自動車メーカーに限らず、多くの企業にとって重要なのは「利益」だ。そして同程度に大切にすべきものは「顧客」である。顧客のことを一切無視して利益を上げるなんて企業は今日はそうそうない。
しかしやや利益優先気味な企業はなくもない。そこでギモン。どの自動車メーカーが顧客をもっとも大事にしているのか? ジャーナリスト渡辺陽一郎氏に聞いてみました。
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文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■新車開発やCMから見える顧客優先度
自動車メーカーは、すべて自動車を始めとする商品の開発/製造/販売で生計を立てている。
販売する相手はユーザーだから、当然にユーザーのことを大切に考える。ユーザーを無視したら、メーカーは存在できない。
ところが最近は「ユーザーのことを考えているのか!?」と思えるメーカーもある。背景には2つの事情がある。
まず国内市場が日本のメーカーにとって、優先順位の低い市場になったことだ。ダイハツ以外は世界生産台数の80%以上を海外で売り、日本は20%以下になる。
そのためにメーカーによっては1年間に1車種も新型車が登場しないことがある。この場合、正確には「海外ではなく日本のユーザーのことを考えているのか!?」だが、国内にいる限りユーザー不在と感じる。
2つ目は「販売台数を重視するのか、それとも購入後にユーザーが感じる安全性、利便性、経済性などを重視するのか」という話だ。
どのクルマでも安全性や利便性を考えるが、例えば外観をカッコ良く見せるために後方視界を犠牲にしたり、ボディをむやみに拡大するのは、ユーザーの安全性や利便性(取りまわし性)を軽く見た結果だ。
昔話だが、1994年に発売された日産2代目セフィーロは、運転席エアバッグを全車に標準装着しながら、4輪ABSはオプションだった。
まず事故を避ける機能で作動頻度の高い4輪ABSを標準装着して、その上で事故が発生した時に作動するエアバッグを加えるべきだった。2代目セフィーロはこの順序が逆であった。
開発者に理由を尋ねると「考え方はいろいろあるが、お客様は4輪ABSよりもエアバッグを欲しがるから」と返答された。
オーディオやサンルーフのような快適装備は、ユーザーが好んで使う装備だから、自由に選ばせていい。
ところが安全装備は好んで使う装備ではない。目的は乗員の安全確保だ。
従ってエアバッグと4輪ABSの選択も、安全確保の考え方に基づいた順序、つまり自動車造りのプロとしての判断で行うべきだった。当時の日産はそこを間違えた。
さらにいえば、当時のTV・CMには日産に限らずエアバッグの映像がいくつか使われたが、ユーザーに誤った認識を植え付けた。
エアバッグの展開をスローモーション映像で表現したから、ゆっくりと膨張して、乗員を優しく受け止めるように見えてしまった。
実際は瞬時に発生する爆発だが、CM表現はまったく違った。このようなCMを放送したことも、販売台数を重視した結果だ。
ユーザーが正しい商品知識を身に付けることは考えていない。同様のCM表現は20年以上を経過した今でも続き、日産は衝突被害軽減ブレーキを「自動ブレーキ」、運転支援機能を「自動運転」とアピールしている。
■イメージどおりなスバルの優等生ぶり
そして国内市場がメーカーにとってオマケになり、海外の売れ行きを重視するようになって、特にセダンのクルマ造りが変わった。
セダンは海外向けの商品になり、ボディが拡大されて価格も高まった。例えば現行レクサスLSでは、先代型のユーザーから「ここまでボディが大きくなると、車庫に収まらない」という苦情まで聞かれる。
このように見ると、すべてを顧客優先で行っているメーカーはないだろう。各社ともに良し悪しを抱える。
その中で優等生に見えるのがスバルだ。スバルの商品では安全性をセールスポイントに掲げ、車両の周囲に潜む危険の早期発見が大切だと考えている。
そこでスバル車は全般的に視界がよい。現行インプレッサは先代型に比べると後方視界が悪化したが、それでもマツダアクセラ、ボルボV40などに比べると優れている。
フォレスターなども含めて、スバル車の外観は先代型に比べると変化が乏しく、いまひとつ目立ち度に欠ける。
その意味では販売面で不利ともいえるが、視界が比較的いいから危険を発見しやすく、車庫入れや縦列駐車も行いやすい。
これらは購入後に気付くメリットで、ユーザーのことを考えている商品開発だろう。
そしてスバルは自動車メーカーとしては規模が大きくないから、商品の種類も増やせない。1つの車種を長い間にわたって堅調に売り続ける必要がある。
エンジンやプラットフォームも増やせず、OEMを除く全車に水平対向エンジンを搭載した。
この2つの事情に基づいて、スバルは改良を頻繁に行う。共通化しているから改良を行いやすく、それをすることで、フルモデルチェンジから時間が経過しても売れ行きを落とさずに済む。
この生き残り対策が、ユーザーからは最後まで手を抜かないメーカーだと好感を持たれる。前期型を買った人が後期型に乗り替えても、進化していることが分かって満足度を高める。
車両のサイズや価格も同様だ。レガシィは現行型でボディを拡大したが、ほかの車種は、インプレッサ、WRX、フォレスターなどがミドルサイズに収まる。
世界的に売りやすい大きさだから、このサイズにしたが、日本の道路環境にも適するから歓迎される。
以上のようにスバルでは、販売戦略でやっていることが、ユーザーのことを考えるクルマ造りに繋がった。
結果的にではあるが、購入後に気付く視界の良さなどは優れたクルマ造りの見本だ。逆に購入後に縦列駐車をしようとして、後方視界や小回り性能の悪さに気付いた時などは、顧客満足度を大きく下げてしまう。
スバルにも悪いところはあり、OEMを除くと5ナンバー車は選べない。フルモデルチェンジの度に、全幅が少しずつ広がるのも気になる。
ディーラーの店舗数は約460店舗だから、トヨタの約4900店舗、ホンダの約2200店舗、日産の約2100店舗に比べると圧倒的に少ない。
従ってユーザーによってはスバル車を購入しにくい。これらの問題を抱えながらも、スバルは総じて優等生だ。
■軽自動車メーカーはいつでも顧客優先だ
軽自動車とコンパクトカーを主力に扱うスズキとダイハツも、ユーザーのことを大切に考える印象が強い。
特に日本は自動車関連の税金が高く、公共の交通機関が未発達な地域では、軽自動車が日常生活を支えるライフラインになる。
今は高齢者が増えて、古い軽自動車を通院や買い物に使う。だから軽自動車関連税の値上げは許されず、薄利多売の儲からない軽自動車を支えるメーカーと販売会社は、庶民の味方として好意的な見方をされる。
しかも今の軽自動車は安全装備も先進的で、機能が幅広く充実する。ホンダN-BOX、ダイハツタント、スズキジムニーなど優れた商品が多い。
単純に考えて、儲からない軽自動車を手掛けるメーカーは利益優先とはいえず、少なくとも軽自動車の製造や販売に関しては、日本のユーザーのことを考えていると判断される。
トヨタは世界有数の大企業だが、国内市場を重視した3列シートミニバンも積極的に手掛けている。プリウスはグローバルカーとされるが、海外ではハイブリッドを売りにくく、世界販売台数の53%を日本国内で売る。
2位の北米は31%だ。先に述べた合計約4900店舗に達する販売網を含めて、トヨタの利益優先は、ハイブリッドの開発なども含めて、結果的にではあるが日本優先に繋がっている。
結論をいえば、顧客優先か否かは大した話ではない。大切なのは、日本で儲けようと目論んでいることだ。
先に述べた安全面でマイナスになることを除けば、利益優先、儲け主義、大いに結構! 日本でしっかり稼いでいただきたい。それが日本のユーザーのメリットになる。
一番ダメなのは、日本で手を抜いて、何もやらないことだ!
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