この記事をまとめると
■3代目へとモデルチェンジしたルノー・カングーの日本仕様が発売された
新型カングーがついにお披露目! 観音開きに黒樹脂バンパーなど「日本だけ」の「カワイイ仕様」が盛りだくさん
■自動車ライターの嶋田智之さんが3代目カングーを見て触れて乗った
■試乗インプレッションの前に3代目カングー見て触れた印象をリポートする
16年ぶりの新型は歴代最高といっていいほどの仕上がり
この日本において累計でもっとも売れたフランス車は、ルノー・カングーなんじゃないかと思う。何せ2002年から導入された初代、フルモデルチェンジが行われて2009年に国内販売された2代目を合わせて、3万台を越えるカングーがわが国にもたらされてるのだ。
カングーの人気が高まりはじめたのは初代の頃だが、理由は明白。人も荷物もゆとりを持って乗せられる便利な実用車でありながら、どこか洒落たライフスタイルの香りが漂うクルマであったこと。変にオラついてたり、生活臭がプンプン漂ってたりはしない。それに石畳と歪んだ路面で鍛えられたから乗り心地もいいし、腰が粘り強いからスポーツモデルでもないのによく曲がる。商用車っぽくてワル目立ちしないのにどこか華があって、ついでにいうなら巷のアホらしい自動車ヒエラルキーと無縁でもある。“フランス生まれ”のいいところが、そのまま背高な車体に詰め込まれたようなクルマだったのだ。
2代目は横幅が155mm広がって全体的に大きく見えるようになったことから“デカングー”などと呼ばれてるけど、基本的には初代の持っていたテイストと魅力をほぼそのまま受け継いだモデルといっていいだろう。この2代目でも人気に陰りが出なかったどころか、モデル末期が近づいても販売は好調なまま。カングー・ジャンボリーという年に1回のイベントにはいつしか1万5000台を軽々超えるカングーが集うようになり、ユーザーたちが思い思いの自由な発想でカングーを楽しむ日本での愛され方は、フランス本国の関係者に大きな刺激を与えたりもした。
そして、3代目である。昨年の秋にお披露目されてこの2月に日本仕様が正式発表となったのだが、じつは本国で2020年にフルモデルチェンジしたときにファンの間ではちょっとばかり物議を醸してた。これまでのどこかニヤニヤしたようなちょっとトボケた雰囲気の顔つきが、何だか少しばかり引き締まった大人びた表情に変わっちゃったこと。そして2代目のときに拡大されたボディサイズが、またしても大きくなっちゃったこと。そんなところから“らしさ”が薄らいだんじゃないか? なんて懸念する声が多々、だったのだ。
けれど実車を眺め、触れ、乗ってきたいまなら、ハッキリいえる。だいじょーぶ、と。3代目カングーも、紛うことなきルノー・カングーだった。しかも歴代最高といっていいほどの出来映えのよさ、だ。
……と結論を急いじゃうのは僕の悪いクセ。その前に新型カングーの日本仕様について軽く説明しておく必要があるだろう。わが国で販売されるカングーには、エクステリアの仕様がふたつ用意されている。バンパーがボディと同色にペイントされる、いかにも乗用車然としたプレミアムな感じの仕様。もうひとつは、フランスの働くクルマっぽい雰囲気が日本では人気のブラックバンパー仕様。
そして“カングーといえば”のリヤのダブルバックドアは、3代目カングーにも変わらず備わっている。ちなみにブラックバンパーにダブルバックドアの乗用カングーは、ほかの国では販売されない日本専用モデル。日本のファンがカングーに何を望んでいるか、どこがお気に入りなのか、開発陣はちゃんと理解してるのだ。ルノーにとって、とりわけカングーに関わってるメンバーにとって、日本のユーザーというのはそれくらい大切な存在だという証でもある。
16年ぶりのフルモデルチェンジだからして、当たり前のようにプラットフォームも刷新されている。採用されているのは、ルノー/日産/三菱のアライアンスによるCMF-C/F。あわせてフロントのメンバーやリヤのトーションビームといった構成パーツを新規開発したり上級車種にあたるエスパスのものを使ったりなどして、サスペンションも一新。商用車としてガンガン使われることが前提という側面もあるので、骨格や足腰などについてはこれまで以上にタフな作りとされていて、乗用車としてのポテンシャルと商用車としてのポテンシャルの両方を引き上げるかたちで開発が進められたという。
大きくなったボディはほとんど気にする必要なし
さてさて、スタイリングはどうか。うーむ、……これはやっぱりカングーだ。顔つきはたしかに少々キリッとしたが、不思議なもので、最初に写真で見たときの精悍な印象は立体になるとさほど強くは感じられず、これまでのカングーの安穏とした優しげな表情を受け継いでることのほうに意識がいきがちになる。最新のルノー顔であることに間違いはないものの、眺め続けていると「どこからどうみてもカングーでしょ」という気持ちがどんどん強くなる。上手くやったな、と思う。
ファンたちの懸念材料であったサイズはどうだろう? いや、間違いなく大きくはなっている。全長4490mm、全幅1880mm、全高1810mmm。これは2代目より210mm長く、30mm幅広いという数値。ホイールベースは2715mmで、これは15mm長い計算だ。こうして文字で見ると「ずいぶん大きくなったなぁ……」と思うのだけど、実際に走っているときにはあまり意識させられることはなかった。
裏路地のようなところやタイトめなワインディングロードも走ったのだけど、実感としては駐車スペースの関係でシビアになる場面はあるだろうものの運転感覚的としては2代目との大きな違いは感じられない、といったところ。カングーならではの四隅の見切りのよさを受け継いでることが大きいのかもしれない。
そのサイズ拡大は、当然ながらカングーのユーティリティを底上げするというメリットを生み出している。タイヤハウスのでっぱりがないラゲッジスペースは従来から使いやすさに定評があったのだけど、新型では荷室の前後長が110mm長くなり、容量は通常時で775リットル、リヤシートを倒せば2800リットルと、それぞれ115リットル、132リットルも広くなっている。
リヤシートに座ってみると、とりわけ膝まわりのスペースにゆとりが感じられ、居住性のよさを実感する。MPVとしての正常進化、ということができるだろう。
それならば肝心の走りはどうなのか。そこにカングーらしさはあるのか。
このまま続けると絵巻物のように長くなってしまいそうなので、ドライバーズシートに座ってから感じたことは『つづく』とさせていただきたい。
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