操縦に気が抜けないロードローラー
いま筆者が乗っているのは、6km/hほどで走るロードローラー。蒸気機関がパワートレインだ。御年97歳。縁石や対向車へ触れないように、操縦には気が抜けない。
【画像】1925年式の蒸気機関ロードローラー マーシャルSクラス 同時代のクラシックと比較 全108枚
そんな最中、英国最速のジェットエンジン・マシン、スラストSSCを運転したアンディ・グリーン氏のことを思い浮かべてしまった。彼はリアタイヤで操舵するマシンを安定させるため、新しいタイプのステアリングが必要だと口にしていた。
それが、このマシンにも当てはまる。操舵用のアームが長く、動きが鋭い。直進状態を保つことが難しい。わんぱくな機関車トーマスが、線路の縛りから開放されたようだともいえる。
必死の様相の筆者を横目に、このロードローラーを管理するマーティン・スリーフォード氏が燃焼室の様子を確認する。高温を保たなければ、充分に進まない。
唯一無二といえる運転席だろう。世界のモビリティは電動化へまっしぐらだが、目の前では石炭を燃やしながら水蒸気が生み出されている。マーティンのような経験者が、リタイヤ後に伝統的な技術の維持に貢献することで、動く状態が保たれている。
グレートブリテン島の南部、スワネージには蒸気機関車を保存するための鉄道が約10km維持されている。ここだけで、約1400万ポンド(約23億2400万円)の地域経済への効果があると考えられている。古い技術は、現在でもしっかり役に立っている。
1950年代末までは現役に活躍していた
この蒸気機関ロードローラーのモデル名は、マーシャル社のSクラス。以前はグレートブリテン島東部のリンカンシャー州が所有しており、1950年代末までは現役で地元の道路の敷設に活躍していたらしい。
その頃、すでにジェットエンジンで飛行機はマッハを超えるスピードを実現していた。その下で、このSクラスは石炭を燃やしながら地面を平らに均していたのだ。
当時はコンバーチブルと呼ばれていたそうだが、それはフロントガラスもない吹きさらしだからではない。フロントローラー・セクションが丸ごと外れて、別のユニットに交換できるためだという。2つの役目を果たすことができた。
現在のオーナーはマーティンだが、それ以前はちょっとしたコレクターだったロン・ヒュー氏の手元にあった。実は、その人物は筆者の祖父に当たる。
面白いことに、マーティンのお爺さんも蒸気機関ロードローラーをメンテナンスしていたという。血は争えないのだろう。近年まで農場内の道を維持するため、活躍してきた。現在は英国各地で開かれる蒸気機関のイベントへ参加し、勇姿を披露している。
マーティンは、東部のボストンからリンカーンまでの約60kmを、Sクラスで3日間を掛けて往復した経験もある。牽引用のローラーを購入し、つないで帰ってきたそうだ。
蒸気機関を動かすまでに数時間の準備が必要
ここで、簡単にこのSクラスのパワートレインをご紹介しよう。蒸気機関だから、石炭を燃焼室で燃やす。28本のパイプを熱して、タンクからボイラー内に流れてくる水を熱する。水の量は623Lあり、発生した蒸気で1本の大きなシリンダーを動かす。
ピストンはクランクシャフトを介して、前後に2速づつのマニュアル・トランスミッションへ繋がっている。ギアを選べば走り出せる。構造はシンプルといっていい。
しかし、動かすまでの準備は遥かに多い。まずは掃除から始まる。28本のチューブをブラシできれいにし始めたのが午前9時。ススを取ることで、水への熱伝導を良くする必要がある。
9時30分に掃除が終了。その頃、同僚のマット・プライヤーは燃焼室に溜まった燃え残りの炭をトレイに流し込んでいた。彼は技術に精通しており、この手の作業にうってつけだ。
9時45分に火入れ。燃焼剤とボロ布、細かく刻んだペレットが燃焼室へ投げ込まれる。充分に火が回るまで石炭は燃やせない。
マーティンは、前日に風向きを考えてSクラスを止める向きを調整していた。火入れの時に風が燃焼室へ吹き込むことで、効率よく炎が回るためだ。
石炭を燃やし、水温が充分に上昇したのは11時過ぎ。蒸気機関を動かすまでに、数時間の準備が必要になる。昔の方が良かったと、安易には郷愁に浸れない。
30秒前の操作が今の瞬間に影響を及ぼす
マットが、運転席で1速からシフトアップをする。マーティンと一緒に。ゆっくりロードローラーが道を進む。スピードは、フォトグラファーが歩いて追いつけるほど。筆者の頑張りを画像に残してくれる。
20分ほど経過し、約1.5km進んだところで筆者が操縦する番になった。歩みが遅いことへ改めて気付くが、運転に必要な集中力はレーシングカー並みかもしれない。
そもそもの問題は、約6km/hという速さ。ステアリングホイールは、巨大なチェーンを介してフロント側のローラーに繋がっている。周囲の状況から回しすぎたと自覚した時は、既に手遅れ。望まない方向へ進み始めている。
予測が極めて大切になる。30秒前の操作が、今の瞬間に影響しているといっていい。
運転席からの視界は非常に悪い。ランボルギーニ・カウンタックでバックする時のように。ローラーの端と、フライホイールやアクスルの隙間から、路面との位置関係を確認することになる。
フロントローラーの向きでステアリングホイールを回す判断はできない。幅が広く大きすぎ、どちらに向いているのか理解できない。疲れて一瞬気を抜いたら、思いも寄らない方向へ進んでしまった。
スロットル操作はハンドルレバーで行うが、これは放置状態で大丈夫。マーティンがスピードに気を配りながら、所定の位置で操ってくれている。スピードは遅いものの、ドライバーへの要求はかなり多い。
時代を超えた機械としての美しさ
単気筒のピストンが前後へ動く音に、石炭が燃える熱、ボイラーやグリス、オイルが発する臭い。回転する丸出しのギア。五感に様々な刺激が伝わる。過多に思えるほど。これほどメカニズムを直接的に感じ取れる乗り物は、間違いなく限られる。
時間の経過とともに、操縦には慣れることができた。ところが、燃焼室のことを忘れていた。蒸気が弱くなっている。現役当時は、操縦者が2名一緒だったことも理解できる。
見た目は至ってノスタルジック。マーシャルSクラスで最大の特徴だろう。クルマ好きでなくても、近寄って観察したくなるはず。単に古いというだけではない。時代を超えた、機械としての美しさが存在していると思う。
動かない状態とは異なり、実際に走る蒸気機関のロードローラーは、強烈な印象を与えてくれる。筆者の祖父もマーティンのお爺さんも、天寿をまっとうしようとしていた時、最後に目にしたいと考えた乗り物はマーシャルSクラスだった。
お葬式でも使用された。新しいバッテリーEVが、そんな存在になるとは考えにくいなと、顔をススで汚しながら感じ入った体験だった。
マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)のスペック
英国価格:5万ポンド(約830万円/現在)
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:6.4km/h
0-100km/h加速:−
航続距離:16km
CO2排出量:−
車両重量:1万2750kg
パワートレイン:シングルピストン蒸気機関
使用燃料:石炭
最高出力:5ps
最大トルク:−
ギアボックス:2速マニュアル
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