■オープンが好きな北米に向けた「アメリカ」と名のつくフェラーリ
2021年の「モントレー・カー・ウィーク」のイベントのひとつである「Montley」オークションでは、おびただしい台数のフェラーリが出品された。
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そのなかで今回VAGUEが注目したのは、「アメリカ」にちなんだ名を持つ、あるいはアメリカ市場好みに仕立てられた3台のV12+FRオープンモデルである。
カリフォルニア州をはじめとするアメリカの顧客は、伝統的にオープンモデルを好むそうで、第二次世界大戦の終結後、外貨獲得が会社存亡を左右する命綱となっていたヨーロッパ各国の自動車メーカーが、文字どおりの「ドル箱」としてアメリカ好みのオープンスポーツを輸出していた。
もちろんフェラーリも「アメリカ」ないしは「スーパーアメリカ」の名を持つ、ゴージャスな大排気量クローズド/オープンモデルをアメリカに向けて送り出しており、それらの超高級フェラーリたちは、今や伝説的な存在となっている。
そして、その名を継承したエキゾティックなフェラーリたちが、約半世紀を経た21世紀に続々と誕生し、早くもコレクターズアイテムと化しているようなのである。
●2005 フェラーリ「スーパーアメリカ」
まず紹介するのは、2005年に599台が限定生産された「フェラーリ・スーパーアメリカ」である。
かつてピニンファリーナのチーフスタイリストとして、名車の数々を手掛けたレオナルド・フィオラヴァンティ氏の発案による独創的な回転式オープントップ「レヴォクロミコ(Revocromico)」システムが与えられた、V12オープンフェラーリである。
ベースとなったのは、この年をもって生産を終えることになった同時代のフェラーリV12ベルリネッタの「575Mマラネロ」。メカニズムはスタンダードの575Mと共通ながら、V型12気筒5.7リッターのエンジンは前年にデビューしていた「612スカリエッティ」と同じ、540psスペックとされていた。
実は今回の「Montley」オークションには、2台のスーパーアメリカが出品されていた。そのうちの1台は、圧倒的に製作台数の少ない6速MTだったのだが、今回紹介するのは多数派であるF1マティック仕様のスーパーアメリカである。
2005年にテキサス州ダラスのフェラーリ正規代理店「ボードウォーク・フェラーリ」を介して販売され、インテリアのカーボントリムや「デイトナスタイル」のシート、「GTCパッケージ」など、多くの望ましいオプションがセレクトされた個体である。
また、出品時のマイレージは3873マイル(約6200km)という低走行車で、当然ながら内外装のコンディションも新車同様。そのため、22万5000-27万5000ドルというエスティメートは、むしろリーズナブルとも思われたのだが、やはりマーケットの評価は正直なもので、エスティメート上限を上回る29万1000ドル、日本円に換算すれば約3200万円での落札となった。
蛇足ながら「Montley」オークション出品されたもう1台、6速マニュアル仕様のスーパーアメリカについては、なんと78万9000ドル。つまり約8600万円で落札されたのだが、こちらは圧倒的な希少価値ゆえのことだろう。
●2011 フェラーリ「SAアペルタ」
RMサザビーズ「Montley」オークションに出品されたオープンフェラーリの2台目は、フェラーリとは長年パートナーシップを築いていたカロッツェリア「ピニンファリーナ」の80周年記念モデルとして2010年に誕生した「SAアペルタ」である。
製作台数はピニンファリーナ80周年にちなんだ80台と、575M時代の「スーパーアメリカ」よりもはるかに少ない。
フェラーリ側の説明では、SAアペルタの「SA」は、セルジオ(Sergio)・ピニンファリーナと、アンドレア(Andrea)・ピニンファリーナのふたりが積み上げてきた貢献の数々に敬意を表して命名したとされる。
しかしフェラーリにおける「SA」といえば、「スーパーアメリカ(SuperAmerica)」のイニシャルと受け取ってしまう方は、筆者も含めて少なくあるまい。このネーミングの源流であるピニンファリーナの傑作「410/400スーパーアメリカ」も、「410/400SA」という略称で呼ばれるのが通例なのだ。
それはさておき、SAアペルタのベースモデルとなったのは、2005年にデビューした「599GTBフィオラーノ(日本市場では599)」。シート背後に599の特徴である「フライングバットレス」風のスタイルとされたロールバーユニットをもち、より低められたウインドシールドとの間に簡易式デタッチャブルトップを「乗せる」ロードスターとされた。
また、F140系エンジンは、599のハードコアモデル「599GTO」と同じ670psスペックのものがおごられていた。
今回オークションに出品されたSAアペルタは、2011年にアメリカでデリバリーされた個体。ボディは、かつて「ディーノ206/246GT」から採用されたペイントで、フェラーリでは「ロッソ・ディーノ」と呼ぶ朱色とシルバーで仕立てられており、ロールバーやインテリアは「マローネ・スクーロ(ダークブラウン)」基調のコンビレザーで設えられる。
またカーボンファイバー製トリムや、イエローのブレーキキャリパーに合わせた同色のタコメーターなど、人気のオプションも数多く備えられるこのSAアペルタの走行距離計は、まだ350マイル(約560km)にも満たないという。
このSAアペルタに対して、RMサザビーズ北米本社が設定したエスティメートは、120万-135万ドルであった。実際のオークションでは、エスティメートを少しだけ割り込む110万5000ドル、邦貨換算約1億2150万円で落札されるに至った。
■わずか10台だけ生産された「F60アメリカ」の驚愕の落札
フェラーリ「F60アメリカ」は、2014年夏にロサンゼルス・ビバリーヒルズにて開催された、北米マーケットにおけるフェラーリの正規ディーラーシップが60周年を迎えたことを記念するパーティイベントにて初公開された。
このモデルがオマージュを捧げるのは、当時の最高性能版フェラーリ「375プラス」を1954年に初めて輸入した北米におけるフェラーリの礎、故ルイジ・キネッティと、彼がアメリカで築いてきた名声である。
●2016 フェラーリ「F60アメリカ」
キネッティは、1949年に戦後初めて開催されたル・マン24時間レースを、こちらも初出場となるフェラーリで制した人物。のちにアメリカでのフェラーリ販売代理権を取得。一時は世界最高のフェラーリディーラーとなった。
F60アメリカがイメージカラーとし、今回のオークション出品車にもペイントされている濃紺のボディカラーは「Blu NART」と呼ばれるのだが、その「NART(North American Racing Team)」もキネッティが設立したレーシングチームの名前だ。
1960-70年代、NARTはフェラーリのサテライトチームとしてスクーデリア・フェラーリを補完。ル・マンをはじめスポーツカー耐久レースや、時にはF1GPでも大活躍を果たしたのだ。
そんな偉大な足跡を記念するF60アメリカは、古くから北米のフェラリスタが愛してやまないフロントエンジンのV12に、こちらもアメリカ好みなオープントップの組み合わせ。特別なスペチアーレとはいえ、740psを発生する6262ccのV12エンジンなど、メカニズムはベースモデルである「F12ベルリネッタ」と変わらない。
しかしその最大の差異は、ベースモデルであるF12とは一線を画したアピアランスにある。フロントは、格子型グリルを持つフェラーリの伝統的スタイルとされ、ブレーキを冷却するエアインテークに至るまでクロームで仕上げられる。
F60アメリカは当然ながら限定モデルであり、生産数はスーパーアメリカやSAアペルタよりもさらに少ないわずか10台だけ。その台数の由来は、かのスティーヴ・マックイーンをはじめとする米国の顧客に向けて、キネッティがエンツォ・フェラーリに特別注文、1967年に同じく10台のみが製作された「275GTB/4 NARTスパイダー」へ敬意を表したものだった。
そして当時の販売価格は、同時代の「ラ・フェラーリ」さえもしのぐ250万ドルとされながらも、実は発表と同時に完売になってしまったという。
そんな逸話も相まって、今回のオークション出品に際してRMサザビーズ社は350万-450万ドルという途方もないエスティメートを設定していたのだが、いざフタを開けてみれば、エスティメートに収まる363万5000ドル。日本円に換算すれば、約4億円という驚くべき価格で落札されることになったのである。
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みんなのコメント
黒いスーパーアメリカがいつも停まっていましたが
いつしかソレが白いパナメーラに代わってて…
黒いスーパーアメリカ…何処へ…