現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 反EVのトランプはなぜ「イーロン・マスク」を重用するのか? 政府効率化省トップに起用、巨額献金と戦略的協力の裏側を考える

ここから本文です

反EVのトランプはなぜ「イーロン・マスク」を重用するのか? 政府効率化省トップに起用、巨額献金と戦略的協力の裏側を考える

掲載 11
反EVのトランプはなぜ「イーロン・マスク」を重用するのか? 政府効率化省トップに起用、巨額献金と戦略的協力の裏側を考える

トランプのEV政策廃止と影響

 先の大統領選挙で圧勝したドナルド・トランプ氏は、電気自動車(EV)に対して否定的な立場を取っていることで知られている。

【画像】「なんとぉぉぉぉ!」 これが電動車の「最新販売台数」です! グラフで見る(13枚)

 バイデン政権が進めてきたEV義務化政策を廃止する意向を示し、EV購入補助金やEV生産設備への助成金の撤廃を検討していることを明言した。現在、それが現実のものとなりつつあり、ロイターをはじめとする複数のメディアが、トランプ次期政権がその準備を進めていると報じている。

 一方で、イーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)のトップに就任することが発表されているが、EV購入補助金の廃止はマスク氏にとって有利に働く可能性があり、その結果、

「利益相反規制の対象」

になるとの批判もある。なぜなら、テスラのCEOであるマスク氏は、自社のEVラインアップに十分な競争力があり、補助金がなくても成功する見込みがあるからだ。

 本稿では、トランプ次期政権とマスク氏の協力関係を深掘り、今後のEV産業への影響について考察する。

トランプ氏とマスク氏の関係の歴史

 トランプ前政権は、パリ協定からの離脱や環境規制の緩和を進めるなど、一貫して反EVの立場を取っており、化石燃料の推進に力を入れていた。これに対して、マスク氏は強く反発し、経済助言委員会から辞任するなど、双方の環境問題に対する立場の違いが明確になった。しかし、これが原因で彼らが敵対関係にあるわけではないようだ。

 トランプ氏は、マスク氏が米国経済に与えた貢献を高く評価しており、マスク氏もトランプ氏への批判を避け、政治的なスタンスや環境問題から一線を引く姿勢を貫いている。そのため、両者は微妙なバランスを保ちながらも協力関係を築いているようだが、マスク氏が手がける多くの事業を考えると、トランプ氏はマスク氏を無視できない立場にあることが分かる。

 マスク氏は、テスラだけでなく、宇宙産業のスペースXやX(旧ツイッター)など、さまざまな事業を展開しており、その影響力はトランプ氏の政治基盤にも及んでいる。

 トランプ政権下では、宇宙開発や防衛分野への予算増額があり、その結果、スペースXは航空宇宙局(NASA)との契約や軍事衛星の打ち上げを次々に獲得した。この時点では、トランプ氏とマスク氏の利害が一致した。

トランプ氏支援に巨額献金

 また、Xは情報発信力のある重要なメディアであり、選挙期間中には有権者への影響力を発揮するツールとして活用されている。Xはトランプ氏の支持層と親和性が高く、トランプ氏が届けたい情報を伝えるプラットホームとして機能している。

 トランプ氏のアカウントは2021年に永久凍結されたが、2022年11月、マスク氏がツイッターを買収した際にアカウントが復活した。この復活には、トランプ氏にとってはあまり活用していないものの、マスク氏にとって大きなメリットがあった。そのメリットとは、Xで表現の自由を重視する姿勢を強調し、中立的なプラットホームとしての立場を示すことができた点だ。

 大統領選挙期間中には、マスク氏がトランプ陣営を支援していたことも注目された。多くの米国企業は政治活動委員会(PAC)を通じて影響力を行使しており、マスク氏もそのひとつを利用していると考えられている。

 2023年10月15日、米国連邦選挙委員会が開示した書類によると、マスク氏はPACに対し、7月から9月にかけて7500万ドル(約112億円)、さらに10月前半に4360万ドル(約66億円)を寄付したことが明らかになった。この巨額献金がトランプ次期政権にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目される。

トランプ関税がテスラに与える影響

 トランプ氏は米国ファースト政策の一環として、メキシコから米国に輸入される自動車に対する関税引き上げを明言している。この方針に対して、マスク氏は警戒感を強め、テスラのメキシコ工場建設を一時的に凍結している。

 もし関税引き上げが実行されれば、テスラのグローバルな生産計画が見直されることとなり、トランプ政権下での影響を避けることはできないだろう。

 また、テスラはEVに加えて地球温暖化ガスの排出クレジット販売も行っている。世界中で排出量取引制度が導入され、自動車メーカーは温暖化ガスの排出基準を守る必要がある。基準を超過したメーカーには罰則が科され、逆に基準を下回る企業には排出クレジットを取引できる権利が与えられる。

 テスラはEVしか製造していないため、ほとんどの国で排出基準を下回り、排出クレジットを獲得する。これを他の自動車メーカーに販売して収益を得ているが、排出クレジットにはほとんどコストがかからないため、収益の多くは純利益として計上されている。実際、テスラの排出クレジットによる利益は約15億ドル(約2200億円)で、純利益全体の1割近くを占めている。

 もしトランプ政権が再び環境規制を緩和すれば、テスラにとって新たな課題が生じる可能性がある。環境基準が緩和されることで他の自動車メーカーは基準をクリアしやすくなり、排出クレジットの需要が減少するためだ。

 さらに、EV購入補助金の廃止により、EV市場全体の成長が鈍化し、テスラの排出クレジットに対する需要も減少する恐れがある。

 そのため、テスラは排出クレジット販売への依存度を低くするために、太陽光事業やロボタクシー、ロボット事業など新たな収益源の開拓を進めている。長期的に見れば、排出クレジットの収益が低下しても、テスラへの影響は比較的小さい可能性がある。

交差する利害のシナリオ

 トランプ氏の反EV政策と、テスラを中心にしたマスク氏のビジネス戦略は、一見すると対立しているようにも見える。

 しかし、両者の関係は微妙に交差しており、トランプ氏は自身の支持基盤に配慮しつつ、マスク氏の影響力を受け入れる姿勢を見せている。

 結果として、双方の思惑が交錯しながらも絶妙なバランスを保っている。今後も、両者は利益を得られる形で協力関係を築いていくことが予想される。

 トランプ次期政権で政府効率化省のトップに就任することが発表されたマスク氏は、政権中枢に身を置きながら、テスラ、スペースX、Xなどの事業をどのように展開していくのか、今後の動向から目が離せない状況が続きそうだ。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

日産9000人削減の衝撃! ゴーン前会長が残した3つの“負の遺産”とは何か? 「ルノー支配」「販売偏重」のツケが招いた辛らつ現実を再考する
日産9000人削減の衝撃! ゴーン前会長が残した3つの“負の遺産”とは何か? 「ルノー支配」「販売偏重」のツケが招いた辛らつ現実を再考する
Merkmal
バス業界を変革するカギは「スペシャリスト採用」だ! 昔ながらの“何でも屋”育成システムの脱却を
バス業界を変革するカギは「スペシャリスト採用」だ! 昔ながらの“何でも屋”育成システムの脱却を
Merkmal
広州モーターショー開幕、「新エネ車」の最新事情や見所を“紙上公開”[新聞ウォッチ]
広州モーターショー開幕、「新エネ車」の最新事情や見所を“紙上公開”[新聞ウォッチ]
レスポンス
「自動駐車」システムが、日本の都市部で普及しない根本理由! 技術・空間・安全性の壁を考える
「自動駐車」システムが、日本の都市部で普及しない根本理由! 技術・空間・安全性の壁を考える
Merkmal
2030年までに電気自動車だけにするのは到底ムリ! ベントレーが「ビヨンド100戦略」を見直し…2026年には初のBEVを投入予定
2030年までに電気自動車だけにするのは到底ムリ! ベントレーが「ビヨンド100戦略」を見直し…2026年には初のBEVを投入予定
Auto Messe Web
「新基準原付」 国交省と警察庁が同時発表 同じバイクで原付と自動二輪の区別をつける方法とは
「新基準原付」 国交省と警察庁が同時発表 同じバイクで原付と自動二輪の区別をつける方法とは
バイクのニュース
日産9000人削減はまだ甘い? 本場「ドイツ」も大失職時代へ! 35年までに「19万人」雇用喪失という現実、残された希望は何か?
日産9000人削減はまだ甘い? 本場「ドイツ」も大失職時代へ! 35年までに「19万人」雇用喪失という現実、残された希望は何か?
Merkmal
昭和ノスタルジーだけじゃない! 「ドライブイン」がサービスエリアのフードコートを凌駕する根本理由
昭和ノスタルジーだけじゃない! 「ドライブイン」がサービスエリアのフードコートを凌駕する根本理由
Merkmal
満月の夜、なぜ「野生動物との衝突事故」が1.5倍も増加するのか? 11月16日「ビーバームーン」で考える
満月の夜、なぜ「野生動物との衝突事故」が1.5倍も増加するのか? 11月16日「ビーバームーン」で考える
Merkmal
崖っぷちの英国自動車業界に「希望」がある理由 日本も無関係ではなかった
崖っぷちの英国自動車業界に「希望」がある理由 日本も無関係ではなかった
AUTOCAR JAPAN
CO2を使って合成燃料を作るプラントが爆誕! だから気にせずガソリン車にいつまでも乗れる……とはならなそう
CO2を使って合成燃料を作るプラントが爆誕! だから気にせずガソリン車にいつまでも乗れる……とはならなそう
WEB CARTOP
12/6申込締切【どうする?BEV・内燃機関は?】米大統領選・欧州議会選の影響と将来シナリオ
12/6申込締切【どうする?BEV・内燃機関は?】米大統領選・欧州議会選の影響と将来シナリオ
レスポンス
ちょっとマイナーな「珍車」ばかり! VWの博物館がすごかった 秘密のコレクション 18選
ちょっとマイナーな「珍車」ばかり! VWの博物館がすごかった 秘密のコレクション 18選
AUTOCAR JAPAN
「なんでこんなにお金取られるんですか…」国民ブチギレ!?「103万の壁」「106万円の壁」どうなる? カーライフでも「世界イチ高い」自動車諸税が問題に! 搾り取られる日本人の「お金」とは
「なんでこんなにお金取られるんですか…」国民ブチギレ!?「103万の壁」「106万円の壁」どうなる? カーライフでも「世界イチ高い」自動車諸税が問題に! 搾り取られる日本人の「お金」とは
くるまのニュース
転生したら「東京モノレール」だった件
転生したら「東京モノレール」だった件
Merkmal
BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
LE VOLANT CARSMEET WEB
ガソリン補助金、2025年1月以降も継続、上限「185円」に引き上げへ[新聞ウォッチ]
ガソリン補助金、2025年1月以降も継続、上限「185円」に引き上げへ[新聞ウォッチ]
レスポンス
ミニ・クーパー:英国車のアイコン ランドローバー・レンジローバー:醸し出す特別感 誇らしきUK製モデル(1)
ミニ・クーパー:英国車のアイコン ランドローバー・レンジローバー:醸し出す特別感 誇らしきUK製モデル(1)
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

11件
  • vbd********
    政治資金を出したから。
  • mis********
    本当に重用するかどうかはまだ分からない。政府効率化省の権限が明らかでは無いからだ。
    マスクはXで2兆ドルの歳出削減を連呼している。凡そ今年の歳出の1/3なので、日本に置き換えると110兆円の歳出のうち36兆円=社会保障費と同額が消滅するレベル。マスクはこれは革命だと言っているが、当然トランプにそんな気は無いだろう。
    トランプとマスクの蜜月は長くは続かないのではなかろうか。それを見越したトランプが、政府効率化省のトップという実権の無い名誉職をマスクに与えたとも見えなくはない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村