テインは横浜で生まれたサスペンション専門ブランド。サスペンションに対する半端ないこだわりから生まれた中国工場へ潜入取材する機会に恵まれたのでここで紹介しよう!!
文:加茂 新/写真:加茂 新、テイン
テインは中国工場もすげーぞ!! 全数検査で品質は折り紙つき 世界に誇る日本のサスはどう作られる?
■ラリードライバーから生まれたサスペンション
元ラリードライバーの藤本吉郎氏
今回工場を案内してくれたのは藤本吉郎専務。元ラリードライバーであり、1995年のサファリラリーを日本人として初優勝を果たしたそのお方。
1995年のサファリラリーはWRC格式ではなかったもののそのレベルは高く、優勝ドライバーも1991年ユハ・カンクネン、1992年カルロス・サインツ、1993年ユハ・カンクネン、1994年イアン・ダンカン、1995年藤本吉郎、1996年トミ・マキネン、1997年コリン・マクレー、1998年リチャード・バーンズというそうそうたる面々なのだ。
当時の藤本選手のチェイスカー(スペアパーツ代わりに参戦する走る部品取り車)のドライバーはのちのワールドチャンピオン、マーカス・グロンホルムだったというのだから恐れ入る。ちなみに今年のサファリラリーはWRCに組み込まれ、優勝はカッレ・ロバンペラ選手。勝田貴元選手が2位に入った。
そんな藤本氏が国内ラリー競技に参加している頃、既存品のサスペンションでは性能に満足できなかった。「ちょっと本格的に走るとオイルが漏れてきた」という性能だったという。そこで自分たちで満足できるものを作るしかないと、コ・ドライバーの市野諮氏と1985年神奈川県横浜市で創業したのがテインだ。
■世界的なブランドに成長したテイン
とっても立派な中国のテイン工場
小さな町工場からスタート。2人でコツコツと納得行くものを目指してサスペンションを設計、改良していったという。1990年からは自社ブランドとしてサスペンションの市販を開始。その性能の高さとクオリティによって瞬く間にシェアを獲得。サスペンションブランドとして急成長していった。
国内では横浜市内で移転しながら徐々に規模を拡大していったが、2013年に中国工場を設立することになる。
この中国工場は現在のテインのメイン工場。広大な敷地と設備を揃えている。こちらでは主にテインのラインアップ内でもリーズナブルなモデルである複筒式モデルの製造を行っている。
複筒式モデルは車高調もあるが、そのメインは純正形状サスペンションであるEnduraProとEndura Pro PLUS。ノーマルと同じ見た目ながら優れた性能を持ち、さらにEnduraPro PLUSというモデルになれば減衰力調整も可能。さらにその減衰力調整にテイン独自の遠隔減衰力自動調整機構であるEDFC5をセットすれば、室内から減衰力が変えられるし、速度やG、ジャークなどに応じて減衰力を1輪ずつ変えることも可能なのだ。
ピストンロッドの素材となる鉄から加工、熱処理、メッキなどを施して中国工場内で完成させる
この純正形状サスペンション+EDFC5の機構はアメリカで行なわれたSEMA SHOW2023でも表彰されるなど話題性があるシステムなのだ。ちなみに横浜本社工場では主にスポーツモデルである単筒式モデルの製造を行っている。だが、そこに使われているピストンロッドも現在はすべてテイン中国工場となる。
ピストンロッドはサスペンションの中でも大変重要な部分。まっすぐなことは当然。表面がきちんと処理されていないとフリクションロスが増えるし、オイルシールを傷つけてオイル漏れの原因になってしまう。
そこで中国工場では鉄の素材から選定。それを切り出して熱処理を加えて強さをアップ。1本ずつ曲がりを測定して自動的に修正。そのうえで研磨して、さらにメッキを掛けている。自社工場内でメッキ処理まで行っているのだ。メッキ後も自動で仕上がりを確認し、OKが出たものだけが製品に使われる。
「過去にはこちらのメッキ工場に依頼したこともありましたが、正直納得行くクオリティのものができなかった。ならば自社工場でメッキまでしようとなりました」と藤本専務。
「だが、メッキ工場は周辺の環境汚染をしやすいので中国国内でも建てられる場所が限られます。そこでメッキ工場が建てられるということで選定した場所がこの宿遷(しゅくせん)というところでした。しかし、当社ではメッキに関する排出汚水はゼロです。すべてリサイクルしているので環境負荷はありません」(藤本専務)
自社内メッキ工場は廃液なしの完全リサイクルを実現
■素材なども吟味して安定した品質と価格を提供
テイン中国工場で製造されるサスペンションにはもちろん、日本にも毎週ピストンロッドを送っていて、横浜本社工場で組み立てられる単筒式モデルにもテイン中国工場で作られたピストンロッドが使われているのだ。
組み合わせられるシェルケースも鉄パイプから自社工場内で加工。シェルケース表面にはネジが切られ、ここにブラケットやスプリングシートを回し入れていく。通常は金属表面を刃物で削り取ってネジ山にしていく。ところがテインでは金属表面を強力な力で挟み込んで金属を寄せるようにしてネジ山にしていく転造加工を採用している。
こうすることで削り取った鉄を捨てる必要がなくなりゴミを減らすことができる。さらに製造も速くなるなどメリットが大きく、近年この方法に切り替えたという。
パイプ表面を挟み込んで転造することで、ネジ山を作り上げていく
組み合わせられるブラケットは車種ごとのマウントが溶接されているが、こちらはすべて機械によって自動的に行なわれる。人間に比べてクオリティの均一化が図れるメリットがある。
そして、それらはすべて横浜工場と同じ粉体塗装が行なわれ、シェルケースにはフライパンと同じフッ素系の表面処理が行なわれる。この処理の耐久性には定評があり、雪国ではテインの車高調は融雪剤によるダメージが少なく、もっとも固着しにくいと言われている。
そして、内部パーツが組み立てられるのはクリーンルーム。しかも、ピストンバルブに組み合わせるシムはオートメーション化されたシステムで配置され、組み間違いも起きないのだ。
クリーンルーム内は手術室と同等の清浄度に管理されている。わずかなゴミが入り込むことで減衰力が設計通りに発生できなかったり、そういったものがオイル漏れの原因になることから厳密に管理されている。ここまで管理されたサスペンション組立工場は筆者も見たことも聞いたこともない。
■全数チェックで守るクオリティ
ストラット式はとくにブラケットの強度が重要。機械で安定したクオリティが出せるのは大きなメリット
完成後はすべての製品を減衰力テスターに掛けてチェックしている。全数チェックなのも見逃せない。
梱包時も最終的に重さで管理されていて、付属物の入れ忘れなどを発見できるようになっている。そういった厳密な管理の元、中国工場は24時間体制の2交代制で稼働して生産している。
そして、テインが目指すものは中国で安価に作ったサスペンションを日本で売りさばこうということではない。現在の為替レートの関係や、中国も徐々に人件費が高騰化していて、以前ほど安く作れるわけではないのだ。
テインは特許を取得したオリジナル粉体塗装で仕上げられる。耐久性の高さは雪国で厚い信頼を得ている
「我々は地産地消を念頭に掲げています。中国で仕入れた材料を使って、中国で製造し、中国国内で販売しています。現在は中国国内消費は製造の40%ですが、それを90%にまで引き上げたいと思っています。
現在中国は人件費が高騰していますが、それはすなわちこちらの方々が裕福になるということです。そうなければクルマをカスタマイズする人も増えていくので、むしろ僕らとしてはウエルカムなことです。」と藤本専務。
中国内で製造から消費まですれば現在の不安定な為替レートによる影響も少なくなる。地元では雇用が生まれ、ビジネスとして回っていく。経済的に成長すれば、チューニングという文化も広まっていく。そして、そこにはまた大きなマーケットができる。そういった大きなチューニング文化の普及という目標のもとに中国工場を設立しているのだ。
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みんなのコメント
最近じゃマッチョレーシングのデモカーや
C1最速のRに使われるくらい良くなった