運営元:外車王SOKEN
著者 :林 哲也
10代~20代前半のディーラーや自動車販売店の塩対応・神対応を振り返ってみる
はじめまして、ハヤシと申します。
2002年(平成14年)生まれの21歳、愛車は2002年式のアウディ・初代TTです。現在所有している初代TTがはじめての愛車。“輸入車道”まっしぐらかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし私、かなり雑食系のクルマオタクを自称しています。もちろん輸入車だけではなく、国産車も大好きなのです。トヨタ・プログレとか、いすゞ・ピアッツァとか。
今回、外車王SOKENでの執筆のお話をいただいたとき、「“外車”ってなんだ?」と疑問が浮かんできたのです。外車の対義語は国産車なのでしょうか?パッと見では対をなしているようにも感じる外車と国産車、いったい何が違うんだ!と思ったのです。そもそもこの両者、二元論的に捉えられるものなのでしょうか?なかなか奥が深そうな話題です。
話が少し飛びますが、私が外車王SOKENで実現したいこと、それは「自らの偏愛語りを通じて、クルマオタクの輪を広げること」。読者の皆さまにとって、新たな価値観の引き出しが加わるような、そんな楽しい体験を共有したいと考えています。
…ということで、今回は「国産車ではなく外車を所有するって、どういうことなの?」というテーマを主軸に、私の偏愛を少しだけ語ってみようと思います。お付き合いください。
■1.外車と国産車、いったい何が違うのか
はじめに、私なりの結論からお伝えしましょう。外車と国産車、あんまり大差はないと思います(あくまでも個人的なひとつの考えです、悪しからず)。そもそも、外車と国産車というのは、互いに単純比較ができるものではないのです。
“外車”と一括りに捉えているなかにも、さまざまな国籍のクルマが含まれています。たとえばドイツ車、イタリア車、フランス車、はたまたアメリカ車…。そして各国のクルマは、それぞれの国土や国民性に対応したアイデンティティを有していると私は考えています。
例を挙げるならば、国土が広いアメリカで生まれたアメリカ車は、大きくて真っ直ぐな道を走るのに適したボディサイズは鷹揚な走り味を備えているでしょう。対してイタリア車のクイックなハンドリングは、イタリアの狭い峠道を楽しく走る場面を想像させるものです。そしてフランス車、こちらは乗り心地が良くて快適に移動できるイメージをお持ちの方が多いのでは。バカンスの度にクルマで長距離移動をするフランス人の国民性がうかがえます。
すなわち“外車”の概念とは、さまざまな国のクルマがそれぞれ有しているアイデンティティの集合体であるといえるでしょう。“外車”という大雑把な括りでは、個々のクルマの性質をうかがい知ることはとてもできない、といっても過言ではないかもしれません。
少し話が壮大になりすぎてしまいました。「“外車”は“国産車”の対をなす概念ではない」という前提を確認したところで、「外車と国産車はあんまり大差がない」という持論について、もう少し噛み砕いて語らせてください。
「さまざまな外車のそれぞれが、各国のアイデンティティを有しているのだ」というお話をつらつらと語ってきました。もちろん国産車も、日本ならではの国土や国民性を背景にしたアイデンティティを有しています。小さな国土の狭い道でも走りやすいコンパクトなボディサイズや、勤勉な国民性を反映した合理的なパッケージング、そして思いやりの心に由来する充実した収納スペース…など、これらはまさしく“日本的”といえるでしょう。
これらのアイデンティティは、クルマを知るうえでは非常に重要なポイント。しかし、クルマ選びの一番のポイントは「そのクルマが持つ性格が、しっくりくるか」という点です(あくまで私個人の価値観ですが)。重要なのは「クルマの国籍」ではなく、「各々のクルマがそれぞれ有している性格」なのです。確かにクルマの国籍とアイデンティティは密接に関わりあっているけれど、我々が重視しているのは国籍ではなく性格だ、というお話ですね。外車と国産車の間に、明確な“差異”は一切存在しない、というのが私なりの結論です。
言語化が難しいですが、もう少し頑張ります。同じ国のクルマでも、それぞれのメーカーや個別具体的な車種によって、クルマの性格は大きく異なります。トヨタを例に説明してみます。プロボックス、86、アルファードの三者の性格、まったく違いますよね。しかし、これらには共通してトヨタ的信念が通っているし、日本車的アイデンティティを有しています。
すなわち、国籍によるアイデンティティはクルマの性格を知るための判断材料の一つになり得るけれども、クルマ選びの重要な“決め手”にはならないはずだ、ということです。
■2.なぜ国産車ではなく、外車を選んだのか
ではなぜ、私は初代TT、そしてアウディを選んだのでしょう。自問自答してみましたが、結論は「なんとなく惹かれてしまったから」です。ドイツ車特有のアイデンティティが決め手となったわけでもなく、単に一目惚れでした。見たことのないような、思い切りのあるデザインに惚れたクルマが偶然、たまたま外車だったということなのです。
しかし私が惚れた初代TTの独創的なデザイン、これはまさしくドイツ的哲学のもとで誕生したといえると思います。もしもドイツ以外の(そしてアウディ以外の)メーカーが同じパッケージングのクルマを作ろうとしても、決して初代TTのようにはならなかったでしょう。外車だから選んだわけではないけれど、外車との出会いは必然だったのかもしれません。
そして、初代TTを選んだ決め手のひとつに、「他の人とあまり被らないこと」という点があったことは間違いないでしょう。もしかしたら、ヒトとは違う選択ができること、これこそが外車を選ぶ醍醐味なのかもしれません。後ほど詳しく語ってみようと思います。
■3.初代TTを維持するうえで感じた「外車らしさ」
初代TTを所有するなかで、「いかにも外車だな」と思うタイミングが何回かありました。「外車らしさ」とはすなわち、「日本車だったら絶対に起こり得ないよね」ということ、と捉えるべきでしょう。日本で日本車を所有していたら経験できないであろうこと、それこそが「外車らしさ」であると私は考えています。厳選して2つ紹介してみます。
1つ目に、「オーナー同士の関係性が密である」ということ。これは、先述の「他の人とあまり被らない」こととの関りが深いでしょう。日頃あまりすれ違わないクルマだからこそ、SNS上で同車種を所有するオーナーを見つけたときの喜びはひとしおです。海外のさまざまな掲示板から故障に関する情報をピックアップして共有することで、愛車を維持するための“情報網”が築かれているといっても過言ではありません。初代TTのメインフィールドはやはりヨーロッパ、日本においては日本車ほど潤沢に情報があるわけではありません。まさに“三人寄れば文殊の知恵”。オーナーの共闘で、維持障壁を下げるのは「外車ならでは」です。
2つ目に、「日本の気候に対応できずにクルマが壊れる」ということ。昨夏の暑い日、初代TTの内装の接着剤が高い気温に耐えられず、ネバネバに溶けてしまいました。「こんなの故障じゃないよ!」といわれてしまうかもしれませんが、国産車だったらこんなこと、あり得ないと思います。軟化して窓ガラスに貼り付いた接着剤の除去、すごく大変でした…。
さらには、日本の高温多湿の気候のせいで、エアコンの内部の構造材が加水分解してしまったりもしました。この“加水分解”との闘い、特にイタリア車のオーナーさんは苦労されるとよく聞きます。特に旧車においては、気候の違い、なかなか侮れない問題でしょう。知人のボルボ・オーナーは、クルマの母国であるスウェーデンの気候に近い冬になると、クルマの調子が良くなる(逆に夏になると次々と不具合が出てくる)なんてことをいっていました。
ここまでの内容を読んで、「やっぱり外車って国産車より壊れるんだ」と思われてしまうかもしれません。否、きっとイマドキの外車だったらそう維持に困ることはないはずなのです。私の初代TTは、今から20年以上前に生産されたクルマ。クルマはあくまでも工業製品ですから、経年劣化で部品交換を要するのは至極当然のこと。きっと20年前の国産車も、私の初代TTと同様に経年劣化に悩まされているはずなのです。しかしながら、やはり外車は国産車と比べて情報が少ないのは事実です。故障したときに、故障原因の究明に難航するリスクが高くなるということは否めないでしょう。こればかりは仕方がないと思います。
■4.外車だからこそ得られるもの、それはロマン
日本の気候に耐え切れなかったり情報がイマイチ不足していたりする、私の初代TT。そんな外車らしい“困ったポイント”があってもそれでも乗り続けたい理由、それはズバリ「初代TTがとてつもなく好きだから」でしょう。惚れた弱みというやつです。
「外車と国産車の間に、明確な“差異”は一切存在しない」ということを先に述べました。私が初代TTをこよなく愛するように、国産車でも同様に、愛されているクルマがあり、愛しているオーナーがいることは間違いがないことでしょう。そのクルマが生まれた国を問わず、私をはじめとしたクルマオタクは、特定のクルマの魅力にとりつかれてしまうのです。
きっと、外車王SOKENの読者の皆さまは、「外車に興味がある」「外車が好き」といった気持ちを少しでもお持ちの方々だろうと思います。私もその一人で、外車にしかない魅力を知っているという自負があります。外車だからこそ得られるもの、それはロマンです。「ここまで語っておいて、最後は精神論か?」というお声が聞こえてきそうですが、私が外車を所有して唯一得ることができたものは、ロマンなのです。外車って、ロマンなんですよ。
もちろん、「外車らしい」初代TTの良さを語ろうと思えば、いくらでも語れます。たとえばドイツにはアウトバーンがあるから、それに対応した高次元な走りがナントカとか、高い剛性感がナントカとか、もちろんそれらひとつひとつもすべて魅力的です。しかし、このような魅力的なポイントは、国産車も絶対に有しているものなのです。その国の国土や国民性に従って、アイデンティティと明確な企業哲学を基に作られたクルマは、その国籍を問わず、すべて魅力的であるといえるでしょう。その魅力にどれだけ気がつき、共感できるかということが、そのクルマと人間の“相性”というモノなのではないかと私は考えています。
話が少し逸れてしまったので、ロマンのお話に戻しましょう。外車を選ぶ醍醐味とはすなわち、ヒトとは違う選択をすることです。日本の国土や、日本人の国民性に最も適合すると思われるクルマ、それは間違いなく、日本で設計され、日本で作られた国産車でしょう。それにも関わらず、故障リスクや情報難のリスクを差し置いてまで外車を選ぶこと、なんとも非合理的な行動ではないでしょうか。私たちは外車の所有を通じて、その“非合理性”を楽しんでいるのです(繰り返しますが、これは私の個人的な持論です)。
外車を選ぶ理由のひとつとして、「おしゃれだから」という人は結構多いと思います。「工業製品に高いデザイン性を求める異国の国民性が生んだクルマを、諸々の非合理性を差し置いて選択する」というその行動こそが、ヒトとは違う選択であり、“おしゃれ”なのです。
おしゃなクルマ選びに限らず、私たちはこの“非合理的な選択”のなかで、己の個性(あるいはセンス)を顕示しているのではないかなと思います。だからこそ、外車選びは楽しいし、奥が深いし、「あの人があのクルマを選んだ理由が知りたい!」と思うのです。
さて、結構な散文になってしまいました。“外車選び”語り、結構楽しかったです。クルマオタクの輪、少しは広がったでしょうか。読者の皆さまにとって、新たな価値観の引き出しを加えるきっかけとなれたでしょうか。今後とも、よろしくお願いいたします。
[画像/トヨタ・いすゞ・フォード・アルファ ロメオ・シトロエン 撮影&ライター/林哲也]
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偏愛をマニアに語るだけでは、
ジャーナリズムとはならない。