レクサスの新型「LBX」に追加される「MORIZO RR」は刺激的な1台だった! サトータケシがプロトタイプの印象をリポートする。
ドライバーとクルマが対等の関係
レクサスLBXの高性能版、“MORIZO RR”が遂に出た!──GQ新着カー
今年1月におこなわれた「東京オートサロン2024」で披露されたレクサスLBX MORIZO RRのプロトタイプの試乗会が、袖ケ浦フォレストレースウェイ(千葉県)で開催された。
車名からもわかるように、モリゾウさん(トヨタ自動車の豊田章男会長)直轄のプロジェクトで、レーシングドライバーの佐々木雅弘と共に走りを磨いたモデルだという。
まずは6MT仕様に試乗、ヒップポイントがノーマルより低くしたというドライバーズシートに収まる。
最高出力304psと最大トルク400Nmを発生する1.6リッター直列3気筒ガソリンターボエンジンと6MTを組み合わせたパワートレインは、進化型「GRヤリス」と共通。つまりレクサスブランドとして初めて、GRファクトリーと共同開発したモデルということになる。
スターターボタンを押してG16E-GTS型エンジンを始動。クラッチは相応の踏み応えがあるけれど、信頼感につながる重さだ。シフトレバーのフィーリングを確かめると、東西南北どの方向に動かしても、節度はあるけれど引っかかりはないという好ましいもの。クラッチのミートポイントも絶妙でわかりやすい。
高段位の柔道選手は組み合った瞬間に相手の力量がわかるというけれど、このクルマも1速に入れてクラッチをミートした瞬間に、鍛え抜かれていることが伝わってくる。
走り出して真っ先に感じたのが、1.6リッター直3エンジンの吹け上がりの良さだ。3000から3500、3500から4000と、回転を積み上げるごとにタコメーターの針が上昇する勢いが鋭くなり、ヌケのよい乾いた排気音がいい感じで空気を振動させる。頭の中に、“ホットハッチ”という懐かしい言葉が浮かぶ。
第1コーナーでは、ターンインの身軽さに感心する。ステアリングホイールを握っている者の実感としては、力ずくで無理矢理クルマを曲げるのではなく、クルマが行きたい方向へ進むように、クルマと会話をしながら力を合わせて向きを変えている感覚だ。
フルタイム4駆システムが、ターンイン、旋回中、そしてコーナーからの脱出と、場面に応じて前後のトルク配分をきめ細やかに調整していることが、コーナリング中の軽快感と安定感を両立させている理由のひとつだろう。
運転に慣れてきたところで、VSCをオフにする。
残念ながら豪快にドリフトを決めてコーナーを駆け抜けるほどの技量は持ち合わせていないけれど、それでもコーナーでキュッとお尻をすべらせて向きを変える楽しさは、十二分に堪能できる。クルマに乗せられているのではなく、ドライバーとクルマが対等の関係にあると感じられるのがうれしい。
続いて8段AT仕様に乗り換える。正直、6MTほど楽しくはないだろうと思っていたけれど、予想は覆された。
変速が素早くてショックも少ないうえに、エンジンとの連携もよく練られているから、パドルシフトを操作しなくてもアクセルペダルの踏み加減ひとつで、適切なギアを選んでくれる。
「NORMAL」から「SPORT」にドライブモードを切り替えると、シフトスピードがさらに上がると同時に、エンジン回転も高まり、常にパワーバンドを維持するセッティングになる。
VSCをオフにすると、“レーシィ”という表現を使いたくなるほど、エグゾーストサウンドが賑やかになる。特にアクセルペダルをオフにした瞬間の「パパンッ!」という音がレーシングマシンっぽくて、背筋がぞくぞくする。今は昔、トヨタ「カリーナ」のコマーシャルには“足のいいやつ”というキャッチコピーが使われたけれど、MORIZO RRは“音のいいやつ”だ。
パドルシフトを操作しながら、両手でステアリングホイールを操れるのが2ペダルの利点。特にクローズドのコースでちょっとお尻をすべらせるような走り方をすると、MTよりも両手でハンドルを扱えるATのほうが楽しいかも……と、思わされた。
“モリゾウさんの名前を汚すわけにはいかない”というわけで、まだプロトタイプの段階ではあるけれど、エキサイティングなモデルであることは間違いない。試乗を終えて、冒頭に記した佐々木雅弘選手に話を訊けたので、要点を記しておきたい。
自身がこのプロジェクトに参画することの意味はなにか? と、質問すると、佐々木選手はこう答えた。
「僕はトヨタの社員ではないので、忖度抜きに意見を言うことができます。トヨタにも素晴らしい技量のドライバーがたくさんいますが、サラリーマンだと上司とか元上司にダメ出しするのは難しいじゃないですか。また、トヨタの社員だと、こういうリクエストを出したら生産の現場が混乱すると気を使うこともあるかもしれない。けれど、僕はクルマをよくすることだけを考えればいい。もちろんレーシングスピードで走ることもできるし、いろいろな意味で、社内ルールなどのトヨタのリミッターを飛び越えることができたと思います」
このクルマは、モリゾウさんのドライビングスタイルを反映しているとのことだったので、豊田章男会長のドライビングスタイルはどのようなものか?
「レーシングドライバーにもいろいろな種類はありますが、まずモリゾウさんはラリーとロードの両方を走ります。荒れた低ミュー路でも、ハイスピード、ハイグリップのニュルブルクリンク(サーキット)でも、状況に適した運転ができる。基本的にはすごく丁寧に操作する方ですが、行くときにはすごくアグレッシブで、使い分けられる……幅の広いドライビングスタイルがモリゾウさんの特徴だと思います」
フェラーリ「エンツォ・フェラーリ」が登場したのは、エンツォの没後14年の2002年だった。そう思うと、存命中の経営者の名前をモデル名に冠するというのは、なかなか大胆だ。それだけこのモデルに力が入っているということであり、プロトタイプの仕上がりからも、“モリゾウさんの名前を汚すわけにはいかない”という気合が伝わってきた。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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