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新たな価値を提供するクルマとは? ヤリス・クロス試乗記

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新たな価値を提供するクルマとは? ヤリス・クロス試乗記

トヨタの新型コンパクトSUVの「ヤリス・クロス」に今尾直樹が試乗した。ライバルに対する優位性とは?

オシャレなパリジェンヌ向けの小型車か¥

プラグインハイブリッドの機は熟した

う~む。これは新しい価値の時代の到来かも……と、試乗して思ったら、プレスリリースのサブタイトルがそうだった。「コンパクトSUVの既成概念を一新!新たな価値を提供するクルマ」。8月31日に発売となったトヨタの新型車「ヤリス・クロス」のリリースの冒頭に書いてあった。

〈ヤリスシリーズならでは「軽快な走り」「先進の安全・安心技術」「低燃費」を受け継ぎつつ、利便性にとどまらず、乗る人の個性やライフスタイルを彩る都市型コンパクトSUVとして、新たな価値を提供するクルマ〉

Hiromitsu Yasuiヤリスは本年2月に国内発売となったトヨタのベーシック・カーである。新開発のプラットフォーム(GA-B)に新開発の3気筒エンジンを搭載、同エンジンをベースとするハイブリッドを主力パワーユニットとし、大ヒット中だ。4~8月の期間のうち6月を除いて、乗用車の販売台数第1位を獲得している。

ちなみに本年1、2月と6月は「ライズ」、3月は「カローラ」が1位となっている。中日ドラゴンズにたとえると、大島と京田と高橋周平が首位打者争いを繰り広げているようなものだ。いや、アルモンテとビシエドと高橋周平が打点王争いを……、ともかくトヨタは強いはずである。

Hiromitsu Yasuiダイハツが開発・生産する「ロッキー」の双子車であるライズ、世界のベーシック・カー、カローラ。これらに対して、ヤリスはヨーロッパ向け戦略モデルで、フランスで生産される。ヤリス・クロスも同バランシエンヌ工場でつくられ、かの地では来年発売となる。ヤリス・クロスもまた対欧州戦略モデルなわけである。

オシャレなパリジェンヌ向けの小型車。そう考えると、日本車としては珍しい黄金色やグレイッシュブルー、ベージュといった、ちょっとくすんだシックなボディ色も納得がいく。ルーフをブラック、もしくはゴールドに塗った個性的な2トーンもある。内装もまたブラウン系でまとめられていて、少なくともシックを狙ったモノであることは理解できる。

Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiヤリスとの違い

9月中旬に開かれたヤリス クロスの試乗会のベースとなったホテルの広場に並ぶ新型コンパクトSUVの群れを上から見ての、「う~む。これは新しい価値の時代の到来かも……」という筆者のつぶやきの理由は、もちろんボディ色だけのことではない。

前述したようにGA-Bプラットフォームはヤリスと基本的におなじながら、2560mmのホイールベースはヤリスより10mm長くなっている。これは、ヤリスでは15、16インチのホイールを18インチに拡大しているからだ。もし、ヤリスのホイールベースのままだと、室内に食い込む。それを避けるべく、前輪を8mm、前に移動しているのだ。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui全長×全幅×全高=4180×1765×1590mmのボディもヤリスより若干大きい。具体的には240mm長くて、70mm幅広く、90mm背高になっている。SUVにとって重要な最低地上高は、FWDも4WDも同じ170mm。これはヤリス・ハイブリッドのFWDより25mm、4WDより10mmのアップになる。

ホイール・サイズが2インチ=508mmも大きくなっていたら、最低地上高もこれくらい増えていそうなのに……。そうなっていないのは単にカタログの数値の問題かもしれないけれど、車重はヤリスよりおおむね100kg増えていて、ボディはヤリスより全高が90mm高くなっている。

Hiromitsu Yasuiより重くて、より揺れやすいボディの動きを抑えるためには、ヤリスよりバネを引き締める必要がある。実際、筆者の記憶のなかのヤリスより、乗り心地ははっきりスポーツカー的に硬い。試乗会には18インチ仕様しかなかったけれど、これは3種類のあるグレードのうち最上級のZのみの標準装備で、あとは16インチ。つまり、筆者のようにもう少しソフトな乗り心地がお好みな方は16インチでよろしいのではないかと推察する。

Hiromitsu Yasuiと、書いたものの、ホイールは大きいほうがカッコいい、というご意見もなるほどである。ダンロップとの共同開発による18インチ、215/50サイズのタイヤは、静粛性を重視したそうで、ロード・ノイズはカローラよりも低いと感じた。速度をあげると、SUVというカタチ上、風切音が増すのは致し方ない。

動力性能は1.5のガソリンでも十分である。1490ccの直列3気筒エンジンは120psと145Nm。80.5×97.6mmのロング・ストローク型で、中低速トルクがあって、上までまわさない限り、静かだ。

Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiハイブリッドはさらなりである。こちらは91psと120Nmにデチューンした基本的にはおなじ3気筒に、80psと141Nmを生み出す電気モーターを組み合わせている。リチウムイオン電池の性能アップもあって、モーターの守備範囲は広がっており、ガソリンのみより、その疾(はや)きこと風の如く、その徐(しず)かなること林の如しである。車重がガソリンのみに較べ50kgほど重いこともあってだろう、乗り心地もハイブリッドのほうが全体に落ち着いている。ハイブリッドのリア・モーター駆動による4WDはさらに車重が80kg増えて、いちばん落ち着いている。

燃費は横浜みなとみらい地区をウロウロしているだけなのに、ガソリンでもリッター14.2kmだから優秀だ。ハイブリッドのFWDはカタログ燃費で、グレードにより異なるものの、より厳しいWLTCモードでリッター27.8km以上をうたっている。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiおまけに最新の予防安全パッケージ(衝突回避または被害軽減に寄与するプリクラッシュセーフティなど)、1度使ったらやめられない全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロール、レーントレーシングアシスト(車線の中央を走るためにステアリング操作の一部を支援)、そしてトヨタ初の横風対応制御付きS-VSCなどの運転支援システムを最廉価なグレード以外に標準装備する。

横風対応制御付きS-VSC(Steering assisted Vehicle Stability Control)は高速走行中の強い横風でクルマが1レーンほども流されそうになったときに、横風を受けている側の前後ブレーキをかけてやることにより、逆の動きをつくり出して車線からの逸脱を防ごうというもので、クルマが動いてから作動する。試乗の日は風が強く、筆者も1度、海沿いの高速道路を走行中に、それらしき現象を体験した。時代は自動運転化へと向かっているのだから当然かもしれないけれど、これら予防安全システムは法制化の流れにあるという。ステアリング・フィールに違和感をおぼえるひとは、オフにすることもできる。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui4WDの新機構

さらに販売の2割を占めるであろう4WDモデルには新趣向もある。ガソリン、ハイブリッドともども、オフロードや滑りやすい路面でのドライブ・モードが設定されているのだ。

ガソリン・モデルでは、マルチテレインセレクトなるシステムがそれで、ノーマル、スノーのほかにマッド&サンドとロック&ダートの2つのモードが用意されている。マッドでもロックでも、マルチテレインセレクトのスイッチを押すと、前後のトルク配分が50対50に固定される。あとはブレーキ制御によって空転しているタイヤを止めて、ディファレンシャルをロックするのと同じ機能を持たせ、トラクション・コントロールとの連動でもって脱出を図る。

Hiromitsu Yasuiハイブリッドの4WDは例によって後輪をリアのモーターで駆動する、プロペラシャフトを持たないE-Four(電気式4WDシステム)ということもあって、4WD としての能力はシャフトで動かすコンベンショナルなシステムよりも劣る。ということもあって、こちらではスノーのほかに脱出用としてトレイルというひとくくりにしたモードが設けられている。

トレイルにすると、同様に前後トルク配分が50:50となり、ブレーキとエンジン出力の制御によって脱出を容易にする。開発担当者によると、ガソリン4WDのように岩場と砂地モードを設定しなかったのは、ユーザーになんでもできちゃうという誤解を避けるためだったというから良心的だ。E-Four はあくまで生活四駆で、冒険用ではない。

Hiromitsu Yasui脱出モードは、E-Fourではモーターの加熱を防ぐために10km/h以下、ガソリン4WDでも25km/h以下でしか使えない。

とはいえ、どちらも、それぞれのモードを使えば、フツウに遭遇しうる、たいていのスタックは脱出できるというのだから心強い。

Hiromitsu Yasuiトヨタのスゴイところ

最新予防安全パッケージを標準装備するヤリス・クロスの車両価格は、189万6000円から281万5000円までと、ヤリスより30万円ほどのプラスにとどまる、お値打ち価格におさまっている。

たとえば、大人気の1クラス下のスモールSUV、トヨタ・ライズは1.0リッター直列3気筒ガソリンターボで、167万9000円から228万2200円。20万円プラスで、1.5リッターのコンパクトSUVが手に入るのだ。予防安全パッケージなしでもよければ、179万8000円と、10万円しかライズとの差がない。

Hiromitsu Yasuiヤリス・クロスより上だと、「C-HR」が238万2000円から、「RAV4」だと274万3000円からなので、腰を落ち着けて相談しないといけない。

他社のライバルはというと、ホンダ「ヴェゼル」は211万3426円から、日産「キックス」はシリーズハイブリッドのeパワーのみということもあって275万9900円。マツダ「CX-3」は189万2000円からで、筆者はよいと思うけれど、ヤリス・クロスと較べるにはスタイルがハッチバックに近過ぎるかもしれない。つまるところ、ヤリス・クロスは価格面でライバル車を圧倒している。

月販目標は4100台。販売は好調で、いま注文して納車が年内に間に合うかどうか。ハイブリッドのほうが人気は高くて、主な購買層は子育ての終わった中高年。それと若者だそうで、それというのも子育て真っ只中のひとたちはやっぱりミニバンにいくからだという。ちなみにヨーロッパでは、子離れしたキャリア女性をターゲットにしている。なるほどなぁ。キャリア女性と聞いて合点がいった。

Hiromitsu Yasuiただ、筆者にとってお値打ち感があったかというと、それはまた別の話だ。いちばんたっぷり試乗したハイブリッドZ、FFモデルは車両価格が258万4000円。アダプティブハイビームとカラーヘッドアップディスプレイがセットになって9万9000円、ハンズフリーパワーバックドアが7万7000円、T-Connectナビキット(販売店オプション)11万円、などのオプションが61万5285円ついていて、総額319万9285円。4WDの試乗車の総額は347万3625円。最初に試乗した1.5ガソリンのZだって、車両価格は221万円だけれど、オプション込みだと272万6285円である。

いいクルマってなんだろう。強い横風であおられるけれど、ブレーキの制御で車線を維持してくれるクルマか、それとも強い横風にも負ケズ、まっすぐ走るクルマか。

クルマに対する価値観はさまざまで、世のなかが自動運転へと向かっていることは承知している。私は時代遅れの少数派だ。という自覚もあります。だって、ヤリス・クロスはこのコロナ禍にあって飛ぶように売れている。でも、こういいたい。自動車というのは人間を解放するものであってほしい、と。

ワクワクドキドキがヤリス・クロスにあったかというと、ヤリス 1.5のマニュアルのほうが私には魅力的だった。だったら、そっち買えばいいじゃん、というだけの話ですって? ま、そうですね。批判に応える懐の深さ。そこがトヨタのスゴイところなのであります。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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みんなのコメント

4件
  • 近くのトヨタ店ではヤリスクロスが展示されだしたらライズの展示車が引っ込められた
    家族連れにリアの居住性を比較されたらライズを選ばれてしまうからだろか?
  • ヤリクロ、人気だね
    トヨタ一人勝ち
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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