VWの本社で分解されたフィアット128
執筆:Simon Hucknall(サイモン・ハックナル)
<span>【画像】FFの元祖と定番 フィアット128とVWゴルフ 最新の純EV版フィアット500も 全75枚</span>
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
最近、英国の郊外でもフィアット128を目にする機会は殆どない。恐らく21世紀に入ってからは見かけていない。運輸省によれば、英国でナンバー登録されている128は4台しかないというから、当然かも知れない。
すっかり過去のクルマとなった四角いフィアットだが、シンプルなボディの内側には現代のモデルへ通じる技術が潜んでいる。今のフィアット500やフォルクスワーゲン・ゴルフとも、深い関わりがある。
それは、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)という構成。50年の時間を挟んで、駆動系のレイアウトで共通する2台が、どれほど違い、似ているのか。元祖FFのフィアット128と、現代のFFハッチバックの定番、ゴルフを比較してみることにした。
フィアット128が発売されたのは、1969年。1970年には欧州カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。同じ頃、フォルクスワーゲンはタイプI、初代ビートルのモデルチェンジに迫られ、次期モデルへFFレイアウトを与える決定をした。
スタイリングを任されたのは、デザイナーのジョルジェット・ジウジアーロ氏。フォルクスワーゲンの本社があるドイツ・ヴォルフスブルクを訪ねると、研究開発部門には分解されたフィアット128が置いてあったという。
すべてのコンポーネントにラベルが貼られ、番号が振られていたそうだ。なぜ、簡素なスタイリングのイタリア車に、フォルクスワーゲンの技術者は強い関心を寄せたのか。一見すると、画期的な技術とは無縁に思える。
現代的なFF構造を初めて採用したモデル
その理由は、量産車として現代的なFF構造を初めて搭載したモデルだったから。コンパクトなシャシーに、新しいドライブトレインが巧みに組み合わされていた。運転が楽しいだけでなく、車内空間も広く取ることができていた。
実際、全長3.8m、全幅1.6mほどの小さいボディながら、同時期では128ほど空間効率に優れたモデルは存在しない。クルマの面積のうち、約80%が乗員と荷室の空間に充てられていた。それこそ、FFレイアウトのおかげだ。
量産メーカーとしてFFレイアウトを導入し、高い費用対効果を得られる仕組みが、フィアット128には備わっていたのだ。
10年前に登場していたBMCミニもFFだが、基本的な構造が異なる。トランスミッションがエンジンの下ではなく、横につながっていた点がポイントだった。潤滑性に優れ、最高出力や耐久性、変速の質感など、多くのメリットが存在していた。
このレイアウトは、パワーの伝達効率にも優れていた。初期の128のエンジンは55psを発揮したが、51psがフロントタイヤへ伝わっていたという。クラッチ交換もしやすい。
フロントグリルの直後にラジエターを搭載し、電動ファンを採用していたことも、ミニとは異なる。短時間にエンジンが温まり、ノイズも減らし、優れた冷却性能も得ていた。
フィアットの伝説的なエンジニアで、128の生みの親といえるのが、ダンテ・ジアコーサ氏。現代へ通じるパワートレインのレイアウトを実現するため、更に多くの先見的な技術開発も成し遂げている。
フェラーリの技術者によるエンジン
エンジンとトランスミッションが横置きされる都合で、左右のドライブシャフトの長さを変える必要があった。しかし長さが異なると、加速時にステアリングへ影響が出る、トルクステアが生じてしまう。
そこでジアコーサはシャフトの太さを調整。左右で直径を変えることでねじり剛性を等しくし、トルクステアを低減させている。
さらにエンジンルーム内に充分な空間を確保するため、フロント・サスペンションにはマクファーソンストラット式を採用。ストラットとロワー・ウイッシュボーンはリア・サスペンションと共通とした。
リアには、フロントより大きなリーフスプリングを横方向にマウント。アンチロールバーとしての機能も持たせてある。
こんな先進的なフィアット128を、かのエンツォ・フェラーリ氏は普段の足として乗っていたとか。128が発売された1969年、フェラーリはフィアット傘下となったという時系列も興味深い。
フェラーリとフィアットとの関係性でいえば、1950年代から1960年代にかけてフェラーリのF1マシンを手掛けた技術者、アウレリオ・ランプレディ氏も128にとって重要な役割を果たしている。
128に搭載された1116cc直列4気筒エンジンは、ランプレディによるもの。高回転型でオーバースクエア構造の、堅牢なユニットが開発された。これにも、現在へ通じる多くの技術的特徴が盛り込まれている。
完成されていたパッケージング
今となってはシングル・オーバーヘッドカム、SOHCは一般的な構造だが、1969年当時は先進的といえた技術の1つ。パワー特性に優れ、複数の最高出力の設定が与えられた。排気量も、モデル末期までに40%ほど拡大できる余裕もあった。
タイミングチェーンではなく、タイミングベルトを用いていたことも特色。耐久性は短くなったものの、洗練された回転フィールを叶えている。
加えてフロント側にディスクブレーキが組まれ、ステアリングには精度に優れたラックアンドピニオン式を採用。完成されたパッケージングとして、現在のコンパクトモデルの多くにも見られる組み合わせだといえる。
すっかりメカニズムの説明が長くなってしまったが、ピピンレッドに塗られたフィアット128と、鮮やかなイエローが眩しい8代目フォルクスワーゲン・ゴルフの2台を並べた。ちなみにこの128は、筆者が所有しているクルマだ。
フェイスリフト後の1977年式で、1300ccのエンジンが載っている。父は1970年に初期型を購入し、気に入ったのかこのクルマへ乗り換えている。それ以来、ずっと筆者の一家が維持してきた。
同時に、少なくない数のフォルクスワーゲン・ゴルフも、筆者の元へやってきた。ゴルフはモデルチェンジを重ね、最新版を今でも楽しむことができる。だが、128は約40年前に消滅してしまった。いずれにしろ、どちらのクルマもリスペクトしている。
この続きは後編にて。
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