のダッシュボード・パネルに、白い盤面のメーターが並ぶ。コクピットは非常にシンプル。
シングルシーターの小さなクルマだが、肘まわりの空間には余裕がある。3枚のペダルの位置はもう少し近くても良さそうだが、これはオーナーへ最適化されている。筆者が感じるベストと多少違っていても当然。シートの位置も変えられない。
この赤いクルマを初めて目にしたのは、2019年にブランズハッチ・サーキットで開催された、ビンテージ・スポーツカー・クラブのミーティング・イベント。キットカー・エリアに展示される車列に混ざって停まっていた。
遠くから見た姿は、往年のグランプリ・レーサー、アルファ・ロメオ・ティーポ159 アルフェッタにそっくりだった。オープンホイールの真っ赤で滑らかなボディに、特徴的な卵型のフロントグリルが切られていたのだから。
オーナー自ら組み立てるスペシャル・モデル
接近するとウインカーが付いていて、ナンバープレートも取得している。公道も走れるようだった。詳しくはわからなくても、素晴らしい佇まいだったことは間違いない。
そのクルマの前には、プレゼンテーションとして説明が記された1枚の紙が置かれていた。それによれば、このクルマはイベントでキットカーとスペシャル・モデルの展示ブースを企画した、1人の男性が作ったものだという。
その人物の名前は、ジョン・ナッシュ氏。ケント・キットカー・クラブのメンバーだった。ホームメイドのスペシャル・モデルは、50年前の英国ではしばしば目にすることができたが、最近はとても珍しい。
1950年代から1960年代にかけて、アマチュア・ドライバーが主にモータースポーツを楽しむために発生した、スペシャル・モデルという文化。ガレージでオーナーが自ら組み立てる、キットカーの前身といえるものだった。
シャシーやボディ、エンジン、各部品を供給・販売する、独自の産業体系が英国には形成されていた。マクラーレンF1の開発などで知られるゴードン・マレー氏も、初めて手掛けたのはIGMフォードT1と呼ばれるスペシャル・モデルだ。
ロータス・セブンの影響を強く受けた、細身のボディにサイクルフェンダーが特徴。スペースフレーム・シャシーはゴードン自身が設計したものだった。この赤いクルマを目にしたら、彼も恐らく感動してくれるのではないかと思う。
述べ7000時間を投じて自作
展示ブースで、作者のナッシュが来るのを待った。素晴らしい仕事を称えたいと考えたからだ。筆者はこれまでキットカーやスペシャル・モデルに強い関心を寄せてきたが、これほど美しい仕上がりのものは今まで見たことがなかった。
どんな構成なのか、待っている間も興味は尽きない。ジャガーのエンジンを載せているかもしれない。159 アルフェッタ風のボディへ呼応するように、アルファ・ロメオのツインカム・ユニットかもしれない。次々に疑問が湧く。
しかも、これを仕上げるのに要した費用は6000ポンド(93万円)以下だったと書かれてある。こんなに美しいクルマを、どうやってそんな低コストで製作したのか、知りたいと強く思った。
しばらくして、ナッシュがクルマのところへ戻って来た。話を聞けば、5年間をかけてゼロから作り上げたという。戦前から戦後にかけて活躍したグランプリ・マシンに影響を受け、殆どの作業を自ら行ったそうだ。
しかも完成までに投じた金額は、合計5750ポンド(89万円)。しかし、完成に費やされた時間は7000時間にも及んだ。このクルマを、ナッシュはJNSと呼んでいる。ジョン・ナッシュ・スペシャルの略だ。
数か月後、筆者は英国南東部にあるハイスの町を訪ねた。ナッシュの簡素なガレージにお邪魔し、JNSのことを取材させてもらうために。
古いルノー5 ターボの駆動系を流用
ガレージで最初に驚いたのは、このJNSは、彼が手掛けた唯一の1台ではないということ。「過去に、JNSに似たカタチのスリーホイラーを作ったことがありました。しかし友人の多くが、四輪の方が遥かにカッコよく見えると話したんですよ」
ナッシュが振り返る。「当初は、オリジナルのスリーホイラーへ手を加えようと考えました。でも、最初から作った方がシンプルだと、すぐに考えを改めたんです」
ボンネットを取り外すと、エンジンが顕になる。展示会場で想像していたユニットとは違っていた。「キットカー・クラブのメンバーが、古いルノー5を手放したいと話していたんです。その1台には、ゴルディーニ・ターボも含まれていました」
「200ポンドを準備して、ペアで購入。必要な部品を取り外すため、友人の納屋でルノーをバラしました」。と説明するナッシュ。
「後輪駆動のクルマは、プロペラシャフトを通す場所を作る必要があり、設計や製作が複雑になります。でもFFのルノーなら、ずっとシンプルにエンジンを搭載できます」
「エンジンを縦置きに改めて、ギアボックスをフロント側に組みました。ドライブシャフトやサスペンションのウイッシュボーン、トーションバー・スプリング、ブレーキにハブなど、ルノーの駆動系が一式利用できています」
この続きは後編にて。
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