■中国高級EVジーカー「001」に日本製モーターを採用するワケ
京都府京都市に本拠地を置く日本電産株式会社は2021年10月14日、同社が開発するトラクションモーターシステム「E-Axle」の採用車種が新たに増えたことを発表しました。
今回発表された新たな搭載車種は中国の自動車メーカー「Geely(ジーリー、吉利汽車)」が展開するプレミアムブランド「Zeekr(ジーカー)」の「001」というシューティングブレークタイプの高級EVです。
日本電産が開発した「E-Axle」は電動車におけるモーター、インバータ、ギアを一体化した小型ユニットとして搭載できるのがもっとも大きな特徴です。
現在は出力(kW)の異なる3つのバリエーション、Ni100Ex、Ni150Ex、Ni200Exが量産中で、Ni70Exは2021年中、Ni50Exは2022年中の量産開始を予定しています。
さまざまなバリエーションを用意することで、Aセグメントの小型車からEセグメントのミドルサイズ車までの幅広いニーズに対応し、2030年までに電気自動車用駆動モーター市場で世界シェアの40%から45%を獲得することを目標としています。
今回のジーカー001は元々、「Lynk&Co(リンク&コー)」というジーリーの別ブランドから発表された「ゼロ コンセプト」というコンセプトモデルでした。
その量産モデルが上海モーターショー2021にて、「ジーカー 001」としてジーカーブランドと共に発表されたわけです。
日本電産は、同社最新のE-Axle「Ni200Ex」がジーカーに採用された理由について以下のようにコメントしました。
「当社E-Axleの軽薄短小度合いと、他社を大きく引き離す低振動、低騒音性能そして開発期間が非常に短かく、当社の開発スピードに関しても実績を評価いただいたことが理由です」
ちなみにNi200Exは当初2023年からの生産を予定していましたが、ジーカーへの採用にあたって2年も前倒しの2021年8月より量産が開始されています。
「当社が2019年4月に世界に先駆けて量産を開始したE-Axleの150kWモデルを元に設計しているため、ノウハウが蓄積されており対応が可能でした」
ジーリーのリンク&コーは、2016年にジーリーとその子会社のボルボが共同で立ち上げました。
ディーラーを介さない販売網、サブスクリプション形式の採用など、既存の自動車メーカーにはないスタイルが特徴的で、全体的に「若者向け」としてアピールをおこなっています。
現在は、01から09まで、コンパクトセダンやコンパクトSUV、ミドルサイズSUV、電動スクーターなど、幅広い車種をラインナップ。
そのなかでももっとも有名なモデルがおそらく03で、FIA 世界ツーリングカーカップ(WTCR)にシアン・レーシングを通じて2019年から参戦しているスポーティなモデルです。
2018年10月には日本への具体的な導入計画が無いにも関わらず、富士スピードウェイ(静岡県)でグローバルローンチイベントを開催しました。
筆者(加藤ヒロト)もそのイベントに参加しましたが中国国内のメディアを300名以上、ホット客200名以上など合計で500名以上を中国から招待し、朝から夜までコース上での試乗や大掛りな演出を含む発表などとても豪華なイベントでした。
なお、リンク&コーは純粋な電動ブランドではありません。確かに電気自動車やプラグインハイブリッド車などをラインナップに取り揃えていますが、ガソリン車も普通に販売しています。
そういう点を踏まえると、フル電動ブランドのジーカーは電動版リンク&コーといっても差し支えないでしょう。
ジーカー001のボディサイズは全長4970mm×全幅1999mm×全高1560mm(トップグレードは1548mm)です。
グレードは「超長続航単電機WE版」(航続距離712km)、「長続航双電機WE版」(航続距離526km)、そしてトップグレードの「超長続航双電機YOU版」(航続距離606km)の3種類が存在します。
ちなみに「単電機」はシングルモーター、「双電機」はツインモーターを指します。
トップグレードは日本電産のNi200Exを前後の車軸に搭載することで、合計最大出力400kW(536hp)を実現しました。
0-100km/h加速ではわずか3.8秒とのことなので、いかにその加速性能が驚異的かわかります。
■ジーカー001には、日本メーカーの部品が多数採用されている!?
クルマとしてのパフォーマンス面以外では、ヤマハ株式会社が専用で開発したサウンドシステム(25mmツイーター×4、80mmスコーカー×3、160mmウーファー×4、200mmサブウーファー×1)を搭載している点が特徴です。
ヤマハによれば、位相イコライザを用いた音響チューニングや、「EVならでは」を追求した加速音演出を提供しており、装備面でも抜かりはありません。
ちなみにブレーキシステムでは曙ブレーキ工業製の4ポットフロントキャリパーをオプションとして一部ホイールと組み合わせることが可能です。
日本電産製のE-Axleを採用するのはこのクルマが初めてではありません。
同社のE-Axleを最初に採用したのはNi150Exを搭載する「アイオン S」という車種です。
アイオン(Aion)は広州汽車集団(GAC)の子会社である広汽埃安新能源汽車が展開する純電動ブランドで、2018年に誕生しました。
現在はセダンのアイオン S、ミドルサイズクロスオーバーの「アイオン LX」、コンパクトクロスオーバーの「アイオン V」、MPVの「アイオン Y」の計4モデルが展開されていますが、すべてのモデルにおいて日本電産のE-Axleが採用されています。
アイオン以外の広州汽車系モデルでは広州汽車とNIOの合弁会社「広汽蔚来」が展開する「ハイカン(Hycan)」の「007」や、広汽ホンダ「EA6」、広汽トヨタ「iA5」がE-Axleを搭載しています。
ちなみに、ハイカン 007はアイオン Y、広汽ホンダ EA6と広汽ホンダ iA5はアイオン Sをベースとしています。
また、ジーカー以外のジーリー車では、ジオメトリー(Geometry)という純電動ブランドの「ジオメトリー A」と「ジオメトリー Y」がNi150Exを搭載しています。
※ ※ ※
2021年7月にはASF株式会社(本社:東京都)が設計・開発し、広西汽車集団傘下の柳州五菱汽車が製造、配送大手の佐川急便に向けて供給する日本車「ASF G050」にも、日本電産製のトラクションモーターが採用されることが発表されました。
今後、搭載車種が続々と増えていく日本電産の電気自動車用トラクションモーター。
その高性能と他の追随を辞さない開発スピードでシェア拡大に向け着々と歩みを進めていく様子からは目が離せません。
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