スーパーGT2019
スバル STIの先端技術 決定版 vuol.29
スバルとSTIは2019年2月13日に2019年モータースポーツ活動計画を発表し、スーパーGTシリーズに出場する「BRZ GT300」チームは前年と同じチーム体制で臨むことを明らかにした。そして3月10日に富士スピードウェイで、多くのファンを前にして公開シェイクダウンテストを行なった。いよいよ2019年シーズンが開幕だ。そこで今回は渋谷真総監督に、2018年シーズンで見出された課題と、2019年の展望を語っていただいた。
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2018年シーズン序盤はブレーキが課題だった
編集部:いよいよ2019年シーズンが開幕しますが、BRZ GT300マシンはどのようになりましたか? 今シーズン用に新たにニューマシンを造るなどの検討はされたのでしょうか?
渋谷:チームとしてはマシンを変えようという案もありましたが、最終的には2018年のマシンをオーバーホールして、課題だったところを新たにつくり直すということにしました。編集部:去年の課題は多々あると思いますが?
渋谷:例えば、去年の仕様はブレーキのローターサイズアップを378mmから390mmにしただけだったのですが、前半戦でずいぶん手こずりました。シーズンに入ってからも、ブレーキ・コントロールが難しくなったとか、思い切り踏めないとかの問題がありました。テストで問題を潰して本番を迎える予定だったのですが、結局開幕戦の岡山に対策品などが間に合わせることができなかった反省があります。編集部:ブレーキ容量をアップしたのにうまくいかなかったのですか?
渋谷:そうです。容量アップで効きは良くなったのですが、踏力に対して制動力がリニアに出ず、それがドライバーに合わなかったわけです。そのためパッドなども変えたりしようとしたのですが、開幕戦に間に合わすことができなかったのです。結局2017年仕様に戻さざるをえなかった。第2戦の富士でようやく大径ローターにすることができました。そんなわけで、シーズン前のテストがブレーキ問題に費やされて、それ以外の開発、セッティングが進まなかったという点が反省点です。エンジンへの期待と難しさ
渋谷:JAF-GT300のターボ車輛に対して、これまでの吸気リストリクターでの出力制限から、ブースト圧による出力制限にルールが変更されました。これは、FIA-GT3車輛がブースト圧で出力を制限することに合わせた変更になります。ブースト圧は大気圧に対して決まりますので、2018年以降にBRZに設定されたブースト圧は、2017年の吸気リストリクター径を取り付けていた時のブースト圧と同じに設定されているので、今回のルール変更によるBRZの最大出力は、変わりません。おそらくGTAは、運営側としてルールを変えても他車輛との性能均衡を崩さないようにしているのだと思います。BRZは、このルール変更に伴って出力の優位性が出せなかったこともあり、我々も適応されたルールの中で、少しでも上位進出したいと考えました。その施策として、第2戦では500kmレースという長距離レースでもあり、給油時間を短縮し上位進出を狙って燃焼をリーン側にして運用しました。しかし、これが裏目に出てエンジンを破損させています。また、2018年は、トラブルが次々と重なり第3戦では、決勝中に電装部品の接触不良によるリタイア、その他タイでも同じように思いもよらないエンジントラブルを起こし、サーキットまで足を運んでくれたり、スバルオンチューブで最後まで見て応援して下さるスバルを愛してくれるファンの皆さんをがっかりさせて、本当に申し訳ないシーズンでした。そんな課題もあって、2019年の出発点は速さも重要ですがマシンの信頼性を高めるということを第一に、全戦をしっかり完走させることを重視した対策をしっかりとやっていきます。アドオンでは難しい空力性能
渋谷:2017年シーズンの課題として、水平対向エンジン、低重心のメリットを生かしてコーナリング速度は速いものの、ストレートで簡単に抜かれている状態だったわけです。ストレートを速くするには馬力アップか、空気抵抗を減らすしかない。馬力アップは難しいので、2018年は空気抵抗を減らそうということになりました。そしてダウンフォースが必要なサーキットでは空力パーツをアドオンして対応しようということにしたわけです。しかしダウンフォース強化用のパーツが思ったほど機能しなかったのです。そのためシーズン中に改良型のダウンフォース・パーツを試したのですがやっぱり十分ではなかった。そしてシーズン後半の3戦は特にダウンフォースが必要なサーキットのため、これまでで最大限のダウンフォースが得られるパーツをすべて付けて出場したのが菅生レースでした。2019年専門家による解析
渋谷:今シーズンにやることは何かを考えると、昨年の最後3戦の仕様をベースに、ダウンフォースを十分確保しながら空気抵抗をできるだけ抑えるということを、数値目標も置いて作り込んでいます。そんなに大胆ではないですが、細かいな部分の積み重ねですね。やはりある方向に振ってアドオンするとう方式はやはり難しいということがよくわかりました。それとシミュレーション通りにはいかないものだということです。編集部:実車風洞試験などもかなり実施しているんですよね?
渋谷:そうです。ただ風洞実験では路面のベルトは動くのですが、タイヤを回転させる方式ではないのでなかなか難しいです。本当は1週間とか風洞を使用できればいいのですが、それもスバルの風洞では難しい。ですから空力シミュレーション、走行テストを併用するわけです。編集部:GTレースでの空力性能はかなり重要だと思いますが、空力専門のスタッフはいるのですか?
渋谷:います。ただ、空力は相当な経験の積み重ねも必要なので、十分とはいえないので、その部分はF1の空力開発をしているような外注に委託して解析してもらっています。編集部:空力以外でもシミュレーション部門はかなり稼働しているんですよね?
渋谷:空力の解析、シミュレーションはかなり以前からやっています。特にサーキットのラップタイムをシミュレートするというのはここ2~3年です。国内のサーキットに関してはクルマのパラメーターを変えながらラップタイムをシミュレートし、車両のどのパラメーターがそのサーキットで感度が高いかなどがつかめますし、過去のデータからタイヤの負荷を計算して、あるサーキットのどのコーナーがタイヤの不可が一番大きくて摩耗をさせているかなどがわかります。だから負荷が大きいがラップタイムに影響が少ないコーナーは抑えて、ラップタイムに大きく影響するコーナーをがんばるということはわかってきています。こういう点をドライバーと共有できるようになっていることはすごく大きいと思います。シャシーでもメカニカルグリップを稼ぐ
渋谷:実は2018年も空力によるダウンフォースの問題だけでなく、シャシーのメカニカル・グリップに注目して、我々の知見とR&Dスポーツがレース経験で得た知見を合わせて、ジオメトリーなどを試しました。その中で、これはいいというところは見つかりました。やはり低速の舵角の大きいコーナーはメカニカルグリップが大事で、この辺も2018年の後半ではかなり煮詰まりました。またそれを我々が解析をすることで、最終的にラップタイムに対するシミュレーションもできるようになっています。だからそれをもとに実際に走行すると、ほぼ方向は合ってくるようになっています。したがいまして、空力とシャシーのメカニカルグリップに関しても昨年後半の仕様をベースに進化させているところです。編集部:ではシャシー面では大きな変更点はないということですね。
渋谷:大胆に変えるとまた時間が必要なので、現時点では今足りないものを直す、伸ばせるところを伸ばすという方向ですね。エンジン開発は燃費との戦いとなる
渋谷:そうです。ただまあ2.0Lエンジンで過給するといっても限界がありますので、昨年の経験から信頼・耐久性を高めるというプライオリティが最も高いです。編集部:エンジンの進化はどんな具合ですか?
渋谷:エンジンはやるべき事をやり尽くした感がありますので、先ずは信頼・耐久性を高めた上で、給油時間を少しでも短くするために燃費についてもやらざるを得ないですね。編集部:やはり高過給だと燃費が良くないわけですね?
渋谷:GT300クラスでは最悪じゃないでしょうか。同じクラス全体のピットイン時間を見てみると、やはり給油時間が圧倒的に長いんです。4秒から最大で8秒くらい、平均で6秒くらい長いです。これがドライバーにも大きな負担になりますので、少しでも楽にしてあげたいところです。実は昨シーズンも全戦平均の予選順位ではトップなんです。でもレースになるとガクッと落ちてしまう。ですからピットストップ時間で、給油時間の短縮と、タイヤ交換の時間を短くする必要があるわけです。編集部:タイヤ交換も毎回4本交換と、2本交換、あるいは無交換のチームとは大きな差になるわけですね。
渋谷:そうです。特定のチームは昨年もレース中は無交換で、これだけでも15秒ほどリードされる。タイヤ交換しても2本だけで、片や我々は4本交換で、給油時間も長いというハンディがあります。だからダンロップにもお願いして2019年仕様を開発してもらっています。やはり今のレースタイヤのトレンドは、予選でのピークグリップも高く、レースで摩耗しても速い、という流れになっているというのが実感ですね。STIチームは、いよいよ3月16日~17日に行なわれる岡山国際サーキットの公式テストに臨む。どんなシーズンになるのか期待したい。
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