1970年~1980年代に発売された国産旧車が、“絶版旧車”と呼ばれ人気だ。当時憧れていた世代はもちろんのこと、今どきのヤングライダーたちも“カッコいい!”と、注目する絶版旧車の魅力を、バイク好きの俳優・大野拓朗と元バイク雑誌編集長・カワニシが語り合う。今回は“ジャジャ馬”と呼ばれるキャラクターで人気を誇ったカワサキ「マッハIII」に試乗!
まっすぐ走らない? 止まらない?
賢い大型犬のような1台──新型スバル レガシィ アウトバック試乗記
河西啓介(以下、カワニシ):マッハゴーゴー♪ マッハゴーゴー♪
大野拓朗(以下、大野):その歌知っています!僕が小さい頃にも第2作をやっていました。好きでよく観ていたのですが、幼少期のことなので内容はあまり覚えていません。
カワニシ:1967(昭和42)年に放映されたテレビアニメ『マッハGo Go Go』の主題歌。主人公のレーサー、三船剛がマッハ号で世界のレースに参戦し成長していくストーリーで、アメリカでは『Speed Racer』というタイトルで放映されて人気を博したんですよ。
大野:あと、確か実写映画化もされていましたよね(2008年にアメリカで製作され公開)。
カワニシ:確かそうでしたね。アメリカ人はレースやスピードが大好きですよね。音速を表す“マッハ”は、1960~1970年代の頃は凄いスピードの代名詞としてよく使われていたんです。「マッハの速さだ!」なんて言っていたし、女子プロレスラーのマッハ文朱(ふみあけ)もいたな。
大野:あはは、今は“マッハ”ってあまり使わないですよね。
カワニシ:今日、試乗するのはその“マッハ”なんです。1960年代後半、アメリカ市場で販売拡大を目論んでいたカワサキが「廉価で速いバイクを」という市場からの要望を受けて、 1969年、軽くてハイパワーな2ストローク500cc、3気筒エンジンを積んだマッハIII(スリー)を登場させた。最高速度200km/h、ゼロヨン12秒台という、当時のバイクとしてはとんでもないスピードを誇っていました。
大野:前回は1972年デビューのカワサキ「Z1」に試乗しましたが、その少し前の世代のモデルですね。
カワニシ:そう、Z1もアメリカ市場での成功を目指してつくられたスポーツバイクだけど、4ストロークのDOHCエンジンを積み、バイクとして完成度は高かった。それに対してマッハは少々乱暴というか、速いけど「まっすぐ走らない」、「すぐウイリーする」、「止まらない」などと言われて、それがいつしかジャジャ馬伝説として語り継がれるようになったんです。
大野:まっすぐ走らない! 止まらない!……。旧車経験の少ない僕が乗っても大丈夫でしょうか……。
カワニシ:構造的にフロントの荷重が少なめだったり、ドラムブレーキの制動力が物足りなかったり、完成度の低いところはあるけど、ちゃんと整備されたマシンなら、危ないってことはないでしょう。ではさっそく乗ってみましょう。
2ストロークエンジンの爆発的加速大野:実際に見てみると、すごくコンパクトですね。それに跨ってみると軽い! ジャジャ馬というイメージだったのでもっとゴツいバイクを想像していたんですけど、ちょっと安心しました。
カワニシ:2ストロークエンジンは構造がシンプルなので車体を軽くコンパクトにできるんです。小さな排気量から大きなパワーを出せるのも2ストのメリット。それゆえ二輪のレーシングマシンは1990年代まで2ストロークが主流でしたね。
大野:おお、キックペダルを踏んだら軽くエンジンがかった! でもバリバリバリバリ……ってすごい音がするんだけど、壊れていませんよね? マフラーからは白い煙がモクモク出ているし……。
カワニシ:この甲高いサウンドと白煙は2ストロークエンジンの特徴です。それにしてもマッハのスモークはすごいですけどね。
大野:あれ? ギヤが1速に入らない。ペダルを踏み込むとニュートラルになっちゃます……(汗)
カワニシ:マッハ3は「ボトムニュートラル」といって、ギヤペダルを一番下まで踏み込むとニュートラル、そこからひとつかき上げてロー(1速)に入るんです。ふつうのバイクは一番下がローだから、わからなくて戸惑う人も多いですね。
大野:そうなんですね。でもボトムニュートラルって、慣れるとラクかも。バイクってギアをニュートラルに入れるのにコツが必要だから、むしろ一番下まで踏み込んでニュートラルって、わかりやすい。
カワニシ:1960年代ぐらいまではギアも右足チェンジとかメーカーによっていろんな方式があったのですが、徐々にギヤは左足側で、ニュートラルは1速と2速の間に配されるというパターンが定着したんです。
大野:あれ? アクセルを開けてもなかなかスピードが出ないな。思ったより大人しくて、加速がモワーっとしている感じ。
カワニシ:それはエンジン回転が“パワーバンド”に入っていないから。2ストロークエンジンは二次曲線的な加速が特徴で、低回転域ではトルクも細くてパワーも出ないんです。でもある回転に達するとヴィーン!とエンジン音が甲高く変わって爆発的に加速するんです。クルマでいうと昔のターボ車みたいな感じ。拓朗くんはその手前の回転域で走っていたんですね。
量産二輪車世界最速を誇った“ジャジャ馬”大野:そのジェット加速を感じてみたいけど、そこまでまわすのがちょっと怖いですね。公道でも体験できるものですか?
カワニシ:低いギヤで引っ張ればそんなにスピードを出さなくても体感できるけど、すると前輪が持ち上がってウイリーする可能性もあるし、コントロールが難しいですよね。
大野:でもジャジャ馬の雰囲気は味わえました! エンジンが小刻みに振動していて、音もガリガリ、バリバリバリ!って、マッハIIIのイメージどおりでしたね。なにしろ2ストロークエンジン自体が初めてだったので、新鮮でした。
カワニシ:1960年代当時の量産二輪車としては世界最速の200km/hを誇ったバイクですから、全開加速はめちゃくちゃ豪快ですよ。開発時のテスト走行では既存のタイヤが加速に耐えきれずトレッド剥離してしまい、ダンロップがマッハ専用のタイヤを開発したという逸話があるぐらい。
大野:いつか機会があれば思い切り走らせられる場所で試乗して、その伝説的な加速を味わってみたいですね。とはいえ調子がいい個体はもはや希少なんですよね?
カワニシ:そうですね。調子がいいものはかなり少なくなっています。とくに今回試乗したのは燃料タンクのニーグリップ部分が抉られたようにプレスされた、通称“エグリタンク”と呼ばれる初期モデルなのでとても貴重なんです。価格も上がってきていて、程度のいいマッハIIIは300万円台が相場ですね。
大野:今回はそんな希少なモデルに試乗させていただき、本当に嬉しいです。今回試乗した数台の中でもマッハはいちばん現代のバイクとの違いを感じるというか、「旧車に乗っている!」という感じがしました。バイクがまだまだ未完成で、だからこそ“夢”が溢れていた時代の空気を感じさせてくれる一台ですね。
大野拓朗(おおの・たくろう)1988年、東京都出身。2009 年に第25回ミスター立教に選出。2010年に俳優デビュー。NHK連続テレビ小説や大河ドラマをはじめ、数多くのドラマ、映画、ミュージカル、舞台作品に 出演。2023年11月25日からは舞台の本場である英国のミュージカル『Pacific Overtures (太平洋序曲)』に、リードロールとして出演中。英国ガーディアン紙をはじめとした劇評で高評価を得ている。
【過去連載】
Vol.1 ホンダCBX400F
Vol.2 カワサキ900スーパー4(Z1)
文・河西啓介 写真・安井宏充(Weekend.) スタイリスト・堀直樹 ヘア&メイク・Ryo 編集・稲垣邦康(GQ) 取材協力・UEMATSU
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みんなのコメント
乗り味は巷で言われているほど過激てはなく、普通に走らせれば相応に走れました。発進加速でガっと開けてもウイリーはしなかったです。するほど開けられていなかったのかもしれませんが。雨が降るとブレーキが全く効かなくなるのは本当。これには辟易しました。あと、真ん中のピストンが焼き付き気味になるので、ここだけガスが濃くなるようにキャブ調整していましたね。
今、もし乗るチャンスがあったら、どんな乗り味が感じられるのかな。
曲がらない
まっすぐ走らない
だったと思う