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「“フツー”に徹したミニバン、本命はハイブリッドのe_HEV!」──新型ホンダ・ステップ ワゴン試乗記

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「“フツー”に徹したミニバン、本命はハイブリッドのe_HEV!」──新型ホンダ・ステップ ワゴン試乗記

ホンダの新型「ステップ ワゴン」を公道で試乗。今尾直樹がリポートする。

静粛性の高さに驚く

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新型ステップ ワゴンの公道試乗会が6月のはじめ、神奈川県横浜市のみなとみらい地区で開かれた。スタイリングの公開からおよそ半年、一般道で乗られる日がようやく、ついに、とうとうやってきた。♪オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ~。早速、ドライブに行ってみよう!

新型ステップ ワゴンには内外装の違いによって新たにエアーと名づけられたスタンダード仕様と、エアロ仕様のスパーダの2タイプがある。パワーユニットは先代同様、1.5リッターの直4ターボ・エンジンと、ホンダ独自の2モーター・ハイブリッド「e:HEV」の2種類がある。

今回はスパーダの1.5リッター、そのあとエアーのe:HEVの順番で試乗した。エアーとスパーダ、中身はタイヤも含めて同じだから、どちらを選ぶかはお好みということでよろしいのではないかと思う。

スパーダにはさらに装備を充実させたスパーダ プレミアム・ラインというのがあり、こちらは1インチ大きな17インチ のタイヤを履いている。今回、筆者は試乗していないので、写真紹介に留めておく。

室内は広い。真っ黒けの内装のスパーダでも広く感じるのは、実際に広いうえに、開発陣がこだわった水平基調のダッシュボード、両サイドの窓ガラスの上下の水平基調のおかげだろう。

運転席も天井が高くて、後ろの席と空間のつながりが感じられ、家族を乗せて運転するおとうさん、おかあさんをはじめ、ドライバー役を担うひとのだれもが、「疎外されている」と感じることはないと思われる。人間関係もありますので、一概にはいえないわけですけれど。

運転席の着座位置は高めで、前述の水平基準のダッシュボードと立ち気味のAピラーのおかげもあって、視界はたいへん良好だ。ダッシュボードの上部中央、乗員みんなから見える位置に、A4サイズほどのスクリーンが鎮座しており、ここに目的地のナビゲーションの地図を映し出せば、発車オーライ、である。

あ、まだエンジンがスタートしていなかった。スターターボタンを押してエンジンを始動する。ダッシュボードから生えたシフトレバーをDレインジに入れ、アクセル・ペダルを軽く踏み込めば、自動的にパーキング・ブレーキが解除され、そろりとスパーダは動き出す。「こんなに大きな箱を走らせるのに、1.5リッターで大丈夫?」と、心配される方もいらっしゃるかもしれない。安心してください。

なるほど、ボディは全長×全幅×全高=4800×1750×1840mm、ホイールベースは2890mmもある。車重1740kgだから、軽いクルマではない。7人乗りのミニバンなのだから、当然である。

ミニバンであることを考えると、新型ステップ ワゴンのドライバビリティ、ドライバーの入力に対するクルマの反応は称賛に値する。基本的に大きな箱であるにもかかわらず、動き出しにタメとかラグとかがあるわけでなし。たいへん素直で、隔靴掻痒感とは無縁だから、である。

1496cc直4DOHCターボは、最高出力150ps/5500rpm、最大トルク203Nm/1600~5000rpmを発揮する。トランスミッションはCVTゆえ、街中をフツーに走っている限り、エンジンをやたら回すことはない。効率のいいところ、だけを使う。街中だと1500rpm以下で十分なようで、1500rpmしか回っていないから、室内の静粛性はたいへん高い。

乗り心地はフラットで落ち着いており、路面からの当たりは穏やかに感じる。これは先代から引き継いだロング・ホイールベースと、ボディ剛性のアップ、リアのストロークを伸ばすなどの改良によるのだろう。205/60R16の、いわゆるロクマルという控えめな扁平率のタイヤも効果的であるにちがいない。

40万円の価格差以上の価値があるハイブリッド

好印象を抱いて、エアーのe:HEVに乗り換えると、新型ステップ ワゴンの本命はやっぱりこちらだ、と思った。ミニバンという形態と2.0リッター・ガソリン・エンジン+2モーターのe:HEVの相性が「ぴったんこカン・カン!」と、言ってよいほど、よいのだ。

ガソリン車比40万円の価格差はあるものの、乗り越える甲斐がある、と筆者は思う。より静かで、より軽やかで、より乗り心地がよい。と、よいことづくめなのだから。

それというのも、e:HEVはモーターとインバーター、それに電池を積んでいるぶん、車重が1810kgと、ガソリン・モデルより70kgほど重い。車重の違いによってサスペンションのセッティングを変えている。ということではあるけれど、e:HEVのほうが重いぶん、しっとりしているように感じられる。

バッテリーのエネルギーが一定程度あれば、スターターを押しても、エンジンは始動しない。無音のまま、アクセルを踏み込むと、無音で走り始める。そのとき、明らかにガソリン・モデルよりも軽やかで、「やっぱりモーターはスゴイ」と思わせる。

e:HEVは、発進時と市街地走行時、それに減速時はEV走行する。坂道や加速時など、走行抵抗が大きくなると、エンジンを始動し、エンジンで発電した電気エネルギーでモーターを駆動する。

モーターの最高出力は184ps、最大トルクは315Nmもある。1.5リッターの直4ターボは150psと203Nmだから、それより強力なパワー&トルクを発揮する。とりわけトルクは、1.5倍も分厚くて、しかも0~2000rpmで生み出す。信号待ちで停止していてブレーキ・ペダルを緩めるとモーター駆動でクリープする。そのクリープの仕方がいかにも軽やかで、ふわり、と前に出る。無振動で、ふわり、と前に出るから、ガソリン車より軽快である。

e:HEVの場合、高速走行はエンジンのほうが効率がよいので、eエンジンと前輪が直結になる。ということだけれど、○km/h以上は直結になる、という単純なものではなくて、そのとき走っている道路の勾配、アクセル開度、エンジン負荷、バッテリーの容量などを総合的に判断し、エンジンかモーター、効率のよいほうを適宜選んでいる。

なので、高速走行時でも、少なくとも筆者が試した限りでは80km/h以上でもEV走行したりする。「お、エンジン直結になった!」と、古いタイプの人間らしく喜んでも、ちょっと気を抜くと、すぐさまエンジンが休止してガッカリする。

排気量1993cc、最高出力145ps、最大トルク175Nmのアトキンソン・サイクル、というエンジン単体のスペックは、e:HEVのドライビング・フィールを語るうえで、意味をもたない。走行用モーターと発電兼走行用エンジン、および発電用モーターが三位一体となって活動しているからだ。

エンジンは頻繁に始動と休止を繰り返している。でも、ドライバーはそのことにほとんど気づかないし、気づいても気にならない。ミニバンは大きな箱だから、吸音材や遮音材を先代よりも増やしているとはいえ、風切音やロード・ノイズがある程度は入ってくる。エンジン音それ自体が低いということもある。

でも、それ以上に重要なことは、モーター走行でもまるでガソリン・エンジンで走っているような加減速ぶりだからだ。モーター走行中だからといって、いかにもモーター走行中的な、つまり、いきなり加速が立ち上がるようなふるまいをしない。モーターで駆動していても、ドライバーの感覚に合うモーターの制御というものについての研究・開発が日進月歩で進んでいる。

ハイブリッドでEV走行しているのに、まるでガソリン・エンジン車みたいに走る。ハイブリッドであることの特別感がない。ほとんどフツーといってもよく、実際、運転していてとくにインプレッシヴなところはどこにもない。ハイブリッドなのに……と、考えると、これは驚異的なようでもあるし、ハイブリッドであることを考えなければ、動力性能はごくフツー。乗り心地もごくフツーで、どちらかといえば、フラットかつ穏やかで、よいほうだとは思うけれど、もっとよくてもいい、という気もする。もっとよくなるのではないか……と、ドライバーとしては欲張りなことを考えてしまうのだ。

とことんマジメなミニバン

う~む。と、うなっていたら、ハッと思い出した。新型ステップ ワゴンのコンセプトを。開発責任者は、これまで、撮影会、取材会のたびに、私たちメディアに対してこう語っていた。

「♯素敵な暮らし」。クルマが主役ではない。これは「♯素敵な暮らし」を実現するためのギア、道具なのだ、と。

ははあ。クルマが主役ではない、のである。であれば、合点がいく。これはドライバーのためだけのクルマではない。主に子育て世代のファミリーのためのミニバンなのである。運転者にとっての視界のよさだとか、運転のしやすさに加えて、2列目、3列目に座る乗員の空間だとか、酔いにくい視界についても考えられている。

ま、ミニバンなのだから当然かもしれないけれど、当然考えられるべきことがよく考えられているということは、当然やるべきことをやっていないことがしばしば当然であるように、なかなか、たいへん、むずかしいことであることはまちがいない。

そういえば、筆者は今回、大黒パーキングからみなとみらいまで、スパーダの2列目キャプテンシートに乗せてもらって、リアの大きな窓ガラスから雨の横浜を眺め、快適で、心地のよいドライブを楽しんだ。キャプテンシートをいちばん後ろにしても、はるか前方のドライバー役を引き受けてくれたカメラマン氏とフツーの音量で話をすることもできた。キャプテンシートの座り心地は、私が普段使っている安物のイスよりは100倍よかった。

新型ステップ ワゴンというのは、フツーであることのよさを徹底的に追求したミニバンなのである。ある種の公共財のようなフツーさ、スーパーカブのミニバン版というと、却ってわかりにくいかもしれないけれど、フツーのよさを打ち出している。

道具っぽさということでは、1996年に登場した初代ステップ ワゴンが、どんがらの大きな前輪駆動車、という意味で、それっぽかったとは思う。けれど、6代目となる新型からは、ホンダの4輪車開発における発想の一大転換、もしくは成熟、あるいは達観、悟りのようなものを感じてしまった。

新型ステップ ワゴンは、「♯素敵な暮らし」についてとことんマジメに考えた、とことんマジメなミニバンだ。と筆者は思う。

文・今尾直樹 写真・小塚大樹

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