新しいメルセデスAMGの「SL43」は、2.0リッターエンジンを搭載する。が、2.0リッターとは思えぬ走りを堪能出来る理由を世良耕太が解説する。
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SUVとスポーツカーの壁は過去のものになった──新型アストン・マーティンDBX707試乗記
メルセデス・ベンツのSLは誕生から70年近い歴史を持つオープンスポーツカーだ。初代モデルの起源はレーシングカーにあり、そのロードゴーイングカー的な位置づけだった。初代も十分ラグジュアリーだったが、2代目以降は代を重ねるごとにラグジュアリーの度合いを増し、快適性とスポーツ性を高い次元でバランスさせた存在になっていった。
2022年に国内導入が始まった7世代目のSL(R232)は、先代(R231)との対比で大きく変わった部分がある。先代は金属製のトップを備えていたが、新型はソフトトップを採用。4代目(R129、1989年~2001年)以来の回帰である。
メルセデス・ベンツブランドではなく、AMGの完全自社開発となったのも新型SLの特徴。AMGはレーシングカーの開発と、メルセデス・ベンツの最先端技術を結集したトップパフォーマンスモデルの生産をおこなっている。AMG専売となったことから、新しいSLはよりパフォーマンス指向を強めたのが想像できる。
ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは、初代以来変わらぬSLの伝統を受け継ぐ。長いボンネットフードには力強さを象徴する“お約束”のパワードームがあり、運転中は常にそれが視界に入ってドライバーを良い気分にさせてくれる。フロントグリルには垂直のルーバーが14本確認できるが、これはSLの起源となった1952年のレーシングカー、300SL(W194)からの引用だ。
国内に導入される新型SLは「43」のみ。従来は2桁の数字がエンジンの排気量を表していたが、近年は数字と排気量は必ずしも一致せず、パフォーマンスを示す目安となっている。「43」は自然吸気V8エンジンだったら発生したであろう出力とトルクをイメージさせる。
実際のSL43が搭載しているのは、2.0リッター直列4気筒ターボエンジンだ。もっと正確に排気量を記せば、1991ccである。それなのに、最高出力は381ps/6750rpm、最大トルクは480Nm/3250~5000rpmを発生する。先代SLの3.0リッターV6ターボの最高出力が367ps/5500~6000rpm、最大トルクは500Nm/1800~4500rpmと記せば、いかにターボエンジンといえどもわずか2.0リッターの排気量で大きな出力・トルクを出しているか、わかるはずだ。
ちなみに、難コースとして知られるニュルブルクリンク北コースで量産FF車最速を狙うシビック・タイプRも2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載している。最高出力は330ps/6500rpm、最大トルクは420Nm/2600~4000rpmだ。SL43は排気量2.0リッターのターボエンジンとして、世界を見渡してもトップレベルのスペックを誇る。
EEGTの威力理論的には、大きなターボチャージャーを搭載すれば、出力・トルクを大きくすることは可能だ。シリンダーにたくさん空気を送り込み、その空気に見合った燃料を噴射すればいい。
ところが、大きな出力・トルクを狙うほど、ターボチャージャーを大きくするほど、反応させるのに時間がかかり“応答遅れ”、いわゆるターボラグが大きな課題となって立ちはだかる。
アクセルペダルを踏み込んでから実際に加速に転じるまでの“間“が大きくなるため、フラストレーションにつながるからだ。そこでAMGは、F1のパワーユニット開発で培った技術をSLの2.0リッターターボエンジンに持ち込んだ。それが、「エレクトリックエキゾーストガスターボチャージャー(EEGT)」だ。
ターボチャージャーは排気のエネルギーで羽根車をまわすタービンと、羽根車をまわして空気を圧縮するコンプレッサーを背中合わせにつないだ構造となっている。EEGTはコンプレッサーの背後にモーターを配置。排気のエネルギーが不十分な加速初期にモーターを駆動することによってコンプレッサーの応答性を高め、ターボラグを解消する。排気ではなく、電気の力でコンプレッサーを高速回転させるのだ。結果、アクセルペダルを踏み込んだら間髪入れず、頼もしい力を発生する。
ターボチャージャーにモーターを組み込む技術は2014年以来、メルセデスAMGペトロナスF1チームが開発するパワーユニットで磨かれており、同年から8年連続でコンストラクターズ選手権の制覇に結びつけたキー技術である。その技術がEEGTに生かされている。量産車初採用で、唯一の存在だ。
メルセデスAMG SL43をドライブした人は誰しも、「これで本当に2.0リッターなの?」と首をかしげるに違いない。それほどに力強い。「ターボラグは感じた?」と、訊けば、「そういえば……」と、しばし頭の中で時計を巻き戻し、「なかったような……」と、回答するだろう。電光石火のレスポンスが、このエンジンの真骨頂だ。
なんとも贅沢な乗り物SL43のエンジンに関しては、マイナスの要素が一切見あたらない。期待以上に、逞しい力を発揮して乗り手の気分を高揚させてくれる。
SL43にはステアリングホイール上に設けられた専用ダイヤルの操作によってエンジンやトランスミッション、ダンパーやスタビリティシステムの制御を切り換えられるダイナミックセレクトを装備している。デフォルトのCOMFORT(C)からSPORT(S)、SPORT+(S+)と切り換えるほどに、セッティングはハードになる(サーキット走行向けのRACEモードもある)。
圧巻はSPORT+だ。モードを切り換えた途端、猛々しいエンジンのポテンシャルが解き放たれるように感じる。エンジンサウンドは“咆哮”に変わり、おなじ車速でもエンジン回転は高めに保たれる。
刺激的なエンジンサウンドは足先の動きに合わせて音色を変える。SL43がもたらす咆哮と加速Gのシンクロはドライバーを陶酔の極致に誘う。車体の作りがしっかりしているので、エンジンの本領を心ゆくまで堪能出来る。
クローズドとオープンの切り替えはイージーだ。センタコンソールにあるスイッチを押して11.9インチサイズの縦型ディスプレイにメニュー画面を呼び出し、ボタン表示をスライドして保持すれば約15秒で開閉は完了。60km/hまでであれば走行中でも開閉が可能だ。シートヒーターはもとより、首元に温風を吹きつけるエアスカーフを装備しているので、寒空でもオープンエアの走りを楽しめる。
感動したのはクローズドにしたときの静粛性で、ソフトトップの常識を覆すほど、外のノイズを遮断する能力が高い。単に雨風をしのぐための覆いではなく、クローズド時は“静”、オープン時は“動”と、対照的なムードに切り替える絶大な効果がある。
メルセデスAMG SL43は排気量が2.0リッターしかないのに常識外れのパフォーマンスで驚かせてくれるし、存分にラグジュアリーで快適でもある。なんとも贅沢な乗り物だ。
文・世良耕太 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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