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「空冷エンジンの継承ではなくデザインとフィーリングの継承を」──新型CVOから見るハーレーダビッドソンの未来は明るい!?

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「空冷エンジンの継承ではなくデザインとフィーリングの継承を」──新型CVOから見るハーレーダビッドソンの未来は明るい!?

ハーレーダビッドソンの新型「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」が日本上陸した。来日したヨッヘン・ツァイツ本社CEOに、田中誠司がインタビューをした。

世界から注目される経営者

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モーターサイクル界のトップ・ブランドであるハーレーダビッドソンにおいて、最高峰に君臨するモデルが生まれ変わった。「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」である。

新型エンジンを搭載し、LEDヘッドライトを中心にその姿もはっきりと「新しさ」を主張するふたつのニューモデルは、日本における発表会にヨッヘン・ツァイツ本社CEOがミルウォーキーから駆けつけるほど、力のこもった注目作である。

本社CEOといったって、どれほど注目すべきヒトなのか、という話からあえてスタートしたい。

ツァイツCEOは大企業によくある、長年ひとつの企業に忠誠を尽くした末に社長の座を射止めたような人物ではない。国際マーケティングとファイナンスを学び、27歳でプーマに転職したあと、30歳で「ドイツの上場企業における史上最年少CEO」となり、当時落ち目だったスポーツ・ブランドを大胆な戦略で再生させ、18年間にわたり会長兼CEOとして君臨した。

その後プーマの親会社の取締役、ハーレーダビッドソン本社の取締役を経て2020年からハーレーのCEOを務める傍ら、ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン卿らと世界のトップ・ビジネスマンを集めた社会・環境団体を運営、さらに自らの財団が経営する現代美術館を南アフリカに設立。映画プロデューサーや執筆者としても活躍し、フィナンシャル・タイムズ紙の「ストラテジスト・オブ・ザ・イヤー」を3度獲得するなど受賞歴多数。世界から注目される経営者なのである。

新型エンジンを搭載そんなツァイツ氏を独占してインタビューできた話はひとまず置いておいて、ハーレーのニューモデルの紹介に戻る。

「CVO」とは“カスタム・ヴィークル・オペレーション”の略で、特別なエンジンを搭載し、塗装など装備の仕上げにもこだわった限定生産モデルを指す。巨大なカウルやサドルバッグを標準で装着する、グランド アメリカン ツーリング・シリーズのトップモデル「ストリートグライド」および「ロードグライド」が刷新されるにあたり、プレミアムなCVOが先陣を切ったというわけだ。

まず注目すべきは、新型エンジン「ミルウォーキー エイトVVT 121」。121はキュービック・インチの単位で排気量を示し、馴染みのあるcc単位でいえば1977ccとなる。従来型「117」ユニットに対し排気量を拡大したことに加え、VVTすなわち可変バルブタイミング機構が装着されたことが特徴だ。乗用車ではシボレー・コルベットに採用例があるものの、そもそも低速回転域に的を絞ったOHVエンジンにVVTを装着することは異例といえる。

プレス発表会で新型車について説明したハーレーダビッドソン ジャパンの野田一夫代表取締役社長は、「新型CVOに試乗する機会がありました。僕が普段乗っている117エンジンは低速からの力強さが魅力ですが、121エンジンはそれに輪をかけて強力になっています」と、表現した。

121エンジンの出力は従来型の117に比べて、最高出力でプラス9.5%の115HP/5020rpm、最大トルクでプラス8.0%の183Nm/3500rpmに達する。吸排気バルブの開閉タイミングを40°調整可能なVVTにより、扱いやすさだけでなく燃費も向上させた。

冷却システムも刷新し、エンジンからの熱を放射するオイルクーラーを車体下部に配置、パイプの位置も可能な限りライダーから遠ざけることで、快適性、動力性能、耐久性のすべての面が改善したという。

新しいエンジンを支えるフレームは、マウント部分がモディファイされただけで基本は従来型と共通ながら、ブレンボ製ラジアルフロント・ブレーキキャリパー、倒立式フロントフォーク、ダンピング&プリロード調整式リヤサスペンションなどを新採用して操縦性を高めている。並行して、従来型から約20kgもの軽量化を実現。「サイドスタンドから引き起こすだけで軽さを感じる」と野田社長は表現し、ソフテイルやスポーツスターなどからの乗り換えも期待していると述べた。

戦略的な価格スタイリングの刷新ぶりは写真を一見してもらえば明らかだと思うが、フェアリングやサドルバッグを中心に、従来のトップモデルらしいボリューム感は活かしつつも、空気の流れに合理的に立ち向かうフォルムが与えられた。

LEDヘッドライトやターンシグナルランプのグラフィックは、最も従来との変化を感じやすい部分だろう。ロードグライドではオメガシェイプと呼ばれる2灯ヘッドライト、ストリートグライドではハーレーダビッドソンのシンボルである鷲が羽根を広げたようなターンシグナルが特徴的だ。

スポークとキャストを組み合わせたホイールやエンジン周辺のパーツ、インフォテインメントシステムなどの細部もデザインを刷新し、一体感を醸成しようとしている。Apple Carplayにも対応した“ウルトラ・アーキテクチャー”は3つのディスプレイオプションを含む多彩な画面を12.3インチTFTディスプレーに表示し、スピード、エンジン回転数、ナビゲーション、音楽、ライドモード選択等の車両設定が可能。ハンドコントロール、タッチパネル、ボイスコマンドで入力できる。ロックフォードフォズゲート製のプレミアムオーディオシステムは全車に標準装着される。

性能向上に加えて満艦飾であるCVOストリートグライド/CVOロードグライドの価格は共通で、ベースモデルが549万7800円、特別塗色の“ウィスキーニート”は621万2800円とされた。従来型より45万円上昇するものの、性能や装備の向上ぶりを考えれば戦略的な価格だ、と野田社長は強調する。

ハーレーダビッドソンらしいデザインとフィーリングを大切に発表会に続いてヨッヘン・ツァイツCEOにインタビューする機会を得た。

国際的に注目される経営者で、自身の事業も手広く手掛けていると聞いて、1を尋ねれば10の答えが返ってくる饒舌さを想像していたが、彼は終始まっすぐにインタビュアーの目を見て、クールかつ端的に、必要なことだけを答える人物だった。

今回のCVOストリートグライド/CVOロードグライドについて、特に魅力的な部分は? と訊くと、それは総合的なバランスの高さであるという。

「本当にすべてが魅力的だと思っています。デザインとサウンドとフィーリングが一体になって、ユニークなバイクを構成しています。ヘリテイジに沿っていながら、イノベーションを盛り込んでいて、リラックスして乗れるのと同時にとても敏捷で、ダイナミックでもあります。従来と比べ軽く、より快適で、サウンドシステムも素晴らしい。バイクで旅をすることに対して、非常に特別なエクスペリエンスをもたらしてくれるでしょう」

日本市場の今後の見通しについてはどう考えているのだろう。

「多少景気に不安を抱えている方が多いのは事実ですが、長期的にはポジティブだと考えています。新型CVOの投入により、われわれはプレミアム・ビッグバイクのセグメントにおけるリーダーシップを存分に発揮できると考えています」

新しいフラッグシップモデルも空冷エンジンを継承することになったが、空冷エンジンはハーレーにおいて今後も受け継がれていくのだろうか。

「私の考えでは、重要なのは形式ではなくデザインとフィーリングです。メカニズムが空冷かどうかにかかわらず、ハーレーダビッドソンらしいデザインとフィーリングをこれからも残していきます」

現行モデルと過去のモデルで、それぞれ一番好きなハーレーを挙げてほしい、と頼んだところ、断られた。

「120年もの歴史があるブランドから2つのモデルだけを選ぶのは難しいですね。私のガレージには1969年のサイドカー、2台のチョッパー、パンアメリカ、ライブワイヤー、エレクトラグライドリバイバルがあって、その時のムードで選びます」

そもそも、ツァイツ氏が他にも多くあったであろう選択肢の中から、ハーレーのCEOになったきっかけは何だったのだろうか。

「私はプーマにいる20年以上の期間で、経営者として達成すべきことはすべて成し遂げたと思っていました。それゆえ、別の企業でまたCEOを務めたいという考えはまったくなくて、むしろそれ以外の活動に目を向けたいと考え、4つの財団を立ち上げてアートや環境、動物保護、サステナビリティなど、いろいろなことに取り組んできました。その傍らでハーレーの取締役を務めていたところへ、『前任者が退任するから暫定的にでもCEOを引き受けてくれないか』と、頼まれたのです。ハーレーダビッドソンからそう言われたら、ノーとは言えないですよ。長期化はしないと思っていたのですが、いざ着任すると、しなければならない仕事が山積してなかなか片付かない。だからいまでもCEOを務めています。私自身、バイクが大好きですし、そしてハーレーダビッドソンはアイコニックな存在です。こういった企業に私がインパクトを与えられれば嬉しいなと思いました」

最後に、「私もハーレーダビッドソンの社長になりたい。どんな努力をすればいいですか?」と聞かれたら、どう答えるのか?」と、尋ねてみた。

「まずブランドやモーターサイクル自体に対する情熱を持っている必要がありますし、常に業界のリーダーであり続けるという意欲と能力が必要です。良いチームを常に維持し、育て、一緒にやっていくことも必要なスキルだと思います。誰もひとりだけで成功できるわけはないのですから」

文・田中誠司 編集・稲垣邦康(GQ)

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