航続距離は約850kmに向上、FFからFRへ。2020年12月9日、驚くべき成長と変貌を遂げたトヨタの2代目MIRAIがいよいよデビューを果たす。
10月21日に行われたプロトタイプ試乗会の様子から、新時代ラグジュアリーセダンの進化のほどを見定める!
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【画像ギャラリー】全35枚の画像でトヨタ 新型MIRAIの全貌を見る
※本稿は2020年11月のものです。試乗日:10月21日
文/鈴木直也、写真/TOYOTA、ベストカー編集部、撮影/平野 学
初出:『ベストカー』 2020年12月10日号
■ひとり時間軸をワープしている
詳細を知って、あらためてトヨタの底力にぶったまげた。
そもそも、6年前の時点で実用的なFCV(燃料電池車両)を完全売り渡しで市販したこと自体がちょっとオカシイ。トヨタ以外にもFCVを発売したメーカーはあるが、それらは事実上すべてリース形式。
ベストカーでもおなじみ国沢くんのラリー仕様ミライみたいな遊びができたのはトヨタのFCVだけだ。
それが早くもフルモデルチェンジして第2世代に突入。
「サイレントダイナミズム」をデザインテーマとした新型MIRAI。ヘッドライトより低いノーズとリアエンドまでキャビンが続くイメージが特徴的
世間では「これからはEVだ。いや、まだまだ内燃機関だ」と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしてるというのに、ひとり時間軸をワープして未来を疾走している。
しかも、実験車的な性格のクルマだった初代ミライに比べると、第2世代はマジで売る気マンマンで作られている。
初代ミライはFCスタックを床下に配置したFFだったため、フロアの高い専用プラットフォームが使われていた。
このため、セダンなのに目線の高い独特のドライブ感覚があり、とりあえず「いま実現可能な技術で仕立てました」という感なきにしもあらずだった。
ところが、新型のプロポーションはうって変わって低くスリークなラグジュアリーセダンそのもの。FCスタックはフロントフード下(いわゆるエンジンルーム)に移動し、駆動モーターはリアに配置した後輪駆動車に変貌。
FCスタックを床下からフロントフード下に移し、モーターを前から後ろに移動してリア駆動としている
そのまんま、レクサスやクラウンと言っても通用するパッケージングを実現している。
その秘密はプラットフォームにある。
実は、トヨタは2015年の東京モーターショーにレクサス「LF-FC」というコンセプトモデルを出展し、フラッグシップモデルをFCV化するビジョンを明らかにしていた。
そして、そのために新設されたのがレクサスLS/LCが使うGA-Lプラットフォームだったのだ。
最初にそういう構想があったから、GA-Lのセンタートンネルには高圧水素タンクの搭載が予定されていたし、リアには駆動モーターのスペースも確保されている。
クラウンやレクサスLSで使われているFR用のGA-Lプラットフォームを採用し、より高級感を増した。ボディサイズは全長4975×全幅1885×全高1470mm、ホイールベース2920mmとなる
V8やV6のガソリンエンジンを搭載したFRラグジュアリーカーできちんと台数を確保し、それをFCVのプラットフォームとしても活用する。
ここまで壮大な未来図を描ける自動車メーカーは、世界中でトヨタしかないと言わざるを得ない。
■手持ちの駒をイッキに投入
さらに、心臓部たるFCスタック周辺も、今回の2代目で完全に一新されている。
スタック出力は12%アップの174psに強化される一方、体積は29L(マイナス21%)、重量は32kg(マイナス43%)へと大幅にスリム化。体積出力密度4.4kW/Lを達成している。
FCスタックはカバーしか見えない状態だが、実際は最先端技術の集合体。燃費は1割改善されているという
これは、最新のリチウムイオン電池の7倍ほどの出力密度レベル。FCの場合kW/hで考えるなら水素タンクや補機類を考慮しないとフェアではないが、それでもわずか29L/32kgの“箱”から174psのパワーが取り出せるというのは素晴らしい。
このほかにも、FCスタックと一体化されたFC昇圧コンバーターには最新の炭化ケイ素系パワー半導体が採用されるなど、手持ちの駒をイッキに投入してきた感がありありだし、エアポンプ類など補機類のまとめ方なども「いかにも量産車」といった感じの手際のよさ。
従来はトランクルームを圧迫していた水素タンクも、センタートンネル内に1本、後輪の前後に1本ずつの計3本の配置となり、4.6kgから5.6kgに水素搭載量を増やしながら、後席やラゲッジルームへの干渉を大幅に低減している。
FCシステムのコストを7割削減したうえで小型高性能化を実現。セルの生産時間も十数分から数秒に短縮
水素タンクを2本から3本とし、有効水素搭載量は4.6kgから5.6kgに向上。これにより航続距離が大幅にアップ
これほど完成度の高いセダン型FCVが、こんなに早く登場するとは予想外。いったんヤルと決めたら粛々と進行するトヨタの実行力には恐れ入るほかはない。
■人工サウンドが意外に有効
もちろん、走りについても高い完成度から予想されたとおりの仕上がりだった。
発売前のプロトタイプ車を富士スピードウェイのショートコースで試乗。プロトタイプとはいえ、ほぼ市販車そのもので、その進化のほどをしっかり確認することができた
いったん走り出せば、FCVも駆動は電気モーターが担当する。
そのシステム最高出力は182ps、最大トルク30.6kgmだから、パワーそのものは最近のハイエンドEVに比べると大したことはない。
1930kgの車重に対してドライブフィールは「必要にして充分」というレベル。ガツンと踏んだ時にテスラみたいな強烈な加速がないのを不満に思う人もいるかもしれないが、そういうタイプの人向きのクルマではない。
ただし、乗り心地やハンドリングに関しては高級車らしい上質さが上手く表現されており、これが電気モーターのなめらかな加速感とマッチして実にエレガントで心地よい。
タイヤサイズはベースグレードが235/55R19(左)、スポーツグレードが245/45ZR20。車体全高とタイヤの直径比率はスポーツカー並み
試乗したのは富士スピードウェイショートコースだったが、FRらしい素直な操舵感、しなやかなロール/ピッチ制御、そして当たりのソフトなロードフィールなど、まさにエレガント系高級車のお手本のような仕上がりだった。
かように走りが優雅だから、どうやら開発者側としては「ドライバーズカーと思ってもらえないのでは?」という不安があるようだが、それに対応する新しい試みとして、アクセル操作に応じて人工的な走行音をスピーカーから流すという“仕掛け”が用意されていたのは面白かった。
最初はギミックと馬鹿にしていたが、サーキットを走るとこれが意外に有効。無音で加速するよりアクセルコントールで音が変わるほうが走りのリズムを作りやすいし、より速く走っているような錯覚(?)すらある。
くつろぎと高揚感を両立するインテリア。12.3インチの大型タッチセンサー付きディスプレイを装備するほか、新たな金属質感としてカッパー加飾を新採用
後席の快適性をさらに増した「エグゼクティグパッケージ」も用意される。注目の新装備として、スポーツグレードにはアクセル操作に応じて専用スピーカーから人工音を出す「アクティブサウンドコントロール」も設定される
FCVは、走行中は水しか排出しないという究極のクリーンカーだから公用車や社用車向けの需要が多く、ショーファードリブン向けのカタログモデルも用意されるが、やっぱり一等席はドライバーズシート。
EVを軽々と超えてゆく未来型サルーンとして、ぼくもいつかは所有してみたいとグラッときてしまいました。
外部給電機でAC(交流)に変換する、DC(直流)9kWの大電力を供給できるのも新型ミライの魅力のひとつ
■トヨタ 新型MIRAI主要諸元(Z 社内測定値)
・全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm
・ホイールベース:2920mm
・最小回転半径:5.8m
・車両重量:1930kg
・最高速度・航続距離:175km/h・約850km
・燃料電池最高出力:174ps
・モーター最高出力/最大トルク:182ps/30.6kgm
・駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
・サスペンション(F/R):マルチリンク/マルチリンク
・駆動方式:後輪駆動
・乗車定員:5名
・先進安全装備も次世代トヨタセーフティセンスを装備し、万全。また駐車場位置の決定から完了までスイッチ操作だけでできるアドバンストパークも搭載するほか、走行時に取り入れた空気をPM2.5レベルの細かい粒子まで捕捉してきれいに排出する「マイナスエミッション」の空気清浄システムも新採用。
【番外コラム】価格は710万円から! 遠藤 徹の地獄耳情報
トヨタはこのほど12月9日に発表、発売する燃料電池車(FCV)である「新型MIRAI」の先行予約の受付をスタートさせた。
従来モデルは標準仕様1グレードで車両本体価格は740万円であったが、2代目になる新型は2グレード5タイプに拡大。車両本体価格は710万~805万円まで。
グレードは標準がGで上級はZ、GはベースとAパッケージ、エグゼクティブパッケージ、Zはベースとエグゼクティブパッケージの構成。
「環境車=優しいブルー」のイメージを払拭する力強いブルーを新規に開発。ボディカラーは全8色だ
現時点での納車予定は来年2月頃からとなっている。新型は従来の4人乗りから5人乗り、駆動方式はFFからFRに変更。
燃料の水素充填後の航続距離はJC08モード測定で初代の650kmから30%延長し、WLTCモードで845kmとなっている。
新型車のグレード&タイプ別車両本体価格は下の表のとおり。グレード&タイプが拡大する理由は次期型が初代よりも、増販にかなり意欲的になっていることを印象づけているようだ。
Zベース車(車両本体価格790万円)にフロアマット、ETC、ボディコーティングなど約20万円分のオプション&付属品を付けて見積もりを出してもらうと、法定、法定外費用を含めて820万円程度となっている。
新型の補助金がいくらになるかは未定だが、現行型は国から204万円が出ているほか、各自治体からも助成金が出ている地域がある(東京都の場合は101万円)。
●新型 MIRAI価格(遠藤徹氏調べ)
・G…710万円
・G Aパッケージ…735万円
・G エグゼクティブパッケージ…755万円
・Z…790万円
・Z エグゼクティブパッケージ…805万円
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みんなのコメント
素晴らしい車だと思いますが、現実的に現状では夢の車ですね♪