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なぜフルモデルチェンジなのに外観を変えないのか?「キープコンセプトの功と罪」

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なぜフルモデルチェンジなのに外観を変えないのか?「キープコンセプトの功と罪」

 7月5日に発売された新型ムーヴキャンバス。そのエクステリアを見ると、初代の印象を色濃く残すキープコンセプトとなっている。N-BOXも現行型は初代からのウルトラキープコンセプトで成功を収めているが、モデルチェンジにおけるキープコンセプトの是非について、渡辺陽一郎氏が持論を語る。

文/渡辺陽一郎、写真/DAIHATSU、HONDA、TOYOTA、SUZUKI

なぜフルモデルチェンジなのに外観を変えないのか?「キープコンセプトの功と罪」

■キープコンセプトの典型となる新型ムーヴキャンバス

2022年7月にフルモデルチェンジしたダイハツ ムーヴキャンバス。外観を従来型に似せた典型的なキープコンセプトだ

 最近は軽自動車の人気が高い。2022年1~5月に国内で売られた新車のうち、軽自動車が38%を占めた。電気自動車の日産サクラ&三菱eKクロスEVなども含めて、軽自動車のデビューが続いている。

 このなかでも特に注目されるのが、ムーヴキャンバスのフルモデルチェンジだ。発売開始は7月5日だったが、販売店では、5月から価格を明らかにして予約受注を行っていた。実質的には販売しているのと同じ状態だ。

 新型ムーヴキャンバスのフルモデルチェンジで注目されるのは、いわゆるキープコンセプトの典型になることだ。販売店では「新型の外観は従来型に似ている。フロントマスクのエンブレムが、従来型は丸型、新型はCANBUSの文字に変わる程度の違いだ。外観の変更はマイナーチェンジに近い」という。

 新型ムーヴキャンバスでは、プラットフォームをDNGAの考え方に基づく新しいタイプに刷新した。従ってフルモデルチェンジなのに、デザインの変更点は少ない。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値も、プラットフォームを変更しながら若干の違いに留めたため、現行型と新型の外観はよく似ている。

 ボディカラーも、新旧モデルともに上下が同色で中央だけが異なるストライプスカラーを用意する。この色彩では、新旧の見分けがますますわかりにくい。

■キープコンセプトの難しさ

 一般的には、フルモデルチェンジでは、デザインから機能まですべてが進化したことを表現したいと考える。そうすれば従来型のユーザーは乗り替えを希望して、ライバル車の顧客も獲得できる。販売面で有利になるからだ。

 ところが、新型の外観が先代型に似ていると、進化を表現しにくい。従来型のユーザーは乗り替えを積極的に考えず、ライバル車の顧客も獲得しにくい。そこで通常のフルモデルチェンジでは、従来型との違いをわかりやすくデザインするわけだ。

 それなのになぜムーヴキャンバスは、走行安定性、乗り心地、安全装備などを進化させながら、外観の変化がわかりにくいフルモデルチェンジを行ったのか。

■キープコンセプトの先例

2020年に登場した現行型ホンダ N-ONE。プラットフォームを刷新しながら外観はほぼ先代そのままという異例のフルモデルチェンジだった

 その理由を知るための例として、2020年にフルモデルチェンジされたN-ONEが挙げられる。ムーヴキャンバスと同様、プラットフォームを刷新しながら、従来型との違いがわかりにくい。フロントマスクなどの樹脂部分は変更したが、スチール部分は先代型から流用する異例のフルモデルチェンジを行った。

 N-ONEの開発者にスチール部分を変えなかった理由を尋ねると、以下のように返答された。

「スチール部分まで作り替えることも検討したが、試作段階で先代型に比べて変化させるほど、N-ONEらしさが薄れていった。そこで結局、大半の部分を変更しなかった。デザインを変えなければ、開発コストを抑えられる事情もある」。

 N-ONEは、新旧モデルとも、1967年に発売されたN360をモチーフにデザインされている。先代型がN360らしさを忠実に反映していれば、手を加えるとそこから離れてしまう。つまり、N-ONEは、N360をモチーフにするために、フルモデルチェンジを行っても外観をあまり変えられなかった。

■ムーヴキャンバスが「キープコンセプト」を選んだ理由

 一方、ムーヴキャンバスには、N-ONEのような特定のモチーフは存在しない。自由に変えられるのに、新型の変化は小さい。その理由は、先代ムーヴキャンバスのデザインが高い人気を得ていたからだ。

 従来型のムーヴキャンバスは、新型と違ってターボを用意していないが、売れゆきは好調だった。ムーヴ全体の60%以上をムーヴキャンバスが占める。2022年1~5月に、ムーヴキャンバスだけでも1カ月平均で4000~4500台は届け出されている。

 この販売実績は、2020年に発売された比較的設計の新しいタフトに迫る。ムーヴキャンバスの発売が2016年まで遡ることを考えると、安定的に売られる定番車種だ。ムーヴキャンバスにとって一番の特徴とされる外観には、時間が経過しても色褪せない普遍的な価値があるから、堅調な売れゆきを維持できた。

 そうなると新型ムーヴキャンバスも、外観はあまり変えないほうが無難だった。特に今の軽自動車は、日常生活のツールになり、デザインは安定成長期に入った。新しくすれば売れるわけではない。

 現行N-BOXも、標準ボディの外観はフロントマスクを含めて先代型とあまり違わない。N-ONEのように別の車種をモチーフにしているわけではないが、いわば先代型がモチーフになるわけだ。

 そして現行N-BOXの販売も好調だ。丸型ヘッドランプのハスラーなどを含めて、外観の変化を小さく抑えることで、先代型の高人気を継承している。

■大きな変化で失敗した例

2019年に登場した現行型ダイハツ タントは外観の変化によって伸び悩んでいる

 逆に変化を与えて失敗することもある。ダイハツでは、タントの売れゆきが伸び悩んでいる。過去を振り返ると、先代タントは2013年に発売され、翌年の2014年には1カ月平均で2万台弱が届け出された。先代N-BOXや先代アクアを上回り、国内販売の総合1位になった。

 しかし、現行タントは2019年に発売されて翌年の2020年には、1カ月平均の届け出台数が1万台少々であった。コロナ禍の影響を差し引いても販売の低迷は顕著で、2020年の販売ランキング順位もN-BOXやスペーシアを下回った。

 タントの販売が伸び悩む理由をライバルメーカーの商品企画担当者に尋ねると「理由のひとつに、外観の変化があると思う」と述べた。

 現行タントでは、標準ボディのヘッドランプが薄型になり、カスタムもフロントマスクの下側を大幅に変えた。これが販売面で裏目に出たとも考えられる。ダイハツとしては、タントの失敗は繰り返したくない。

 プリウスも現行型で失敗した。2009年に発売された先代型は、2010年と2012年に1カ月平均で約2万6000台を登録して国内販売の総合1位になったが、2015年に登場した現行型は、2016年が2万台少々で2017年は1万3000台まで下がった。

 現行プリウスはフロントマスクを大幅に変えており、人気低迷の一因になっている。

 以上のように、従来型が成功したのに新型でフロントマスクを大きく変えると、販売面で失敗することがある。そこを心配すると、従来型のデザインを踏襲するフルモデルチェンジが行われる。

■さじ加減が繊細な「変化の度合い」

車両全体の雰囲気をそのままに新鮮さを加味した現行型スズキ アルトラパン

 ただし、変わり映えのしないフルモデルチェンジを続けると、次第に人気を下げてしまう。N-BOXやムーヴキャンバスのように、初代モデルが人気を高めて、2代目もその外観を踏襲するまではいいが、3代目の判断は難しい。変えなくても売れゆきが下がり、大きく変えて失敗しても、同様の結果を招く。

 この難題に上手に対処した個性派モデルが現行アルトラパンだ。初代と2代目の外観は似ていたが、3代目の現行型は、ボディの端の丸み(R/半径)を大きくした。このデザイン処理により、車両全体の持ち味を変えずに、新鮮味を表現している。

 クルマのデザインにはさまざまな苦労が込められているが、特にムーヴキャンバス、N-BOX、N-ONE、タント、アルトラパンなどの軽自動車には、苦渋の選択が多い。いずれの車種も日本のユーザーを対象に開発され、車種ごとの思惑や戦略の違いもわかりやすい。

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