売れないと「いいクルマ」と判断されないジレンマに苦しむモデル
好調に売れるクルマは、多くのユーザーが購入している以上、優れた商品と判断できる。難しいのは売れ行きが伸び悩む車種だ。良いクルマなのに、流行からはずれて販売が低迷する場合もある。近年ではスポーツカーがその代表で、機能やデザインがいかに優れていても、1か月に2000台以上を販売するのは困難だ。 そこで良い商品なのに売れ行きを伸ばせない「2番手のクルマ」を取り上げたい。
負け組からの大逆転! フルモデルチェンジで盛り返したクルマ3選
1)SUV:スバル・フォレスター
SUVはスバルフォレスターだ。SUVの販売1位は、時期に応じてエクストレイル、ヴェゼル、C-HRなどが入れ替わり、今はRAV4になる。それなのにフォレスターは常に2位以下だ。
売れない理由は2つあり、まずは雰囲気がSUVでは地味なこと。フロントマスクの迫力が乏しく、ボディサイドのデザインも平凡だ。2つ目は販売店舗数。C-HRはトヨタ全店の4900店舗が扱い、日産のエクストレイルやホンダのヴェゼルも2000店舗以上だが、スバルはわずか460店舗だ。トヨタの10%以下にとどまる。
その代わりフォレスターには優れた点も多い。まず外観が地味な代わりに視界が良い。C-HRは外観が派手でも後方視界は劣悪だが、フォレスターなら車庫入れもしやすい。
水平対向エンジンの搭載で重心が下がり、走行安定性も良い。最低地上高は220mmだから悪路のデコボコを乗り越えやすく、その割に床が低いから、前後席とも居住性が快適だ。乗降性も優れ、メリットが多い。
2)ステーションワゴン:ホンダ・シャトル
ステーションワゴンの需要は、日本ではミニバンに押され、北米ではSUVに奪われている。その結果、車種の数が大幅に減った。この中で堅調に売れているのはカローラフィールダーで、ライバル車のホンダシャトルは、同じく5ナンバー車なのに伸び悩む。
シャトルが苦戦する理由は、ワゴンらしさが乏しいからだ。ワゴンのボディは、もともとセダンの天井を後方へ長く伸ばし、トランクスペースの部分まで荷室に取り込んだものだ。そのためにルーフが低めで外観もスマートに仕上がり、カローラフィールダーの魅力もそこにある。
しかしシャトルは、コンパクトカーのフィットをベースに開発された。しかもホイールベース(前輪と後輪の間隔)はフィットと同じで、全長は450mm伸ばしたから、前後のオーバーハング(ホイールからボディが前後に張り出した部分)が長い。全高は1545mmと高めで、ボンネットは前方に向けて傾斜するから、外観がズングリして見える。あまりカッコイイとはいえず、ワゴンらしさを妨げた。
その代わり荷室は広い。床が低く、荷室長はフィットを約300mm上まわる。後席の広さはフィットと同等だが、空間効率が優れているから、足もと空間の前後寸法はミドルサイズワゴンのスバル・レヴォーグやマツダ・マツダ6よりも長い。外観のカッコよさはいまひとつだが、4名で乗車したり、荷物を積むときの実用性は抜群だ。
クルマの本質「走り」はいいのに売れない悲劇
3)ミニバン:ホンダ・オデッセイ
ミニバンで絶好調に売れるのは、Lサイズではトヨタのアルファード&ヴェルファイアだ。2019年1~6月の登録台数を1か月平均にすると、アルファードは5878台、ヴェルファイアは3460台になる。ライバル車のホンダ・オデッセイは1315台だから圧倒的に少ない。
オデッセイが売れない理由は、全高が1685mm(アブソルート)で、アルファード&ヴェルファイアの1935mmに比べると250mmも低いからだ。オデッセイは外観の存在感が弱く、インパネなど内装の豪華さでも見劣りする。そこで販売合戦に負けた。
しかしミニバンの機能はオデッセイが勝る。オデッセイの全高は250mm低いが、床の位置も下げたから室内高は75mmしか違わない。乗降性も良い。
しかも3列目に座ると、アルファード&ヴェルファイアでは床と座面の間隔が不足して足を前側に投げ出すが、オデッセイなら自然な姿勢で座れる。従って6名乗車時の居住性もオデッセイが勝る。
さらに低重心だから走行安定性も良好だ。見栄で選ぶならアルファード&ヴェルファイアだが、機能ならオデッセイに断然注目したい。
4)コンパクトカー:マツダ・マツダ2
コンパクトカーの売れ筋は、e-POWERの日産ノート、トヨタ・アクア、ホンダ・フィットなどだ。マツダ・マツダ2は上位に入らない。
その理由は実用性が低いからだ。ノートやフィットに比べると車内が狭い。とくにフィットは、燃料タンクを前席の下に搭載して荷室容量と後席の足もと空間を広げたから、マツダ2はファミリーカーの機能で大幅に見劣りする。今のマツダのブランドイメージがスポーティ指向になり、コンパクトカーに合わなくなったことも影響した。
その代わり走行性能はマツダ2が優れている。低重心で安定性が良く、スポーティな走りを味わえる。クリーンディーゼルターボは駆動力が高く、ガソリンエンジンは排気量が1.5リッターに拡大され、吹き上がりが自然な印象で扱いやすい。クルマ好きに適する貴重なコンパクトカーとなった。
5)軽自動車:スズキ・ワゴンR
今の軽自動車は、ホンダN-BOX、スズキ・スペーシア、ダイハツ・タントなど、全高が1700mmを上まわるスライドドアを装着した車種が人気だ。
しかし1995年から2010年まで、軽自動車の年間最多販売車種は、ほぼ一貫してスズキ・ワゴンRだった。流れが変わったのは2011年で、先代N-BOXが広い室内とミニバン的なシートアレンジで注目され、軽自動車の主力になっている。N-BOXに比べると、ワゴンRは旧態依然とした印象に見えてしまう。2014年には先代ワゴンRと基本部分を共通化するハスラーも発売され、ワゴンRの需要はさらに奪われた。
しかしワゴンRでも4名乗車は十分に快適で、荷室も広い。シートアレンジはスペーシア並みに多彩だ。
そしてスペーシアなどに比べると、天井が低くボディも軽いから、走行性能や燃費も優れている。価格は割安だ。多くのユーザーにとって、全高が1600~1700mmのワゴンRは合理的な選択肢だろう。
同様のことがワゴンRのライバル車となるホンダN-WGN、ダイハツ・ムーヴ、日産デイズにも当てはまる。まずこのタイプの軽自動車を検討して、車内が狭かったりスライドドアが欲しいときに、N-BOX、スペーシア、タントを選ぶと良いだろう。
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