改良を受けたポルシェ「カイエン」のプラグイン・ハイブリッドに、サトータケシが試乗した!
電動化とポルシェらしさの維持
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大がかりなマイナーチェンジを受けたポルシェ・カイエンおよびカイエン・クーペの日本でのデリバリーが始まった。早速、PHEV(プラグイン・ハイブリッド)のカイエンEハイブリッドを借り出してみた。
第3世代となる現行モデルが登場したのが2018年だから、今年で6年目。改良型カイエンのうたい文句は“ポルシェ史上、最大級の広範な製品アップグレード”というもので、あと何年か経ったら現行モデルは、“3代目の後期モデル”と、呼ばれるようになるだろう。
外観で真っ先に気づくのは、従来型のヘッドランプがレイバンのティアドロップ型サングラスの天地を逆さまにしたような形だったのに対して、改良型は5つの角があるシャープな形に変わったこと。これだけでフロントマスクがキリリと引き締まった。
外観以上に変わったのがインテリアで、まず疑似キーをクリっとひねってシステムを起動するスタイルから、スターターボタンをプッシュする方式に改められた。また、センターコンソールからにょきっと垂直に生えていたシフトセレクターは、ダッシュボードの液晶パネル横に移植され、同時にサイズもコンパクトになって水平方向に伸びている。
センターコンソールから突起物が消えたことで室内はすっきりとした印象になり、「タイカン」っぽいというかBEV(バッテリー式電気自動車)っぽいというか、新しい時代のクルマという雰囲気が色濃くなった。
BEVっぽくなったという印象がさらに強まるのは、PHEVの通例に漏れず、カイエンEハイブリッドも電気さえあればBEV走行を優先するからだ。改良型カイエンEハイブリッドは、駆動用モーターの出力向上やリチウムイオン電池の容量拡大など、エレクトリック・システムを刷新することで、満充電時のEV走行の航続距離が従来型の48kmから90kmへと、大幅に延びているのだ。
「なるほど、どんどん電動化に舵を切っているのか」と、納得して最初の交差点を曲がろうとした瞬間、「でも、やっぱりポルシェじゃん」と、心が高ぶる。ステアリングホイールをまわすという入力に対して、ノーズが向きを変えるという反応が正確無比で、交差点を曲がっているだけなのに、完璧なフォームでバットの真芯でボールをとらえたような気持ちよさを味わえる。オプション装備されていた、ヘッドレストと一体のアダプティブスポーツシートがタイトに身体をホールドしてくれることも、「やっぱりポルシェじゃん!」という思いを強める。
補修跡が残る路面や首都高速のつなぎ目では、ビシッというハーシュネス(路面からの突き上げ)を感じる。最近の快適なSUVとは、ひと味違う。試乗車が、オプションの21インチのタイヤを履いていたことも理由かもしれない。
ただしこのビシッという感触は、決して不快ではない。カレー・マニアがピリッという辛味を舌で感じて喜ぶように、ポルシェのファンは正確なハンドリングと硬派な乗り心地の組み合わせを好ましいと感じるのだ。
ドライブモードを「Hybrid」から「Sport」へ、さらに「Sport Plus」へと切り替えると、排気量3.0リッターのV型6気筒ツインターボエンジンの存在感がぐんぐん大きくなる。
アクセル操作に対するレスポンスは噛み付くように鋭くなり、音も抜けのよい高周波のものに変化する。オプションのエアサスが備わる足まわりは一層ソリッドなセッティングとなって、ステアリングホイールからは引き締まった手応えが伝わる。目線の位置は高いのに、あまりロールを感じずにスパン、スパンと曲がるのは、ちょっと不思議な感覚だ。
逆に言うと、目線が高いこと以外、「911」や「ボクスター」など、慣れ親しんできたポルシェのスポーツカーとおなじだ。初代カイエンが出たときにも同じことを感じたけれど、このクルマはSUVをハイパワー化して足まわりを硬めたのではなく、スポーツカーにSUVのスタイルと機能を与えているのだ。一般的なスポーツSUVとは、アプローチが逆だ。
試乗を終えた帰路、液晶パネルを操作して「E-Charge」モードで走る。エンジンは駆動と充電の一人二役で働いていて、次第にバッテリー残量の目盛りが増えていく。この調子でいけば、都心に戻る頃にはまたEV走行で、しゃなりしゃなりと走れるだろう。
電動化とポルシェらしさの維持というのは、端から見るとダイエットと美食の両立のような難問だと思える。けれどもポルシェは、現時点でのこの難問に対する正解を見つけている。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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