近頃はクロスオーバーSUV人気がすっかり定着し、どのメーカーも新型車といえばSUVを登場させるのが当たり前になった。かつてのメインストリーム、クルマの王道中の王道たるセダン派からすれば悲しい限りである。
いったいなぜ、セダンはSUVにメインストリームの座を明け渡してしまったのか?
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「悪路・雪道でも走れるタフなSUVは災害に強いイメージがあるから」。ああ、なるほど…。「SUVにはセダンのような明確なヒエラルキーがないから」。むう…。「都会のスペシャルティカーとなったSUVはセダンよりも遊び心を感じさせるから」。うむ…。「SUVの高い着座位置は運転がラクだから」。だよねぇ…。「室内高も荷室も広い」。ですよねぇ…。
い、いやいやしかし! だがしかし! クルマの基本はやっぱりセダン! セダンならではのよさだってまだまだあるはず! セダン派の主張を高らかに叫ぼうじゃないか!
※本稿は2019年5月のものです
文:斎藤聡、清水草一、渡辺陽一郎、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年6月10日号
※本文中、「それでもSUVには乗らない「セダン派!!」の言い分」「生き残りへの道はあるか?」「ニューモデルの姿から占う「セダンの新しい風」」は「セダンじゃダメなんですかァ?」(P168-173)より、「ハデさはなくても、その実力は侮れない!! 200万円前後で買えるセダンモデル 3選」は「今、買うべきは安くて嬉しいクルマ」(P65-170)より抜粋の上再編集しています。
■それでもSUVには乗らない「セダン派!!」の言い分
昨今のクロスオーバーSUV人気をモノともせず(?)、乗ろうとしない(愛車として購入しようとしない)言い分をまずは聞いてみよう。なぜアナタはSUVに乗らないのですか?
●斎藤聡が「SUVに乗らないワケ」
現在は10年近く3代目アウディS4に乗っているんだけど、そもそもSUVは基本的に運動性能がよくないし、自分がオフロードにはあまり行かないというライフスタイルもある。
それとこれが一番個人的には大きいんだけど、昔はクルマのフォーマルな形がセダンだったという考えが刷り込まれているということかな。セダンって全体的な形、プロポーションのバランスがいいと思うんだよね。
アウディ S4
エンジンがおさまっているフロントノーズ、乗員が乗るキャビン、そして荷物を載せるトランクスペースの3つにキッチリと分けられていて、3ボックスタイプというクルマの基本形であること。
もちろん自動車評論家という仕事をやっている以上、SUVは別にイヤというワケじゃないんだけど、スマートじゃないというのがちょっとね。
ドアを開けて乗り込む時に車高の高いSUVは「ヨイショ」ってなるじゃない。そのあたりがセダンやスポーツカーとは違う。
実は個人的に格言としている言葉があって、それは「お金があるのならクルマは3台持て。1台ですべてをすまそうとするな」ということ。
個人的な理想はセダンならロールスロイス、SUVならレンジローバー、スポーツカーならフェラーリかポルシェ。
自分自身も今すぐにそれを実践できるワケじゃないけど、クロスオーバーSUVって1台ですべての要素を持たそうとしているから、それは違うなって感じているんだよね。
なので自分にとって乗るべき中央のクルマがセダンだと思っている。なかでもエレガントに走るのなら50:50の重量配分を持つFR車、BMW3シリーズセダンのようなクルマかな。
BMW 3シリーズ セダン
ハンドルを切り出した瞬間、ヨーをつけながらクルマがバランスよく、しんなりとキレイに曲がってコーナーを一つひとつクリアしていく。そんなイメージの走りはSUVにはない魅力だよ。
ただ、自分自身はちょっと変態的で、滑り出した時に必ず進行方向にノーズが向くフロントヘビーな4WD車が好きだから、アウディS4に乗り続けているんだけど(笑)。
●清水草一の「SUVに乗らないワケ」
う~む、そもそも現在の愛車もフェラーリ328に先代BMW320d、シトロエンDS3の3台と、SUVにはまったくかすらないことからもわかるようにSUVにする理由が薄いということかな。
言い換えればわざわざSUVにしなきゃならないことがない。だって、SUVって室内はさして広くないし、ボディが幅広くて取り回しはよくないし、車重だって重い。
おまけに空気抵抗も悪いから燃費はよくないし、走りのダイレクト感も少ないし。
でも、SUVにもたったひとつだけいいことがある。それはアイポイントの高さで、SUVに今、乗っていない現状で唯一惜しいと思う点だ。
最近、ランボルギーニウルスに乗ったんだけど、これがメチャクチャ楽しいクルマであった。そもそも無駄の極致がスーパーカーブランドだと思っているんだけど、SUVという特性がそれに合っているんだろうね。カイエンターボのような知性のかけらもない狂気のクルマだな。
世界初となるスーパーカーとSUVとが融合したモデル、ランボルギーニ・ウルス。ってあれ、清水さん話違いません?
SUVは日本では実はまだまだなんだけど、海外では4割近くがSUVだと聞いている。クルマというのは、過剰で無駄なモノを求めるのが本質であることを考えたら、近々SUVを買っちゃうかも。
だって、フェラーリじゃ夜にレインボーブリッジを走っていて夜景が見えないもん(笑)。
■生き残りへの道はあるのか?
(TEXT/編集部)
「どうしてSUVに乗らずセダンに乗り続けるのか?」という質問に対しSUV買っちゃうかもな~という自動車評論家がいるくらいSUV人気は今後もますます高まりそうな気配だが、ならばそんな中でセダンはどうすれば生き残れるだろうか。
かつてのような「マルチパーパス(多目的)カー」としての役割を終えた今、セダンが向かうべきはどの道なのか。次のような方向で考えてみたい。
●スポーツに特化する?
セダンの走行性能のよさはクーペやスポーツカーに次ぐが、そこを突破口にしてスポーツセダン路線を突き進めていくのも一案かもしれない。
現状の国産ラインナップだと、スバルWRX STIおよびS4が2Lターボの4WDスポーツセダンとして、レクサスGS FがコンベンショナルなV8、5L DOHCを載せたラグジュアリー快速サルーンとして存在する。
EJ型2Lターボ+4WDで武装したWRX STIは国産武闘派スポーツセダンの筆頭格
かつてはランエボやマークIIツアラーV、ギャランVR-4にブルーバードSSSなどスポーツセダンが数多くあったが、この路線に特化するのもありかも。
●セダンながら美しいクーペデザインを採用する?
現行型メルセデスベンツCLSクラス、クラウンやインサイトなどは全体的なシルエットがクーペライクな6ライトデザインが採用されている。
それはVWアルテオンやBMWのグランクーペモデルも同じだが、地味なイメージのセダンも華やかな4ドアクーペ風デザインにすることで独自の存在感を発揮できるのでは?
現行メルセデスベンツCLSクラスは全体のシルエットがクーペモデルのように流麗になっている
●目立たない実用車に徹する?
メーカー各社のセダンモデル、プレミオ/アリオンやカローラアクシオ、インプレッサG4、シビックセダンにアクセラセダンなど実用系セダンは熟年世代から根強く支持されている。
また、アクセラセダンなどは米国で1.5L車が若者からエントリーカーとして意外な人気を集めているとか。このあたりにヒントがあるのかも。
現行プレミオは2007年登場の2代目で、2016年6月のMCでアリオンと共通のフロントマスクに
同じく兄弟車のアリオン。プレミオとは違ったフロントマスクだったが、現在は共通になった
■ニューモデルの姿から占う「セダンの新しい風」
(TEXT/編集部)
さて、ここでは今後に登場を控えているセダンの新型モデルに照準を合わせ、セダンの可能性や方向性について考えてみたい。
まずは、上の項で画像を先出しした、マツダが上級FRサルーン市場に再参入するモデルとして2020年の登場が予定されている新型FRセダン。
マツダが2020年にDセグメントの上級FRサルーンとして投入する予定のFRセダン。メルセデスベンツCクラスやBMW3シリーズなど、ドイツ勢のDセグモデルに対するライバルになり得るのか!?(画像はベストカー予想CG)
こちらは日本でも5月から販売が開始されたの新型マツダ3セダン。5ドアハッチバックとの差別化が強まった
この市場には、現状ではトヨタと日産の両社しかないため、輸入車ブランドにユーザーが流れてしまっているのだが、それを再び引き入れるためにマツダが満を持して投入するスタイリッシュサルーンだ。
マツダが2017年の東京モーターショーで出展したビジョンクーペで見せた次世代の魂動デザインが採用されることは間違いない。
今年、先行して市販される新型マツダ3セダンを含め、マツダの繰り出すセダンはデザイン面で今後の潮流を作り出す可能性が高そうだ。
続いて今年はカローラセダンがフルモデルチェンジを受ける予定で、カローラスポーツのセダン版として日本でも新たに全幅1700mmを超えた3ナンバー車に生まれ変わることになる。
スポーティになる新型カローラセダン(画像はベストカー予想CG)
現行カローラアクシオがヴィッツベースのBプラットフォームモデルであるのに比べ、この新型カローラセダンはCセグとなり、ワイドでスタイリッシュな印象だ。
とはいえ、日本仕様は北米仕様の全幅1780mmよりも控えめな1745mmにおさまるもよう。
写真は北米のスポーティモデルXSEだが、今度のカローラはハッチバック以外にセダンも格好いいモデルとして充分期待できそうだ。
また、2021年にフルモデルチェンジされる予定のレクサスISも国産セダンとして注目しておきたいモデル。
2021年、次期型レクサスISにはBMW製の直6、3Lターボを搭載したIS Fが復活する可能性が高い(画像はベストカー予想CG)
BMW製の直6、3Lターボを積んだモデルが新生IS Fとして復活する可能性が高く、パフォーマンスの面でも低迷するセダン市場にインパクトを与えそうな予感。
スタイルは現行ISからのキープコンセプトだが、スピンドルグリルを中心としたフロントマスクはより迫力を増し、スタイリッシュなプレミアムDセグスポーティセダンとして登場する予定だ。
こうして新型モデルの情報を見るかぎり、セダンもまだまだ捨てたもんじゃないんじゃないか!?
TNGAプラットフォームによる全面刷新で生まれ変わった現行クラウン。国産有数の歴史を持ち、現行型はニュルで鍛え込まれた伝統のセダンは特にリアスタイルが4ドアクーペを彷彿とさせるCピラーラインが特徴的となっている。国産セダン派最後の希望の光ともいえる存在であろう
■ハデさはなくても、その実力は侮れない!! 200万円前後で買えるセダンモデル 3選
最後は200万前後で買える国産優良セダンを3台紹介したい。
地味かもしれないが、今回ここまで紹介してきたクルマたちの、セダンならではが持つスタイルの美しさには、きっと誰しもが抗えないはず。
「黄昏の時期」と言われてしまって久しいセダンだが、その復権の時を夢見ながら乗り続ける者たちがいることも、時折思いだしてもらえたら嬉しい。
(TEXT/渡辺陽一郎)
●スバル インプレッサG4 1.6i-L EyeSight(価格:194万4000~216万円)
115ps/15.1kgm発生の1.6Lエンジンはさほどパワフルではないが、スバル・グローバル・プラットフォームが醸し出す上質な乗り味は特筆もの。先進安全装備、アイサイトも嬉しい
今のセダンは大半が海外向けに開発され、5ナンバーサイズに収まるのは4車種しかない。低価格車を見つけにくい状態だ。
そのなかで最も推奨度が高い車種は、インプレッサG4だ。3ナンバーだが、全幅は1800mm以下に収まり、水平基調のボディは視界もよいから運転がしやすい。車内は広く、後席足元空間にも余裕があるから、大人4名乗車も快適だ。
プラットフォームの設計が新しいため走行安定性と乗り心地もいい。緊急自動ブレーキを作動させるアイサイトは、歩行者とクルマに加えて自転車も検知可能。
それでいて1.6Lエンジン搭載車は価格控えめ。1.6i-Lアイサイトは、2WDが194万円少々だ。
●ホンダ グレイスLX(価格:176万9040~198万5040円)
モデル中、唯一のピュアガソリン車。1.5Lエンジンは132ps/15.8kgmとパワフル
プラットフォームはフィットと共通だから空間効率に優れ、5ナンバーサイズセダンでは車内が最も広い。
後席の足元空間もゆったりして、居住性はミドルサイズ並みだ。トランクスペースの容量も大きく、さらにセダンにとって大切な内装の質、乗り心地も満足できる。
1.5Lのガソリンエンジンを搭載するLXは、ホンダセンシングがオプションになるが、価格は176万940円と割安。
●トヨタ カローラアクシオ 1.5G W×B(価格:207万7920~221万9400円)
2017年に新設定されたグレード。専用となるスポーティな外観が特徴
5ナンバーサイズコンパクトセダンの代表車種。外観デザインは水平基調だから前後左右ともに視界がいい。小回りも利くので混雑した街中でも運転しやすく、インパネなどの内装も機能的で扱いやすい。
プラットフォームはヴィッツと共通化され、ホイールベースが2600mmと長いから後席も窮屈ではない。
価格は1.5Lのガソリンエンジンを搭載して、リアスポイラーなどのエアロパーツを装着した1.5G W×Bが約208万円だ。
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