北米インフィニティは2022年8月、Q50の2023年モデルを米国で発表した。この2023年モデルにも、405ps/48.4kgmを誇るV6の3Lツインターボを積んだシリーズ最強グレードとして、パフォーマンス指向の「レッドスポーツ400」が設定されている。
トヨタのクラウンに比肩する国産車のビッグネームであるスカイライン、気になるのは次期型モデルがクラウンと同じようにカテゴリーをセダンだけでなくクロスオーバーモデルとして設定して出てくるのかどうか、ということ。
クラウンは変わったが……もうひとつのビッグネーム、スカイラインはどうなるのか!?
そうなると当然、パワートレーンはモーターを積んだBEVになる可能性が高いワケだが、従来までのスカイラインへの思慕に加え、次期型スカイラインへの要望について御堀直嗣氏が語る。
文/御堀直嗣、写真/NISSAN、INFINITI
■すでに9年経過した現行スカイラインだが……
2022年8月に発表された北米インフィニティ Q50(日本名スカイライン)の2023年モデル
V37型の現行スカイラインが歴代13代目モデルとして2013年に発売されてから、今年で9年目になる。
海外ではインフィニティQ50として販売されており、来年の仕様(イヤーモデル)が米国ですでに発表されている。V型6気筒ガソリンターボで405psのエンジンを搭載する、レッドスポーツ400(スカイラインの400Rに相当)も用意されている。
スカイラインのモデルチェンジが丸9年も行われないのは異例であり、かつ過去最長だ。かつてのセドリック/グロリアとともに日産を代表する4ドアセダンであり、またスカイラインとしてのGT-Rを含め、常に消費者の注目を集めてきた車種だ。
先代型のV36から現行へのモデルチェンジも間が長かったが、7年で現行への移行が行われた(ただし、その後も車種を集約し値下げをしたV36型は継続販売された)。
そろそろ次期型の話が出てきてもよい頃ではないか。
■セダン不調がスカイラインに与える影響
一方、世界的に4ドアセダンの需要はSUV(スポーツ多目的車)人気に押され、芳しくはない。日本を代表する4ドアセダンのトヨタクラウンも、新型はまずクロスオーバー車で発売されたくらいだ。
1957年の初代モデル誕生から現在まで65年もの歴史を刻でいるスカイラインも、どのように次期型へ移行させるか、悩みどころだろう。あえてスカイラインを買う価値を、適正な価格で実現できなければ伝統ある車名を残すことさえ難しくなる。
では、どのような価値の継承が、スカイラインにとってふさわしいのか。
■プリンスから日産へ……スカイラインの歴史
1957年に登場した初代スカイライン。プリンス自動車工業製の「プリンス スカイライン」として誕生した
スカイラインは、そもそもプリンス自動車工業で誕生した。
プリンスといえば、東京電気自動車の社名で戦後の1947年に設立されたことに始まる。創業に関わったのは、陸軍の軍用機を開発・製造していた立川飛行機の出身者たちだ。資金的な支援は、タイヤメーカーであるブリヂストンと、その創業者の石橋正二郎が担っていた。
ガソリンエンジン車の第1弾が、「プリンス」と名付けられた4ドアセダンだった。それが社名変更につながっていく。排気量1.5Lのガソリンエンジンは当時としては大排気量で、プリンスの誕生は、トヨタから初代クラウンが生まれるより2年前の1953年だった。
プリンスの次に発売されたのが、1957年の初代スカイラインである。セミモノコックの車体構造や、フロントのダブルウィッシュボーンとリアのドデオンアクスル式サスペンションなど、先進の技術がプリンス車ならではの高性能さを示していた。
最高速度は時速125kmで、その2年後には1.9Lエンジン車が登場し、これはグロリアと名乗ることになる。
■常に技術の先端を行くスカイライン
プリンスは日産と合併し、販売中だった2代目スカイラインは日産が引き続き生産することになった。そしてプリンス時代から数えて3代目、日産製スカイラインの初代となるのがご存知「ハコスカ」である
他社と比べ、常に技術の最先端にあるのがプリンスの特徴だった。2代目スカイラインは1963年に登場する。翌1964年の第2回日本グランプリでは、グロリア用の直列6気筒エンジンを搭載したスカイラインGTが、ポルシェ904を一時抜いて先頭に立ったことで、高性能セダンとして一躍名を馳せることになった。
日本の航空機の技術者たちによる創業と、常に技術の最先端を取り込み、そしてレースで活躍するなど、プリンスという自動車メーカーとスカイラインは高度経済成長期の日本人の心に染み渡った。
しかし、技術へのこだわりゆえに経営は思わしくなくなり、1966年にプリンスは日産自動車と合併する。以後、スカイラインは日産車となる。その最初のスカイラインが、ハコスカと愛称された。レースで勝つことを託されたGT-Rが、ここで生まれた。
GT-Rにかぎらず、スカイラインには技術の先端を行く印象が常にある。
R32型GT-Rには、HICAS(ハイキャス)と名づけられた後輪操舵や、ATTESA-E-TS(アテーサ・イー・ティーエス)という前後の駆動力配分を行う4輪駆動が採用されたが、それはGT-Rだけの装備ではなく、スカイライン以外のほかの車種でも採用された。
スカイラインGT-Rが「ニッサンGT-R」なって以降も、独創的な後輪駆動用1モーターハイブリッドシステムがスカイラインに採用され、近年ではハンドルから手を離せる「プロパイロット2.0」を実用化したのも現行型スカイラインである。
歴史を背景としながら、技術の日産を体現する車種として、スカイラインならではの価値があるはずだ。
■EVの存在感が大きい日産……スカイラインがEV化してもおかしくはない?
先進技術に裏づけられた日産を代表するクルマとしてスカイラインの将来を考えたとき、リーフ以降、SUVや軽自動車でも電気自動車(EV)の存在を色濃く見せる日産において、スカイラインがEVとなっていくことは自然な流れではないか。
とはいえ、市場では、補助金なしでのEV価格はなお高めの傾向にあり、ほかにもマンションなど集合住宅における基礎充電(200Vの普通充電)を設置しにくい状況が解決しておらず、普及は困難を伴う恐れがある。世間では、一充電走行距離への懸念や、充電環境に対する不安がまだ取り除かれたわけではない。
しかし、性能面では、アリアがB9で178kW(約242ps)の動力性能を果たしており、4輪駆動のe-4ORCEでは前後にモーターを持つことにより、290kW(約396ps)となって、現行の400Rと遜色ない性能に達する。
EVになれば最大トルクはガソリンターボエンジン相当か、それを上回る可能性も出て、動力性能では文句ないだろう。一充電走行距離についても、600km前後がアリアB9で示されており、世界的な性能を満たせるはずだ。
■「技術の日産」を体現する存在へ
2020年発表、2022年1月より発売を開始した日産 アリア
さらに私が注目するのは、日産が全個体電池の実用化に具体的な道筋を示していることだ。2024年にはパイロットラインによる製造に取り組み、2028年の市販を考えている。
ただし、市販までは6年も先で、そこまでスカイラインのモデルチェンジを延ばすことができるかどうかは疑問だ。
それでも、アリアB9のEV性能は高い水準にすでにあり、その基本骨格をもとにモデルチェンジをすませ、全個体電池をいずれ適用できれば、車載バッテリー量を減らして軽量化しながら一充電走行距離をさらに伸ばし、パワーウェイトレシオも高まり、異次元の走行感覚を得られる可能性がある。
EVであることが、日産の記号性にもつながるだろう。
もうひとつ、日産はライダー(LiDAR)を使う危険回避技術を発表しており、運転支援技術による安全性向上を一歩先へ進めようとしている。この点でも、スカイラインで実用化していくのが最適ではないか。すでに、ハンドルから手放しできるプロパイロット2.0をスカイラインから採用し、世界に先んじた。
日産には、時代の先端を行くEV技術と、プロパイロットの進化という、技術の日産の名にふさわしい研究・開発が着実に進展している。それらを総合していくことで、スカイラインらしい価値を示し、次世代へつないでいくことは充分あり得るのではないか。
■「謎かけ」に対する内田社長の答えは
現行型日産 スカイライン。登場から9年目になるが、次期型ではどんな姿を見せてくれるのか
内田誠社長と面談した折、私は「大人がちゃんと乗れる日産車を作ってください」と話した。すると、内田社長は「フラッグシップということですか」と、問うた。私の質問に、内田社長の頭のなかでは、もしかしたら次期スカイラインの姿があったかもしれない。
ただし、それは私の想像だ。とはいえ、どのようなクルマが大人の乗れる車種かと内田社長は問わず、「フラッグシップですか」という問いかけが、スカイラインを指していたのではないかという期待を膨らませるのである。
日産のフラッグシップは、必ずしもクラウンの競合である必要はないと思う。また、新型クラウンがクロスオーバーで発売を始めたように、必ずしも4ドアセダンでなければならないということもないだろう。スカイラインはかつて、V36型でクロスオーバーを販売したこともあった。
■次期スカイラインのあるべき形
日産は、2020年に発表した事業構造改革計画の「ニッサンNEXT」で、EV、スポーツ、C/Dセグメントに集中するとしている。EVではすでにアリアとサクラを新たに発売し、スポーツではフェアレディZを進化させた。
スカイラインはC/Dセグメントの充実の枠に入るだろう。北米においては、インフィニティQ50として、ブランドを牽引する次世代の代表的車種になっていくこともできる。
欧州や中国はEV導入に必死であり、米国ではフォードのピックアップトラックEVが勢いをつけはじめ、消費者のEVへの感度が高まり出しているようだ。次期スカイライン(およびインフィニティQ50)は、もはやハイブリッド車ではなくEVであるべきだろう。
スカイラインの今後は、未来の日産を象徴する存在として、単なる販売台数だけでなく、メーカーとしてブランドの存続をかけた重要な位置づけになっていくのではないだろうか。
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