ポルシェの新型「911」に設定された「ターボS・カブリオレ」に今尾直樹が京都で試乗した。ポルシェ初の量販EV(電気自動車)「タイカン」の試乗を経て乗った最新911の印象とは?
“大スター”のステアリングを握る
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ぐるるる、ぶうんっ! スターターをひねると爆裂音がして、フラット6特有のサウンドがリアから聞こえてくる。いいですねぇ~。911の高性能モデルというのは、アイドリングのとき、横に揺れるような気がするのは筆者だけでしょうか。ドコドコドコドコという鼓動を感じながら、「屋根はどうします?」とポルシェ・ジャパンのひとがおたずねになるので、「開けていきます」と答える。
本来、カブリオレというのは耐候性に優れた幌を持っていて、閉じている状態が標準状態で、開けるのは気が向いた時だけでいい、と、先達から教わった。オープンがスタンダードのスパイダーとかロードスターとはそこが異なる。なので、閉じたままでもよかったけれど、快晴の古都を911の最上位モデルで走るときに開けずして、いつ開ける。ここはひとつ、パーっといきましょう。
2020年の師走、タイカン試乗会の2日目、筆者は911ターボSカブリオレという、3180万円もする路上の大スターのステアリングを握る僥倖に恵まれた。
2020年3月に発表された現行911のフラッグシップは、最高出力650ps/6750rpm、最大トルク800Nm/2500~4000rpmというスーパーカー級のパワー&トルクを誇る。
ベースの911カレラのフラット6は排気量3.0リッターで、最高出力385ps、最大トルク450Nmだから、この911一族のラスボスは、パワーで1.7倍、トルクで1.8倍近くもてんこ盛りになっている。
この超高性能パワー・プラントに対応すべく、8速PDKは専用で、駆動方式は従来通りの4WDを採用。さらにシャシー性能を上げるためにトレッドをフロント42mm、リア10mm広げてもいる。前後異径の、フロント20インチ 、リア21インチのタイヤ・サイズは、カレラ、カレラSよりひとまわり極太の前255/35、後315/30という、ともにZR規格のグッドイヤー ・イーグルF1を試乗車は履いている。
ポルシェは常にポルシェ
そのボディのグラマラスなこと。フロントのフェンダーは45mm、リアは20mmワイドとなり、いわば、前がバンバーン、お尻がバーンと、ここまで出てなくてもいいんですけど、というぐらい、フツウの911よりもメリハリが効いている。
前後ともに、黒光りしたホイールの奥に巨大なカーボン・セラミックのディスクと黄色のキャリパーがのぞいていて、思わずそこで目が止まる。強力なストッピング・パワーをチラ見せしているわけである。
走り始めると、当然のごとく、乗り心地はたいへん堅くひき締まっている。ステアリングは重めで、ペダル類の剛性感も、たぶん高いのではあるまいか。
911というお弁当箱にシュトゥットガルト名物の料理、って知らないのですけれど、ともかくそれをむりやりフツウ盛りの1.8倍詰め込んで、弁当箱がふくらんじゃっているスペシャル、なわけだから、当然それにふさわしい乗り心地に仕立てられている。筋肉モリモリ。
なにに似ているかといえば、前日に試乗したタイカン・ターボSが、直近で体験したなかではいちばん近い。
「フルエレクトリックであっても、ポルシェは常にポルシェです」という、タイカンのカタログにあるポルシェAGの開発担当役員のミヒャエル・シュタイナー氏のことばが、最新の911ターボSカブリオレにも乗ってみたことで、あらためてよ~くわかる。
わかっちゃいるけど、やめられない!
とはいえ、そこには大きな違いもやっぱりある。それは、言ってもせんないことだけれど、かたやモーター、こなた内燃機関、わけてもポルシェの伝家の宝刀フラット6という違いだ。モーターは、「ソウル、エレクトリファイド」といっても、エレクトリファイドされたソウルなので1本調子。1964年から続くポルシェのフラット6には、たとえ21世紀の最新モデルであろうと、電化されていない、過激なロマンチシズムというべき、生身の魂が宿っている。
タイカン・ターボSも911ターボSカブリオレも0-100km/h加速2.8秒(クーペは2.7秒!)というとんでもない速さを誇るけれど、速さの質が異なる。山道を走るときはもちろん、フツーに走っているとき、いやイグニッションをオンにした瞬間から明瞭に違う。だって、モーターは電子音がするぐらいで、ドコドコ言わない。
試乗車には、「スポーツ・エグゾースト・システム」が付いていることもあって、ドライブ・モードを「スポーツ」に切り替えると、アイドリング・ストップをやめて、信号待ちのあいだも、フラット6の鼓動を感じることができる。いけないよね~、古都にCO2を撒き散らして。わかっちゃいるけど、やめられない。
これまたオプションのPASM(ポルシェ アクティブ サスペンション マネージメント=)付きスポーツサスペンションを装備しているおかげだろう、荒れた路面を低速で走っているとタイヤ&ホイールが若干ドタバタするけれど、速度が増すにつれて、しなやかにいなす感じが出てくる。
京都の中心部にあるホテルオークラを出て五条通を西に走り、桂川を渡って北上、嵐山高尾パークウェイを目指す。その途中でミスコースし、アップダウンの激しい住宅街に迷い込んだ。
こういうとき、もしもミドシップの平べったいスーパーカーだったら、どんなに苦労しただろう……。露地は狭く、クルマ1台通るのがやっとで、坂道は急で、登るときには空が見え、降る時にはすぐ前の路面が見えない。
その点、911は、最近、ちょっと平べったく、サイズも大きくなったとはいえ、やっぱり911で、着座位置は低いにしても、視界に優れていて、全長4535mmのボディは依然コンパクトといえる範囲にある。
ああ、ヨカッタ。無事にルートに復帰して、嵐山~高尾パークウェイを走りまわり、胸の空く加速を堪能する。陽は暖かく、冷たい風が心地よい。両サイドの窓ガラスを立てていれば、風はほとんど巻き込まず、筆者はとうとう、一度も幌を閉じることなく、爽快な半日を過ごした。650psのフラット6をレッドゾーンの始まる7000rpmちょっとまで吠えさせ、ドキドキワクワクしながら。
電動化は進むけれども
ポルシェは2025年から新車販売台数の5割を、EVやハイブリッドなどの電動車両にする計画を発表している。2019年の販売台数は28万台ほど。あと4年あるから、EVもハイブリッドもバリエーションが増えることが予想される。
では、ピュア・ガソリン・エンジンを搭載する911はどうなるのか? 2021年夏、千葉県木更津市にオープンする「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」のようなクローズド・サーキットで、乗馬のように楽しむことになるのだろう。2030年までに東京都からガソリン・エンジンだけの新車販売をなくそうという方針なのだからして、いずれそうなる。
とはいえ、ホントにそうなるまでには、もうちょっと時間がある。生産から発電所のあり方まで含めて見たときに、EVがホントに気候変動に効果があるかのかどうか、という問題もある。
という問題はさておき、911ターボSカブリオレはよかったなぁ。ちょっと悪いことをしている、という後ろめたさもまた、アクセル全開でしばしぶっ飛ぶのだから。
文・今尾直樹 写真・ポルシェジャパン、安井宏充(Weekend.)
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