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スーパーハイトはもういらない!? タントを食うほどムーヴキャンバスが売れている理由は?

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スーパーハイトはもういらない!? タントを食うほどムーヴキャンバスが売れている理由は?

 近年、軽自動車の売れ筋といえばN-BOXをはじめとしたスーパーハイトワゴンタイプだ。しかし一時的ではあるが4月の販売台数で、ダイハツの軽自動車はスーパーハイトワゴンのタントを普通のハイトワゴンのムーヴが逆転した(5月はタントのほうがムーヴを上回った)。

 タントは今や定番のスーパーハイトワゴンであるうえに、2019年に一新した新世代のダイハツ軽自動車だ。それなのにムーヴのほうが売れる事態となったのは、ムーヴシリーズのなかでもムーヴキャンバスの人気が高いことが大きい要因といえそうだ。

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 スーパーハイトじゃないのに、ムーヴキャンバスが売れている理由は何なのか? タントと比較しながら、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が分析する。

文/渡辺陽一郎  写真/ベストカー編集部

【画像ギャラリー】どこかレトロでやさしい表情の「ムーヴキャンバス」を写真でチェック!!

■ムーヴキャンバスは子育てが終わった世代にぴったり!

 軽自動車では、スーパーハイトワゴンと呼ばれるタイプが売れ筋だ。全高は1700mm以上で、車内が広く、後席側のドアはスライド式になる。代表車種には、N-BOX、スペーシア、タント、ルークスなどがあり、軽乗用車の販売総数のうち、約50%をスーパーハイトワゴンが占める。

 その一方でスライドドアを装着しながら全高を1700mm以下に抑えたムーヴキャンバスの人気も高い。

 全国軽自動車協会連合会の公表するムーヴの届け出台数には、ムーヴと併せてムーヴキャンバスも含まれ、後者の比率は約60%だ。ムーヴよりもムーヴキャンバスのほうが多く売られている。

 例えば2021年4月の届け出台数を見ると、ムーヴ全体では9750台で、その内の6403台(66%)をムーヴキャンバスが占めた。タントの9471台に迫る。

 見方を変えると、ムーヴキャンバスがタントの顧客を奪っている面もある。

 スライドドアを備えた前輪駆動の軽乗用車が欲しい場合、スズキの選択肢はスペーシア、ホンダはN-BOXのみだが、ダイハツにはタント、ムーヴキャンバス、全高が1800mmを超えるウェイクも用意される。同じダイハツ車に競争相手が多い。

 ダイハツの販売店では、ムーヴキャンバスの売れゆきを以下のように説明した。「軽自動車のお客様は、スライドドアを欲しがる。子育て世代のお客様は、背が高く左側の開口幅がワイドなタントを選ぶが、大人だけで使う場合はタントほど高い天井はいらないという。このニーズにムーヴキャンバスはピッタリだ。オシャレな内外装も人気が高い」。

 ダイハツの開発者は、ムーヴキャンバスの合理性について次のように説明した。「ムーヴキャンバスの基本部分は、フロント側が先代タント、中央部分はウェイク、ボディの後部はムーヴをそれぞれベースに開発した」。

前述のとおりダイハツには、背の高い軽自動車が多い。ムーヴキャンバスは各車種の特徴を生かし、優れた部分を組み合わせている。そこでムーヴキャンバスとタントを比べてみたい。

■外観と室内&ユーティリティの比較

 まず両車ではプラットフォームの世代が違う。タントの発売は2019年だから、DNGAの考え方に基づく新しいプラットフォームを使うが、ムーヴキャンバスは2016年と古い。その割に堅調に売れている。

 両車の違いが最もわかりやすい違いは外観だ。タントはスーパーハイトワゴンの典型で、車内の広さを外観でも表現している。ピラー(柱)、ウィンドウ、リアゲートなどの角度を立てて、いかにも広そうに見えるように配慮した。

2019年にモデルチェンジした4代目のダイハツ『タント』。写真左側がタント標準車で右側がタントカスタム

 そのためにタントの外観は、ライバル車のN-BOX、スペーシア、ルークスに似ている。特にエアロパーツを装着した仕様は、フロントマスクも似通っている。タントカスタムとN-BOXカスタムの顔立ちを比べると、中央に装着されたメーカーのエンブレムがなければ見分けがつきにくいほどだ。

 その点でムーヴキャンバスは、ヘッドランプが楕円形で、リアゲートは傾斜させた。全高は1655mm(2WD)だから、タントに比べて100mm低い。この寸法によってムーヴキャンバスの外観は、適度に伸びやかでタントのような寸詰まり感がない。

2016年に発売された『ムーヴキャンバス』。発売から4年以上が経過したが売り上げは好調を維持している

 ムーヴキャンバスにはエアロパーツを装着したグレードがないから、選択肢が狭まる半面、外観のイメージは統一されている。

 室内空間は、全高が100mm高いタントが広い。それでも後席は、ムーヴキャンバスにも充分な余裕がある。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ半だからタントに近い。

 Lサイズセダンの膝先空間が握りコブシ2つ半程度だから、ムーヴキャンバスの後席もゆったりしている。

 シートの座り心地は、タントが現行型になって大幅に改善した。特に後席は、先代型では柔軟性が不足して足を前方に投げ出す座り方になったが、現行型はしなやかで着座位置も最適化されている。ムーヴキャンバスの座り心地、タントに比べて少し劣る。

 荷室の使い勝手もタントが優れている。後席を床面へ落とし込むように畳むと、大容量の荷室になって自転車なども積みやすい。ムーヴキャンバスは後席の背もたれを前側に倒せるが、拡大した荷室に傾斜ができて、荷室高もタントを下まわる。

 タントは乗降性も良好だ。左側のピラー(柱)はスライドドアに内蔵されているから、前後両方のドアを開くと開口幅が1490mmに広がる。そのため、助手席を予め前側にスライドさせて後席の足元空間を広げておくと、ベビーカーを抱えた状態で乗り込める。

タントの「ミラクルオープンドア」。 開口部が広くベビーカーを抱えた状態で乗り込める

 雨天時など、子供をチャイルドシートに座らせる作業も車内で行える。高齢者を同乗させる用途でも便利に使える。体をひねったりしないで乗り降りできるから、負担を軽減できる。

 タントでは、主力グレードの運転席に540mmの前後スライド機能も装着した。左側から乗り込み、降車しないで運転席まで移動できる。現行タントは、車内の移動性を大幅に向上させた。

■2台の個性と走行性能および価格の比較

 一方、ムーヴキャンバスは、タントとは異なる機能を採用する。後席の下側に装着した引き出し式の収納ボックスだ。これを引き出した状態でバスケットを立ち上げると、収納ボックスの上に置いた買い物袋が倒れにくくなる。走行中に買い物袋が倒れて車内に荷物が散乱するのを防げるのだ。

ムーヴキャンバスの「置きラクボックス」。 後席の下に収納棚が装備され、前方に引き出すとカバンや買い物袋を置くのに便利

 そこでムーヴキャンバスのスライドドアは、左側に加えて右側にも電動式を標準装着した(右側はオプションの車種も多い)。予め後席右側の収納ボックスをバスケット状態にしておくと、買い物袋を収めた後、電動スライドドアを閉めながらドライバーはスグに運転席へ乗車できる。収納ボックスのバスケットを便利に使うには、右側の電動スライドドアが不可欠だった。

ムーヴキャンバス 後席の電動スライドドアを両側に標準装備。スライドドアと置きラクボックスで両手が塞がった買い物もラクラクこなせる

 以上のようにムーヴキャンバスの車内は、買い物などに使いやすいワゴン的な価値観で仕上げた。デザインにも重点を置き、インパネにも丸みを付けて上質な印象がある。

 対するタントの車内は、子育て世代が使いやすいように配慮されて価値観はミニバンに近い。インパネには大型のトレイも装着され、実用性を重視する。

 動力性能も比べたい。ムーヴキャンバスはターボを装着しないノーマルエンジンだけで、車両重量は2WDでも920kgに達するから性能的には大人しい。登坂路ではパワー不足を感じる場面もあるが、平坦な街中の走りであれば不満は生じない。

 タントは無段変速ATのCVTに副変速機を組み合わせて、変速できるギヤ比をワイド化した。車両重量は標準ボディのXは900kgだ。設計が新しいために、高機能ながらも軽量化が進んだ。

 これらの相乗効果により、WLTCモード燃費も、ムーヴキャンバスは20.6km/L、タントのノーマルエンジン車は21.2km/Lと少し優れている。

 走行安定性もタントが勝る。先代型の操舵感が鈍く曲がりにくかったこともあり、現行型は自然な印象になって後輪の接地性も充分に確保する。その代わり乗り心地は、ムーヴキャンバスが柔軟だ。タントは走行安定性と操舵感が向上した代わりに、街中を時速40km以下で走ると、細かな上下動を伝えやすい。

 衝突被害軽減ブレーキなどの先進機能は、設計の新しいタントが優れている。タントのターボエンジン搭載車には、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなども採用されるが、ムーヴキャンバスには設定がない。

 価格は、ムーヴキャンバス GメイクアップリミテッドSAIIIが158万4000円、タント Xは149万500円だが、右側スライドドアの電動機能を加えると約155万円になる。基本的な機能と価格のバランスは同程度で、ムーヴキャンバスは内外装の質感を高め、タントはシートアレンジを充実させて車内も広い。

■ムーヴキャンバスの個性的な機能と雰囲気が今の時代とマッチした

 タントは背の高いボディにスライドドアを装着する実用重視の軽自動車だ。

 その点でムーヴキャンバスは、スライドドアを備えながらも、内外装をオシャレに仕上げて趣味性も併せ持つ。1700mm以下の全高を含めて、ムーヴキャンバスにはスライドドアを備えたスーパーハイトワゴンとは違う個性があり、ユーザーの共感を得ている。

 特に外観の印象は大きく異なる。タントカスタムは、アルファードを小さくしたような印象で、目立ち度や存在感が強い。

 その点でムーヴキャンバスは、表情が優しく、協調性を感じさせる。この穏やかな雰囲気は、今の時代にも合っているだろう。ムーヴキャンバスが走る街中は、その情景も少し変わるように思う。

街中のムーヴキャンバス。レトロな雰囲気があり、VWワーゲンバスを彷彿させるカラーリングがいい

【画像ギャラリー】どこかレトロでやさしい表情の「ムーヴキャンバス」を写真でチェック!!

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