高級ガレージに特化した建築家
クルマ好きの人々は、所有する車種だけでなく、あらゆるアクセサリーや工具に至るまで、強迫観念的なコレクターであることが多い。そのため、超高級車のコレクターが、最終的にクルマを保管する場所、すなわちガレージに注目するのも当然のことかもしれない。
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電球が1つぶら下がっただけのプレハブ小屋ではなく、自分の愛車(おそらく複数形)を展示できる「ギャラリースペース」である。ラウンジエリアやバー、ターンテーブルを備え、自分や友人たちが最新の愛車をあらゆる角度から鑑賞できるようになっている。
今この瞬間にも、世界のどこかで8人のクルマ愛好家が、非常に野心的なギャラリースペースで、地上と地下にそれぞれ自分だけのコレクションを展示して楽しんでいる。
彼らは、ロンドンを拠点とする建築家ジョナサン・クラーク氏と、同氏の建築事務所ガレージ・デラックス(Garage Deluxe)の顧客である。同氏は4年前、クルマと建築への情熱を融合させ、この事業を立ち上げた。
「子供の頃に父とアールズコート・モーターショーに行って以来、クルマに興味がありました。現在、普段乗っているポルシェ・マカンとポルシェ911 4Sカブリオレに加えて、アルファ・ロメオ・スパイダー3.2とフェラーリ575スーパーアメリカも所有しています。わたしはクルマが好きですし、他の人々がクルマを好きになる気持ちも理解しています」とクラーク氏は説明する。
クラーク氏は建築関係の仕事で生計を立ててきた。キャリアの初期には、ローズ・クリケット・グラウンドのメディアセンターやナショナル・ポートレート・ギャラリーの拡張工事などの大規模プロジェクトに携わっていた。
しかし、動物福祉センターの設計の仕事をきっかけに、専門分野に特化することのメリットに気付いた。
「バー、レストラン、学校、オフィスなど、あらゆるものを設計してきました。しかし、動物センターの設計で、ニッチなプロジェクトに需要があることを知りました。わたしの理想とするニッチなプロジェクトはクルマ関係のものでしたが、すぐに高級ガレージのほとんどが単発のプロジェクトであることに気付きました。そこで、その設計に特化することを決めたのです」
新事業を立ち上げた当初は、クルマや関連グッズのコレクター、家具デザイナー、リフトやターンテーブル業界など、自身のアイデアを実現する手助けをしてくれる人々と会うことに時間を費やした。
しかし、顧客との面会はそう簡単ではなかった。「当社のクライアントは、レーダーに引っかからない人々です。当社が彼らを見つけるのではなく、彼らが当社を見つけ、そうして見つけてもらった後は、完全な秘密厳守を求められます」
彼らのコレクションの価値を考えれば、それも当然のことである。クルマの価値が今ほど高くなかった時代には、古い納屋やガレージに保管しても問題はなかった。しかし、今では価値がはるかに高くなっているため、裕福なオーナーは適切な保管場所と安全な展示スペースを強く望んでいる。
「もしモネの絵画を所有しているなら、寒くてジメジメした部屋に飾ったりはしないでしょう。人目に触れ、安全な場所に保管したいはずです」とクラーク氏は言う。
「貴重なクラシックカーやスーパーカーも同じです。安全な遠隔地に保管することもできますが、それでは意味がありません。すぐに見ることも楽しむこともできず、友人にも見せられません」
ただクルマを並べるだけではない
現在、クラーク氏は6つのプロジェクトを監督しており、さらに2つのプロジェクトが計画中である。同社が英国で手がけた2つのプロジェクトのうち1つは地下にあり、最大100台のクルマを収容できる。
サウジアラビアのジッダにある別の地下プロジェクトでは、50台分の駐車スペースがある。ただし、顧客にとって重要なのは収容可能台数ではなく、クルマの展示方法や展示環境である。
クラーク氏は次のように語る。「わたしはこれまで、テーブルと椅子が置かれたシンプルなスペースにクルマが展示されているコレクションを数多く見てきました。まるでショールームのようです。当社のプロジェクトの1つでは、クライアントがバーとダイニングルームを備えた広いエリアに入り、ターンテーブルに置かれた2台のクルマを眺める。残りのコレクションはスライドスクリーンの向こうにある。クライアントが展示物を管理し、一定の間隔で中身を入れ替えるというアイデアです。つまり、ある週は赤いスポーツカー、別の週はスーパーカー、といった具合です」
スペインのギャラリースペースでは、顧客からシガーバーとゲームエリアのリクエストがあった。「まるで秘密の紳士クラブのようです。当社はコンクリートにソフトレザーを貼った素材を使用しているので、クルマを移動させても傷つけることがありません」
アブダビで手掛けたプロジェクトは、メルセデス・ベンツ300SLの整備とレースを行う会社のワークショップであった。機械、ボディショップ、塗装ベイに加えて、顧客エリアも設置される予定だ。
「UAEではクラシックカーが大変な人気です。最新のスーパーカーに乗っていても、ほとんどの人は気づきませんが、人気のある古いクラシックカーに乗っていれば注目されます」
個人顧客にとっては、クラーク氏の作品は単なるガレージ以上のものだ。「当社のスペースは、クルマのためだけでなく、来客をもてなしたり、リラックスしたりする場所でもあります」
「当社は自動車関連グッズやデザインの業界に多くの人脈を持っており、依頼されたものはほぼ何でも提供することができます。あるクライアントは、所有するフェラーリ・デイトナのシートとまったく同じ椅子を希望しました。また、別のクライアントは、自らのポルシェのエンジン(故障したもの)を壁の装飾として使用しました」
どんな依頼にも応える
ニューキャッスルでインテリアデザインを手がけるデザイン・ノース(Design_North)も、高級ガレージの世界で活躍する英国企業である。同社のディレクターであるスコット・スチュワート氏はクルマ愛好家で、あるとき、ハイパーカーをコレクションしている顧客のためにガレージのインテリアをデザインすることになった。その仕事がきっかけとなり、高級ガレージブランドの創設を思い立った。
「ハイパーケイブ(Hypercave)という商品名に決めたのは、誰もが知るブランドになることを目指しているからです」とスチュワート氏は説明する。同氏はいくつかのデザインコンセプトを作成し、インスタグラムに投稿して反応を待った。
「すぐに最初の依頼が舞い込みました。当社では『ハイパーケイブ01』と呼んでいます。すべてに番号が付けられるのです。依頼主は英国に拠点を置き、再生可能エネルギーの発電所を運営しています。当然ながら、EVに興味があり、所有する建物の一部をハイパーケイブに改装し、テスラ・サイバートラックとテスラ・ロードスターを停める場所にしたいと依頼してきました。SF映画『トロン』にインスパイアされた近未来的な空間で、テスラのパワーウォールに蓄えられた再生可能エネルギーを使用して、とても明るく照らされています。ユニバーサル・ピクチャーズはその画像を見て、この空間での撮影に興味を示しています」
同じ顧客が、ランドローバー・ディフェンダーのコレクション用にハイパーケイブ02を依頼した。車両のイメージに合わせて、この空間では自然素材を使用し、森の樹冠のように暗く、派手さは抑えられている。
どちらの “ガレージ” にも、目立つハイパーケイブのロゴが掲げられている。スチュワート氏は、さらに野心的な3つの新プロジェクトに力を入れている。2つはドバイの地下、もう1つはジッダである。
スチュワート氏とクラーク氏の高級ガレージは、決して安くはないが、保管されるクルマも安くはない。新しいガレージでは、間違いなく美しく映えるだろう。
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多少のメンテナンスができて、直射日光や風雨をしのげれば充分。