10月4~6日に栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催された2024年MotoGP第16戦日本GPはコロナ禍以降最多となる観客を動員し、大盛況のなか幕を閉じた。最大の注目となったのは、やはり2024年限りで現役を引退する中上貴晶(ホンダ・イデミツLCR)のフル参戦最後となった母国GPでのレースと言えるだろう。そんな彼は、レース前後にどのような想いを抱いていたのだろうか。
中上は2018年にLCRホンダ・イデミツからMotoGPクラスに昇格して以降、現在に至るまでフル参戦を継続してきた。自己最高位は2020年第2戦スペインGPと第13戦ヨーロッパGPにおける4位、さらに第12戦テルエルGPではポールポジションを獲得。表彰台こそはないものの、最高峰では唯一の日本人ライダーとして奮闘する走りを見せていた。
賭けに出た中上貴晶「やってやるという気持ちがあった」。フル参戦最後の母国GPでポイント獲得/第16戦日本GP
ここ数年は海外メーカーが勢力を伸ばしており、日本メーカーはトップ10入りどころか下位を占める結果が続き、苦境に立たされていた。2024年からはコンセッション(優遇措置)の適応となったことで、再起を図るべくアップデート等を含めて中上もマシン開発やパーツのテストに尽力している。
厳しい状況下でもホンダのライダーとして日々邁進してきたが、2024年をもって7年間参戦してきたMotoGPフル参戦ライダーとしての活動にピリオドを打つことを決意。そんな中上は、第16戦日本GPでフル参戦としてはラストとなる母国GPに向けて普段以上の強い気持ちを抱いて臨んだ。
予選では21番手と後方スタートとなり、スプリントではチームメイトの接触により、無念のリタイアを強いられる非常に悔しさが残るものとなった。そのため、中上にとっても日本GP最後となる決勝レースは、「自分の中でやり切ったレースにしたい」という思いがあったという。そんな彼はスタート前、母国で聞く君が代に少々感傷的に浸っているようにも見えた。その際のことを中上は次のようにコメントした。
「グリッドついた時はいい集中感でした。最後の日本GPで、まずはチェッカーフラッグを受けたいという気持ちでした。でも全力を尽くすなかで、それが結果として残らなくても転倒しても、チェッカーフラッグを受けたとしても、どちらにしろ自分の力を余り残すことなく、やりきりたいだけでした」
「国歌独唱を聞いた時は何か心にきましたね。日本人の二輪最高峰のMotoGPライダーとして、いろいろ思うこともたくさんあり、なおさら頑張りたいというか、全力を尽し切りたいなと思えたので、すごくいい時間でしたね。レース直前の国歌独唱を、目を瞑ってしっかり聞けたのは良かったです」
様々な想いを抱えて臨んだ決勝レースでは、「やってやる!」という気持ちから唯一リヤにソフトタイヤを選択するという賭けに出た。その作戦は見事にハマり、終盤には前のライダーとの差も縮める展開も見せ、見事に悔しさを跳ね除ける13位でポイントを獲得。終了後には中上も「レースに対して悔いも全くなく、すっきりとしたやりきった気持ちです」と振り返った。
そんな彼の走りは、現地のファンの心を強く動かしたようで、中上のファンシートでは一斉に“TAKAコール”が鳴り響いていた。中上はチームの元へ無事にマシンを戻した後、ヘルメットとスーツを脱ぐ間もなく、すぐさま自身のファンシートへと赴く様子も見られた。
「チェッカーフラッグ後のクールダウンラップはとてもいい気分でした。コーナーごとにファンのみんなが見えて、これが最後なんだなと感じていました。本当に自分を誇りに思うことができました。ピットに戻ったとき、チームクルーを見て、何かを感じました。その時は本当にエモーショナルで、少し泣いてしまいました」
「すごく嬉しかったです。もともとレースウイークが始まる前から、レース終わったら今日のパフォーマンスをしようと思っていました。でもそうするには完走しないといけないですし、レースは何があるかわからないなかでもきちっとゴールできて、自分が予定していたことを全てできたので嬉しかったですね。あとは、やっぱり今年の方が応援も多かったと思います」
「今まで以上にいろいろな人からの声のかけ方ももちろん違いました。『頑張ってね』にプラスして『ありがとう』だったり、『これからも』など、あまり今まで聞いたことない言葉なので、自分はもうこれが最後なんだな、というのを改めて思いました。サーキットに駆けつけてくれた人にもそれに見合う、いい気持ちでサーキットを後にしてほしいと思いましたし、それはできたのではないかなと思います」
多くのファンの声援に見守られながら、中上は母国でのラストレースを終えた。まだ4戦残されているが、やはり母国でのレースは彼の中でも一区切りした気持ちもあったようだ。そんな中上は、2025年からMotoGPマシン開発ライダーとして活動の場を広げていくことになる。そのことについても次のように言及した。
「いつかその日が来ることはわかっていましたし、それが今回であっただけで、いろいろ考えていくなかでもベストなタイミングだったとは思います。自分自身やり切れたという気持ちもあるので、また別の形で戻ってこれたり、レースに参戦できたら嬉しいなとは思いますが状況次第ですね」
「レースに出るイコール結果が望める環境や状況でないと……。自分もただ参戦してください、データ取りをしてくださいというのは、もしそれが日本GPだとしたら自分は多分断ると思います。出るからにはかっこいい姿、自分自身がプラスアルファの力を出して、結果が望める状態にしたいです」
「2025年の日本GPまでは何カ月も時間があるので、強いホンダに戻せるように自分も頑張って力を出し切りたいです。自分が開発テストライダーに行くことによって、どれだけのメリットがあるのかを証明したいです。たくさん走れば走っただけアドバンテージになると思うので楽しみです」
今シーズン中上に残されたレースにももちろん期待したいところだが、2025年シーズンからの開発ライダーとしての活躍にも注目をおきたい。今まで長期間に渡ってホンダRC213Vをライドしてきた中上だからこそ、その知識と技量を活かしてホンダの苦境を救うみちしるべになるのではないだろうか。
また、2025年からは中上に加えてアプリリアからアレイシ・エスパルガロもホンダのテストライダーとして新しく加入する。そんなふたりがホンダRC213Vの開発をどこまでいい方向へと向かわせるか、この苦境を一刻も早く脱出させられるかに期待したいところだ。
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みんなのコメント
たらればですが、そんな不運(出る杭は打たれる?)やミスが無ければどうなってたかなとも思います。
それを乗り越えなければ優勝や年間タイトルを獲るには至らないのかもしれませんが
まぁ、覚醒してたとしてもマルケスも出て行くようなホンダの凋落ぶりをみていると、やはり厳しかったのかなと
そんな環境でもベストを尽くしてきたのだろうなと思います
残りのレースは楽しんで乗って欲しいです