注目の的だったが「やっちまった!」感が拭えないモデルたち
フルモデルチェンジは、設計を刷新して各種の性能や実用性を高める目的で行う。フルモデルチェンジすれば商品力が高まり、売れ行きも伸びるハズだが、そうならない場合もある……。
前のほうがイケメン? マイナーチェンジで理解しがたい見た目になった国産車トップ5
1)トヨタ・クラウン
・1カ月の販売目標:4500台 ・2021年1~7月の1カ月平均:2099台
クラウンは2018年の発売時点で1カ月の販売目標を4500台に設定したが、2021年は半数以下の2099台だ。現行型にフルモデルチェンジする直前の2017年でも、1カ月平均が2424台だったから、今はさらに少ない。
現行型はユーザーの若返りをねらい、外観はリヤウインドウを寝かせたファストバック風のデザインだ。ボディの側面に装着されたウインドウは3分割されるが、このボディ形状は日本では好まれない。
また、従来型の人気グレードは豪華指向のロイヤルサルーンだったが、現行型はこれを廃止してスポーティなRSを主力に据えた。外観はコンセプトの表現手段だから、現行型は車両の性格が大幅に変わり、従来型から乗り替えるユーザーも減った。
このほか、従来は上級シリーズのマジェスタも用意したが、新型はこれを廃止してひとつのシリーズに統合した。2020年5月からは、国内のすべての店舗がトヨタの全車を扱うようになり、トヨタ店でもアルファードやハリアーが売れ始めた。その結果、クラウンがさらにユーザーを奪われた事情もある。
売れまくったあの看板車種ですらやっちまった
2)ホンダ・フィット
・1カ月の販売目標:1万台 ・2021年1~7月の1カ月平均:4998台
フィットは2020年2月に発売されたので設計が新しい。それなのに2021年の1カ月平均登録台数は約5000台だから、販売目標の半数に留まる。
販売が低調な理由として、まず内外装のデザインが挙げられる。前後左右ともに視界が優れ、内装の質も満足できて乗り心地も良いが、デザインは賛否両論だ。とくにフロントマスクは、従来型と印象が大きく異なる。そして2020年には、ライバル車のヤリス(旧ヴィッツ)とノートも新型になり、厳しい競争を強いられている。
また、2021年におけるホンダの販売状況を見ると、国内で新車として売られたクルマの35%をN-BOXが占めた。フィットはN-BOXと価格帯がほぼ同じで、後者は車内が広くスライドドアも装着する。つまりフィットは、N-BOXとの販売合戦に負けた面もある。
このほか、販売店からは「フィットは、ほかの車種以上に半導体不足の影響を強く受けており、納期も遅れがち」という話も聞かれる。フィットは複数の悪条件が重なって、売れ行きを低迷させた。
3)ダイハツ・タント
・1カ月の販売目標:1万2500台 ・2021年1~7月の1カ月平均:1万1022台
タントの販売台数は1カ月平均で1万台を超えるから、人気車の部類に入る。しかし、売れ行きを先代型と比べると大幅に見劣りする。先代型はモデル末期だった2018年の時点でも、1カ月平均販売台数が1万1380台に達していたからだ。フルモデルチェンジ後の今よりも、販売台数が多かった。
また、先代型は、発売の翌年となる2014年に軽自動車のN-B0X、小型/普通車のアクアやプリウスを押さえて国内販売の総合1位になっている。それなのに現行型の販売ランキング順位は、発売直後でもN-BOXとスペーシアを抜けず、軽自動車の3位に留まった。
現行タントは、ワイドに開くスライドドアからベビーカーを抱えた状態で乗車して、子供を後席のチャイルドシートに座らせ、親が運転席へ移動する機能を向上させている。先代型の欠点だった操舵感、走行安定性、後席の座り心地も改善した。従って商品力は向上したが、セールスポイントが地味でストレートに伝わりにくい。そのために選択の決め手に欠ける。
クラウンやフィットも、走行安定性、動力性能、居住性などはすべて優れているが、魅力の表現力が乏しく、売れ行きが伸び悩む。歴代モデルの所有者を含めて、ユーザーが商品をどのように捉えるのか、そこを考慮して開発する必要がある。
ただしいずれの車種も諦めるのはまだ早い。販売面まで含めて、従来型が成功した理由を改めて考えたい。
とくにクラウンは、現行型になってすべてを大きく変えたから売れ行きが下がった。現行型の販売不振を理由に、SUVに変更するのは早計だ。低重心で高剛性のセダンボディは、クラウンのコンセプトと整合性が高く、SUVでは得られない良さが豊富にある。諦めずにセダンの価値を追求すべきだ。クラウンをSUVに変更したら、実質的に日本のセダンは消滅する。クラウンにはセダンの未来が掛かっている。
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