フロントフェイスには赤十字と人を飲み込む大蛇のエンブレム、そして大きな盾。そして、スタイリッシュなボディはひと目でアルファロメオとわからせる。創立113年と長い歴史と伝統を持つアルファロメオのいまに迫る。(Motor Magazine 2023年12月号より)
はたして「アルファロメオらしさ」とは
「アルファロメオ」という響きには、どこか甘美な香りがまとわりついてるように感じられてならない。眺めてるときの陶酔? 走ってるときの快感? いずれにせよそれは香りと同じで、数値には表れてこないし言語化もしにくい何かに、確実に心がくすぐられている、ということになるのだろう。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
アルフィスティたちは、それをアルファロメオらしさ」と表現することが少なくない。ならば、その「らしさ」とは何なのか。
実はアルファの「らしさ」は、定義づけが難しい。数値に表れず言語化もしにくい領域に核があるのだから、それは個人個人の想いや感覚によって左右されるところがあることを意味している。味のいいエンジン、心躍るハンドリング、世界観に浸れるスタイリングなどなど、人によって思い浮かべるものが異なり、温度感も違い、あまりにも千差万別なのだ。
ただ、僕もアルファ乗りのひとりでもあり、仕事を通じて初代ジュリア以降のほぼすべてのプロダクションモデルに触れてくることができた幸運な身の上。「らしさ」については散々考えたし、出逢った数多くのアルファ乗りたちの言葉から想いをひとつひとつ抽出してみたりもして、今では“らしさ”の共通項みたいなものを浮き彫りにできている気がする。
「普遍性を秘めた蠱惑(こわく)的にしてインプレッシヴなスタイリング」
「ドライバーがたっぷりとのめり込むことのできる操縦感覚」
「どこまでも心くすぐる豊穣なドライビングプレジャー」
「乗ることを考えただけで自然と気持ちが浮き立ってくる、日常の中の不思議な非日常感」
言葉にしてしまうと罪深いくらいに陳腐だけど、いろいろとあるアルファの「らしさ」を丁寧に濾過すると、おそらくそうなる。端的に言うなら「美」と「快」、くだけた言い方にするなら「カッコイイ」ことと「楽しい」ことを2本の太い柱にして、113年もの間、クルマ作りを続けてきているのだ。
では、もっとも新しいジェネレーションとなる現行アルファロメオも、そうした「らしさ」を持つのか? 気になるところだろう。
どの世代も印象的なこだわりのスタイリング
ミラノの紋章である赤い十字とヴィスコンティ家の家紋であるビショーネが並ぶ円形のエンブレムとスクデット(註:小さな盾、の意味)さえフロントの真ん中にあしらわれていれば、どんな姿をしていてもアルファロメオ。そんなふうに揶揄されることもあるし、ある意味それは納得せざるを得ないところでもある。
というのも、アルファロメオは歴史的に見て、その造形の変遷における一貫性というものが薄いのだ。たとえばひとつの世代から次の新しい世代に切り替わるときに、イメージを受け継いだりすることがまずない。
わかりやすい例をあげるなら、アルファスッド、アルファ33、145、147、ジュリエッタという流れなど、その典型もいいところだ。
エンブレム、スクデット、そしてそのスクデットと下側左右のグリル(あるいはトリム)で三つ葉飾りのような構成とする、1941年代の6C2500スポルト・ピニンファリーナのあたりですでに原形ができている「トリロボ(=三つ葉)」と呼ばれる伝統的な意匠という極めて特徴的な3つを織り込むことで、それぞれをアルファロメオたらしめてきたようなところがある。
そうしたアイデンティティの提示と同じくらい重視してきたのが、フォルムやそれ以外のディテールを、その時代の同じクラスの中でもっとも美しく見えるようこだわり抜いてスタイリングする、ということだった。時代ごと、世代ごとに美しさの方向性が異なっていて、なのにそれぞれ極めて印象的なのは、だからなのだろう。
現行ラインナップのそれぞれのモデルのスタイリングも、僕はなかなかのものだと感じている。
色香匂い立つ艶やかなセダンのジュリア
最初に登場したのは、2015年に発表されたジュリアだった。
2012年に生産が終了した159以来のセダン、特殊なモデルを除けば1993年まで作られたスパイダーシリーズ4以来の後輪駆動。その後輪を柱に4つのタイヤの位置決めを念入りに行ったかのようなバランスを見せる新型ジュリアのプロポーションは、当時のセダンのトレンドに近いと言えば近いシルエットを見せていたこともあって、「BMWの3シリーズみたいだ」とか「レガシィB4にも似てる」というような声も上がったりはした。
が、それはとんだ的外れ。たしかにボンヤリとシルエットだけを見ていれば流行りのフォルムを持った1台に思えたかもしれない。けれどジュリアの造形はセダンとしての塊感の中に伸ばすべき線は綺麗に伸ばし、丸めるべき面は滑らかに丸め、膨らませるところは絶妙に膨らませ、抉り込むところは大胆に抉り、という彫刻的な要素がたっぷりと込められている。
ライバルたちと較べればはっきりと色香が匂い立っていて、扇情的な印象だった。
セダンにはフォーマルな要素も求められたりはするが、ここまで艶やかだとギリギリなんじゃないか? なんて思わされたものだった。
2023年6月に日本仕様にもマイナーチェンジが施され、ジュリアもトナーレからスタートした3+3ヘッドランプを持つフロントまわりへと変更された。おかげで彫りの深いキリッとした顔立ちとなった。
旧型のシンプルな顔立ちの方が好きという人とすでに意見が分かれているところもあるけれど、眼力の強さがジュリアの彫刻的なボディの面構成を引き立ててるところもあり、そのあたりの加減は巧みだなと思わされる。
ジュリアのテイストをそのままSUVに落とし込んだのが、2016年にデビューしたステルヴィオだ。
ジュリアより大柄で車体の表面積も広い分、ほんの少しだけ彫刻っぽさは薄らいでいるが、それでも充分に立体的だし、リアセクションをクーペ風に、ショルダーラインに絶妙な抑揚を持たせたりすることで、見る者が視線をなかなか外しにくいルックスを構築している。SUVにしてはたっぷりとセンシュアルな姿だと思う。
かつての名車のディテールを再解釈して登場したトナーレ
同じSUVにして妹にあたるトナーレのデザインは、ステルヴィオと較べると小柄だし若さが漂っている感があってセンシュアリティという面では一歩譲るが、デザインの面ではとても興味深い。
初代ジュリア クーペ、ES30のSZ、8Cコンペティツィオーネ、スプリント スペチアーレ、ディスコヴォランテ、8C2900、164、ブレラ、GTV……。名前を並べ始めたらキリがないくらい、かつてのアルファロメオの名車たちのディテールを再解釈して、1台のSUVに同居させているのだ。それもまったく矛盾もなく、綺麗にまとまったカタチで。
トナーレはアルファ初の電動化モデルということで、デザイナー陣は新しい時代を迎えるにあたり、自分たちのブランドが持つ歴史の豊かさをクルマに盛り込もうと考えた様子。それが綺麗に成し遂げられていると思う。
アルファを知る人にはヘリテージ探しにニンマリできて、知らない人でもすんなり心惹きつけられる華やかさと細部まで行き届いた造形美。思わず“上手いなぁ”と唸らされる。
この3台のエクステリアデザインを取りまとめたのは、アルファロメオ チェントロスティーレのアレッサンドロ・マッコリーニ氏。他のメーカーから引きが来ても動かず、アルファロメオ一筋でデザインをしてきた彼だからこそ、アルファロメオならではの蠱惑的なスタイリングができたのだろう。
3台のインテリアは、それぞれ見せ方は少しずつ異なるものの、考え方は同じ。基本的には水平基のダッシュボードのセンターにコンソールをTの字型にジョイントさせて、ドライバーが積極的に操作したいものだったり頻繁な操作が必要になったりするスイッチ/ダイヤル類を、操縦する者と近いところに配置するレイアウトだ。
メーターパネルが昔のジュリアGTのような2眼風のナセルで包まれ、タッチパネルのモニターと綺麗に横並びになっているのも3車共通だ。
そして見逃してはならないのは、世界中の2ペダル式車両の中でも1、2を争うほど触感がよくクリック感も快いアルミ削り出しのパドルが、ステルヴィオとトナーレの「TI」グレードを除く全車に標準で備わっていることだ。積極的に指で弾きながら走りたくなるこのパドルは、あるのとないのとでは気持ちの持ちようが大きく変わってくる。
マニュアルトランスミッションを好むドライバーはシフトフィールについて語ることが多いが、アルファのアルミ製パドルも語りたくなるほどのレベルにある。走ることに「快」を求める人の気持ちにきっちり寄りそっているあたり、アルファロメオ以外の何者でもないと思う。
ただ走るだけで楽しく気持ちのよいスポーツセダン
そのパドルを弾きながら、3台それぞれを走らせよう。
唯一のセダンであるジュリアは、現在、クアドリフォリオのほかにはこのヴェローチェのみの導入となる。510ps+FRというクアドリフォリオにも憧れはあるが、僕はどちらかといえばこのヴェローチェのファンだ。
280psに400Nmとは思えないほどの、けれど決して持てあますことのないちょうどいいバランスの速さがあるし、いつの間にか2L直列4気筒ターボのサウンドの歯切れの良さが増していて、ただ走るだけで楽しいし気持ちいい。
12:1を切る恐ろしくクイックなステアリングギアレシオとLSDの組み合わせが生み出す、シャープという言葉で単純に言い表すことができない、快感に満ちたハンドリング。デビューから時間が経ったことでかなり熟して、乗り心地まで素晴らしいレベルに到達している。他にも魅力のあるセダンは存在しているけど、僕にとってはこれこそが世界でいちばん心躍るスポーツセダンなのだ。
ステルヴィオ・ヴェローチェも基本、ジュリア・ヴェローチェと同一線上にあると言っていいだろう。ジュリアがそのままSUVになったようなものだ。
車重はジュリアより重いから加速の勢いではほんのわずか譲るし、ジオメトリーやエンジン搭載位置などでだいぶ寄せているとはいえやはり、セダン有利となるが、加速も巡航もスピードは十分以上だし、“ホントにSUVだっけ?”と疑いたくなるほどの軽やかで鮮やかなコーナリングを楽しませてもくれる。
最強のライバルは、身内から誕生した
ステルヴィオも心躍るSUVだったのだが、強力なライバルが現れた。それも身内から。そう、トナーレである。しかもトナーレにはMHEVとPHEVの2タイプがあって、それぞれ異なる楽しさと気持ち良さを持っているのだ。
アルファSUV3台からベストを決めろといわれたら、かなり真剣に悩み込むくらいに。
MHEVは走行感覚がかなりICE寄りで、誤解を恐れずに言うならライトウエイトスポーツカーのような面白さ。すごく速いというわけでもないが、軽快で気持ちいい。PHEVはモーター寄りで、GTカー的な要素の強いスポーツカーのような性格。ステルヴィオ並みのパワーがあるから充分に速いが、フラットに素早くスピードを積み上げていくタイプだから、速さを感じさせないのに速い。
ステルヴィオがジュリアと同じく驚くほどクイックなステアリングギアレシオでノーズをスパッとインに食い込ませ、それを安定方向にある長めのホイールベースで受け止めていくのに対し、トナーレはほどほどに素早くハンドルを切ってロールが始まると前下がりのロールセンターが活きてグイグイとインに入っていく感触。しかもPHEVモデルは前はエンジン、後はモーターの4WDの制御が加わるから、MHEVとはまた似て異なる感触があるのだ。
SUV1台を選ぶには悩ましすぎる、3つの個性
アルファのSUV選びは、楽しさと気持ち良さの観点から考えると、悩ましい。でもSUVを選ぶなら、この3台のどれかがいい。そう思わせるほど魅力的なのだ。
僕は楽しいクルマ、気持ちいいクルマが大好きだ。誰かに勧めるときには別のチョイスをするかもしれないが、自分自身のクルマ選びの基準はそこにある。というか、そこしかない。そして僕はアルファロメオの新世代のアルファたちに心を奪われている。見事に。
そうそう、忘れてた。アルファロメオの「らしさ」には、もうひとつある。それは「ドライバーの心をいつしか鷲掴みにして離さない」、である。現行アルファも間違いなくアルファロメオ、なのだ。
(文:嶋田智之/写真:永元秀和)
アルファロメオ ジュリア 2.0ターボ ヴェローチェ主要諸元
●全長×全幅×全高:4655×1865×1435mm
●ホイールベース:2820mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直4SOHCマルチエアターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:206kW(280ps)/5250rpm
●最大トルク:400Nm/2250rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・58L
●WLTCモード燃費:12.1km/L
●タイヤサイズ:前225/40R19 後255/35R19
●車両価格(税込):680万円
アルファロメオ ステルヴィオ 2.0ターボ Q4 ヴェローチェ主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1905×1680mm
●ホイールベース:2820mm
●車両重量:1810kg
●エンジン:直4SOHCマルチエアターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:206kW(280ps)/5250rpm
●最大トルク:400Nm/2250rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・64L
●WLTCモード燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:225/40R21
●車両価格(税込):828万円
アルファロメオ トナーレ プラグインハイブリッド Q4 ヴェローチェ主要諸元
●全長×全幅×全高:4530×1835×1615mm
●ホイールベース:2635mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:直4SOHCマルチエアターボ+モーター
●総排気量:1331cc
●最高出力:132kW(180ps)/5700rpm
●最大トルク:270Nm/1850rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・42.5L
●WLTCモード燃費:14.1km/L
●タイヤサイズ:235/40R20
●車両価格(税込):740万円
[ アルバム : アルファロメオ ジュリア&ステルヴィオ&トナーレ プラグインハイブリッド はオリジナルサイトでご覧ください ]
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