北欧、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボは全モデルを電動化させる世界で最初のプレミアムブランドになった。今では48Vハイブリッド、そしてPHVが、メインの動力源となる(クリーンディーゼルも用意)。
今回、試乗したのは、ボルボと言えば元々、エステート=ステーションワゴンメーカーとして名をはせた自動車メーカーであり、その本領発揮と言える最新のV60である。近年、XC90、XC60、XC40といったSUVが注目を集め、販売台数の増加に貢献しているものの、やはりステーションワゴンは愛犬家やアウトドア派などに人気絶大。現行型V60はボルボカーズジャパンのリクエストで全幅を1850mmに抑えたモデルであり、全高が1435mmと低く、立体駐車場への入庫が容易なのも、使い勝手面で大きなメリットとなる。
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V60 T5
ちょっとした機能面のドッグフレンドリー度と言えば、低全高にならい、後席座面の低さも、犬の乗り降りのしやすさという点で褒められる。
V60 T5
さて、最新のV60のラインナップの中で、頂点に位置するのが、このV60 T8 Twin Engine AWD Inscriptionである。システム出力はT6の340psに対して、こちらはターボ&スーパーチャージャーエンジンとモーターによって405psもの強大なものになる。
そのパワーを受け止めるべく、タイヤは235/40R19という、スポーツカーに匹敵するサイズとなり、駆動方式もAWDとなるのである。
そんなV60に乗り込めば、インテリアは北欧モダンが貫かれた、上質極まる空間だ。405psの獰猛さなどみじんも感じられない温かみある穏やかさが、なるほど、ボルボらしさではないか。
V60 T8 Twin Engine AWD Inscriptionならではの特徴と言えば、ボディ周りでは、ガソリンの給油口とともに、左フロントフェンダーに充電口があることぐらい。
しかし、室内を見渡せば、PHV=リチウムイオンバッテリー積載による、ガソリンモデルとの差異があった。まずはセンターコンソールボックスがごく浅くなり、愛犬家がこだわりたい、後席エアコン吹き出し口が、左右Bピラーのみの配置になっているのだ。つまり、センターコンソール後端の吹き出し口、コントローラーが省かれている。これは、個人的にちょっとショックであった。暑がりの犬を後席に乗せる際、これまでの3か所の後席エアコン吹き出し口が備わるボルボこそ、最上の空調環境を備えたクルマと断言できたからだ。
また、ラゲッジルームの床下収納も、バッテリーなどの搭載によって、ごく浅くなっているのである。使い勝手面では、T5=ガソリンモデルより、やや後退している感は否めない。
では、気を取り直して、V60 T8 Twin Engine AWD Inscriptionを走らせよう。目的地は初秋の軽井沢。往復約350キロの行程だ。ドライブモードは「ハイブリッド」「ピュア」「コンスタントAWD」「パワー」「インディビジュアル」の5パターンの設定が可能で、デフォルトはハイブリッドモードとなる。ちなみに「ピュア」はいわゆるEVモードで、最大125km/hまでEV走行が可能となる。「コンスタントAWD」はAWD固定モードである。
バッテリーが十分に充電されていれば、出足はもちろんEV走行だ。とにかく静かで滑らかに走り出す。大径19インチタイヤは、なるほど、首都高の路面の継ぎ目などではそれなりのショックを伝えてくるものの、角は見事に丸められ、不快に感じられないあたりはさすがである。ノーズは重量級だから、T6やT5のような軽快感こそ薄れるものの、逆に一段と重厚な乗り味を堪能させてくれる。
パワーはさすがに強大で、アクセルペダルを深々と踏み込めば、ドイツのスポーツサルーンに匹敵する、血の気が引くような強烈な加速を開始する・・・のだが、ここは、スウェーデンのクリスタルメーカー、オレフェス社製のクリスタルシフトノブを操り、軽井沢のリゾートライフに相応しいジェントルなクルージングで東京から軽井沢を目指すことにする。
前席リラクゼーション機能=マッサージ機能でリラックスしながら高速クルージングをしているときに驚かされたのは、EVモードからエンジンモードに移行しても、それをほぼ感じさせないシームレスなパワーフィールだった。フラット感極まる乗り心地、安心感溢れる、世界最高峰の先進運転支援システム、ACCのおかげもあって、約175キロのクルージングも、快適なまま、あっという間というイメージだ。いや、リラクゼーション機能の心地よさから、クルマから下りたくない気にさせたほどである。
縦型の9インチセンターディスプレーでは、エンジンを始動させてバッテリーを充電するチャージモードのほか、バッテリー温存モードも選択可能。今回は、目的地が、大自然に囲まれた、日本有数の避暑地、ドッグフレンドリーリゾートということもあり、上信越道でバッテリーをチャージし、碓井軽井沢ICを下り、プリンス通りに入ったあとは、環境にやさしい「ピュア」(EV)モードで走行することに。静かすぎる走行感覚は、軽井沢でのリゾートライフの序章にふさわしい優雅さがある。
V60はボルボのステーションワゴンとして、その伝統に恥じない積載力も魅力のひとつ。ラゲッジ容量は529L~1441L(後席格納時)もあり、ラゲッジのフロア地上高は640mmと、重い荷物の出し入れに適する高さで、フロアは奥行1010mm、幅1020mm、高さ660mmと十二分。大人2人+愛犬の2泊3日のリゾート滞在の荷物など、朝飯前に積みこむことができる。ラゲッジフロアには前後を仕切るパーテーションボードも備わり、荷物が動くのを防いでくれる機能もあるから使い勝手は抜群だ。
実燃費は東京~軽井沢往復で約14km/L。2tを少し超える重量級にしては、なかなかの燃費性能だと思える。なお、リチウムイオンバッテリーの容量は34Ah、EV走行可能距離はWLTCモードで48.2km。気になる充電時間は、家庭にも設置できる200V/16Aの普通充電でも、フル充電まで約2.5~3時間というから使いやすい。
V60 T8 Twin Engine AWD Inscriptionの価格は、V60シリーズのエントリーグレードのV60 T5 Momentumの514万円、V60 T5 Inscriptionの614万円、V60 T6 Twin Engine AWD Momentumの674万円、V60 T6 Twin Engine AWD Inscriptionの779万円に対して849万円に達するが、スポーツカーに匹敵する動力性能や最高峰の先進運転支援、装備、仕立ての豪華さからすれば、納得のいくプライスだと思っていいだろう。しかも、各種補助金によって、その差額は大きく縮まる。ただ、電動車、PHV狙いでも、V60 T6 Twin Engine AWD Momentumでも十分以上の性能を持ち合わせていることは間違いなく、タイヤも比較的マイルドな乗り心地を示す18インチとなり、アウトドアや愛犬とのドライブには、むしろ相応しいかもしれない。それにしても、世界的なクルマの電動化をひしひしと実感したV60 T6 Twin Engine AWD Inscriptionの試乗であった。
ボルボV60
https://www.volvocars.com/jp/cars/new-models/v60
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。
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