■トヨタのスポーツ4WDは「GT-FOUR」から「GR-FOUR」に進化
2024年2月22日、日経平均株価がバブル期の1989年に付けた史上最高値の3万8915円を上回りました。
そんなバブル期の象徴のひとつが「スキーブーム」でした。
関越道はスキーキャリアを付けたクルマで大渋滞、スキー場は見渡す限り人・ヒト・ひとで、リフトやゴンドラは長蛇の列、レストハウスはパンク状態と、今では考えられない状況でした。
その火付け役となったのが、1987(昭和62)年に公開された映画「私をスキーに連れてって」です。
【画像】「えっ…!」雪道でも全開! GRヤリス&GRカローラの楽しみ方を画像で見る!
内容は、池上優(原田知世)と矢野文男(三上博史)がゲレンデで出会いを果たすと言う典型的なラブストーリーですが、それを見た当時の若者は、そんな出会いを求めてスキー場に詰めかけたそうです。
劇中には様々な流行スポットやファッションが散りばめられていましたが、その中でも注目だったのは劇中車でした。
中でも矢野の中学時代からのスキー仲間である真理子(原田貴和子)とヒロコ(高橋ひとみ)の愛車として登場したトヨタ「セリカGT-FOUR(ST165)」は、ユーミンの「Blizzard」の曲と共に、劇中で4WDのメリットを活かした走りを何度も見せつけ、主役(矢野)の愛車だったトヨタ「カローラII GPターボ」より記憶に残っている人が多いはずです。
あれから37年、トヨタのスポーツ4WDは「GT-FOUR」から「GR-FOUR」に進化。
その雪上性能を実感するために、苗場プリンスホテル近郊の特設コースで試乗会が行なわれました。
試乗会の拠点には「私をスキーに連れてって」の劇用車と同じコーディネイトが程されたセリカGT-FOURの展示、更にユーミンの「Blizzard」の曲が流れるなど、まさに時を超えたコラボレーションです。
今シーズンは暖冬のため雪が少なく、前日まで開催できるか心配でしたが、当日は打って変わって極寒で強風のおまけつき。
試乗車は東京オートサロン2024で初公開された進化型GRヤリス(6速MTとDAT)とGRカローラの3台です。
タイヤは共にダンロップのスタッドレス(WINER MAXX WM03)を装着。
特設コースは低中速コーナーで構成される1周300~400mのレイアウトですが、コース幅は車幅×2程度でエスケープはほぼゼロ。周りは雪で覆われているもコースアウトは禁物。
まずは進化型GRヤリスのMTモデルからです。制御系はVSC:OFF、4WDモード:TRACK(60:40~30:70に可変)、ドライブモード:NORMALで走ります。
走り始めてすぐに感じたのは「乗りやすい!!」でした。具体的には「安心感」と「懐の深さ」が全然違います。
そのひとつがフラットなインパネとそれに合わせて最適化されたシートポジションです。
雪道は道と壁との境目が見分けにくい上に路面の凹凸も見辛いため直接視界が求められますが、進化型は視界が広がった事でドライビングがしやすいのです。
質感やデザインはもう少し頑張ってほしい部分はあるも、機能としては素晴らしい。
走りの部分はどうでしょうか。低μ路だと現行モデルは操舵してからノーズがインを向くまで我慢(=待ち)が必要でしたが、進化型はそれが確実に少ないのです。
また、スライドした時のコントロール性もアップしています。
現行モデルは良く言えば切れ味鋭い、悪く言えばピーキーな挙動でしたが、進化型は切れ味はそのままですが挙動変化に過度な所がなくなり、結果としてクルマの動きがまるで“スロー”に感じてしまうくらい扱いやすくなっています。
この辺りは車体剛性/締結剛性アップした車体や可変式の前後トルク配分コントロール、更にはサスペンションセットを含めた総合力のより、4つのタイヤのグリップ力をより上手に使えるようになった結果と言えるでしょう。
その結果、ドライバーの操作次第でムダを削いだタイムを出す走りも、大胆に振り回して楽しむ走りも可能。つまり、二面性の走りを誰でも楽にできるでしょう。
ちなみに腕に自信がある人ならば、4WDモードはGRAVEL(53:47)がお勧めです。
TRACKよりも前荷重を意識してコーナーに進入する必要はありますが、そこからのアクセルコントロールによりフロントが上手に引っ張りながら旋回するので、結果的にムダな挙動を抑えた“速い”コーナリングが可能でした。
そういう意味では、TRACKはクルマ任せに走れる「AUTOモード」、GRAVELはドライバーにも委ねる「PROモード」と言ってもいいのかもしれません。
続いて、進化型GRヤリスのDATモデルに乗り換えます。
制御系はVSC:OFF、4WDモード:TRACK(60:40~30:70に可変)、ドライブモード:SPORTで走ります。
今回もサーキット/ダート試乗と同じく、パドルは使用せずDレンジでの走行を行ないました。
今回のコースはタイトターンも多いため、アンダー消しやコーナリングのキッカケにサイドブレーキもフル活用しました。
MTだとシフトチェンジもあるのでとにかく操作が忙しい上に、それに気を取られてステア操作が雑になり何度かミスをしましたが、DATはシフト操作から解放されることで、“イージー”ドライビングではなく、“正確”なドライビングが可能になった事に驚きです。
MTと同じ速度、同じ操作を心がけて走らせてみましたが、確実にDATのほうが「速く」、「綺麗な挙動」、「ドライビングミスが少ない」走りが可能でした。
多くのクルマ好きは「2ペダルは走りの楽しさをスポイルする」と言うでしょうが、低μ路でのDATはむしろ「クルマとの対話」をより濃厚にしてくれるので、走りの楽しさはむしろ増しています。
ただ、今回のコースだと前後左右Gは低く、ブレ―キも制動と言うより荷重変化のために使う程度だったため、2→1速のシフトダウンは制御側が悩む所もありましたが、逆に272ps/370Nmから304ps/400Nmに出力アップしたエンジンの低速トルクの“粘り強さ”が実感できたので、良しとしましょう。
■GRカローラはどんな感じ? まさかのタイムアタックでGRヤリスの凄さをさらに体感!?
最後にGRカローラに乗ります。
制御系はVSC:OFF、4WDモード:TRACK(50:50)、ドライブモード:NORMALで走ります。
GRヤリスと比べて200kg重いので、GRヤリスと同じ304ps/400Nmのパフォーマンスながらも穏やかな特性ですが、むしろ今回の低μ路では扱いやすさを感じたくらいです。
ハンドリングは重さを基本素性の良さ(ロングホイールベース、ワイドトレッド、GA-Cプラットフォームのスタビリティ)でカバーしています。
タイヤのグリップに頼れないのでコーナー進入時は注意が必要ですが、シッカリとノーズが入ってしまえば、クルマの動きが穏やかで挙動変化が予測しやすいので、GRヤリス以上にコントローラブル。
その上、スイートポットも広いので、ミスを上手にカバーしてくれるのも嬉しいポイントです。
ただ、勘違いしてほしくないのはGRカローラがGRヤリスに対してダル/鈍感な走りなのではなく、クルマの動きに僅かな間とタメができたようなイメージで、穏やかな挙動が逆にドライビングの手の内感を生んでいると感じました。
そんなキャラクターだからこそ、DATが欲しいと感じてしまったのも事実です。
試乗会の最後に参加者全員で氷に近いカチカチの圧雪路でタイムトライアルを実施。
車両は進化型GRヤリスのDATがベースのラリー開発車両(縦引きサイドブレーキ付)とGRカローラのラリー開発車両(今後の改良に向けた試作品が随所に装着)の2台のどちらかを選択(共にダンロップの競技用スタッドレスSP SPORT 56-Rを履く)。
コースは単純なパイロンスラロームですが、意図的なのか偶然なのかパイロンの位置が微妙バラバラ(笑)。
余興と言いながらも、勝負事になるとみんな「負け嫌い」になるのは自動車メディアの常。
誰もが顔は笑っていながらも真剣モードです。筆者は進化型GRヤリスを選択。制御系はVSC:OFF、4WDモード:TRACK(60:40~30:70に可変)、ドライブモード:SPORTを選択。
DATはマニュアルモードの2速固定かDレンジお任せで悩みましたが、クルマを信じて後者を選択。結果は、一番時計を刻んで優勝(厳密には二人同タイム)。
優勝賞品は、進化型GRヤリスを期待しましたが、皆さんの温かい拍手でした。
タイムを出すためのポイントは、「駆動で曲がる」、「派手な挙動は出さない」、「でも、時には大胆に」でした。
とは言え、お手本の勝田範彦選手とは1.69秒の差だったので、まだまだ修行は足りないなと。
※ ※ ※
すでに進化型GRヤリスへの買い替えを決めた筆者ですが、今回の試乗で“道を選ばず楽しめる”スポーツ4WDをより実感できました。
ちなみに「私をスキーに連れてって」でのトヨタ・セリカGT-FOURは、道なき道を走る→ジャンプ→スキー場を滑降→最後はロールオーバーで大破となってしまいますが、GRヤリスは「壊しては直し」を繰り返して鍛えられてきたので、大丈夫でしょう。
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