今春4月にホンダから発売された「GB350」は、税込55万円という手頃な価格、そして空冷のロングストローク単気筒が生み出す心地良い鼓動感が高く評価されている。注文が殺到し、今からの注文では年内納車は難しいと噂されるまで人気を得た。そのLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー=開発責任者)を務めた山本堪大さんと、エンジン開発を担当した若狭秀智さんは大学時代からの友人であり、プライベートでは古い2輪&4輪を愛好するエンスージアストだったりする。そんなおふたりを直撃した。
毎日のように、一緒に遊んだ学生時代
クアトロポルテへの道(中編)──イタリアを巡る物語 vol.16
2002年に、早稲田大学理工学部に入学した山本さんと若狭さん。ふたりの出会いは、オリエンテーションで乗ったバスの中だった。五十音順で「や」と「わ」。同じバスの近い席に座ることになったふたりの内、先に話かけたのは山本さんだったという。
若狭:山本は覚えてないと思いますが、イヤホンを忘れたから貸してくれと……。人のカラダに触れるもの借りるのかよ!! って。自分は群馬出身なのですが、そのときは東京ってこういう所なのかって……。
山本:若狭は、指輪の上下にゴムパッキンを挟んでくるタイプ。オシャレなやつというふうに私は記憶しています(笑)
若狭:群馬は高崎市がファッションの発信地で、"高崎流"をやっていれば、東京でも通用すると思っていました、井の中の蛙で、バカにされるという(笑)。
それぞれの属する内燃機系の研究室の、教授ふたりが師弟関係にあったこともあり、部屋こそ分かれていたものの近い距離で研究生活をしていたふたりは、ウマが合って仲良しになったそうだ。
山本:勉強が終わったらほぼ毎日、一緒だった記憶がありますね。若狭はBMXが上手なので、乗り方を教えてもらったり。共にオートバイを手に入れてからは、奥多摩に走りに通ったり。クルマもそうですね。私が20歳でMGミジェットを手に入れて、その数カ月後には若狭がミニの左ハンドルを買って。週末はクルマいじりの話をしたり、互いのクルマに乗って遊びに行ったりしました。
若狭:お互いの奥さんより、付き合いは長いですね。
卒業前、ふたりはそれぞれ研究が忙しく、博士号を取得することを視野に入れていたこともあり、熱心に就活に励んではいなかったそうだ。仲が良いから一緒にホンダへ行こう、というわけではなく、Hondaであれば自らの夢を実現できるのでは? という答えにそれぞれが辿り着いたという。
山本:自分が車体を作って、若狭がエンジンを作って、それが1つの形になったら良いね、なんて話は学生の頃にしていました。そしてホンダから内定をもらい、縁があってホンダの2輪部門に行った大学の先輩と食事をしたとき、その方のアツい話を聞いて、ふたりで完全にそれに触発され、世の中の期待を超える様な2輪を創っていこう! みたいな話をしました。
やりやすくもあり、やりにくくもあり?
ホンダ入社後、若狭さんは一貫して2輪のエンジンを設計する部署を志望し配属。そして山本さんは、大学で排気系を研究していたこともあり、車両全体を見ることができる完成車設計を志望。その部署で、スクーター設計を担当した。山本さんと若狭さんは友達の関係を保ちつつ、それぞれの職域の中で「ウマが合う仲間」を増やし、ふたりの友情をベースにした仲間の輪を広げていった。
そして山本さんは、世界最大の2輪生産国かつ2輪消費国でもあるインド向けの戦略モデル「ハイネスCB350」および、その日本向け仕様の「GB350」のLPLに抜擢され、エンジン開発に若狭さんが起用されることになった。
山本:LPLは開発チームの人選について希望は出せると聞いていましたが、自分の年齢からいって出すのはおこがましいかなと感じていました。ただGB350に関しては、勢いのある若手のなかから選定するというマネジメント・プラットフォームを考えてくださったので、若いメンバー中心で進めて行くことになりました。
若狭:実は山本より、この機種には私の方が関わりが長いのです。新たな空冷単気筒を開発したいという企画書を作ったとき、当時の上司から相応しい機種があるけどやらないか? と言われたのがはじまりです。
山本:若狭と山本のセット、というのは私たちが示し合わせたわけではないのですけど、いくつかのプロジェクトで偶然一緒になることが以前もありました。GB350についても、ここでも一緒になったね、みたいな感じでした。
若狭:主観も入りますがシンプルさや軽さを求めるなら、もはや空冷より水冷の方がおそらく軽いです。それを追求するレース用エンジンは、全部水冷ですから。オートバイの特徴として、エンジンが外から見えることがありますが、その美しさに趣味製品としての空冷のニーズがあるのでは? ということを、以前研究していました。
山本:その考え方は若狭と完全にシンクロできているので、ブレはなかった感じがします。私からすると、完成車で部品点数が少ないところがオートバイの重要な要素だと思っています。
若狭:エンジンのデバイスにも結構面白いものが入っているのですが、山本の"無茶振り"がなかったら「同軸バランサー」は生まれなかったですね。不快な振動はなくしたいけど、エンジンはシンプルにしたい。コストとか重さの制約もあるので頓知みたいになるのですが、じゃあ工夫してやりますよ、と。それでミッションのメインシャフトにもバランサーを載せたのですが、これがパッケージとしては自分でも予想しなかったくらい収まりが良い。本当に「必要は発明の母」だなぁ、と思いました。
山本:若狭とは、お互い手の内が全部わかっていて、やりやすくもあり、やりにくくもある、というのは、ふたりで良く話します。その無茶振りも、実は5つくらいありました。やはりホンダが新たに出すオートバイなので、一番ホンダらしい……先進性や、お客様の期待を超える、みたいな所の議論は、フェアにやりました。
若狭:実際、エンジンの仕様は、割と早く決まりましたが、その前に一番決まらなかったのは、山本がどういうエンジン型式を選択するか、です。
山本:新規のエンジンをどういう風にするか、というのは戦略なので、開発チーム以外の部署の話も入ってきます。当然事業を考える人からすると、新規にエンジンを作るなら、色々なモデルに使えるものを、と考えます。でも、そうすると尖り切らない部分もあるかなと感じていまして……。特にインド市場のお客様のニーズを満たそうとすると、今回は尖らせないといけないと思いました。インドの、メーカーが築いている何十万台の市場に仲間入りするためには、ホンダが本気でやらないとダメです、というところを軸に置いて…。調整にはかなり苦戦しました。
若狭:山本があれこれ悩んでいる間に、独自に構想していました。考え尽くせばきっと、こういうエンジン型式になるだろうと、どんどんレイアウトは進めていましたので、山本が悩み抜いて、1周回って戻って来たときに、はい出来上がっていますよという感じです。
山本:こちらが調整している間に、若狭がエンジンの検討をしてくれていたので、上手くハマった感じはありました。エンジン型式と、エンジンのレイアウトがほぼ同時に決まった感じで…。若狭からすれば、ちょっと遅いと思うかもしれませんが(笑)。
奇跡的な巡り合わせが生み出した夢の1台
ハイネスCB350およびGB350の単気筒エンジンは、クランク前側のバランサーシャフト、そしてミッション・メインシャフト上の同軸バランサーを採用することで、ピストンの運動による不快な振動を限りなく打ち消し、命題である「クリアな鼓動感」の抽出に成功した。一方、そのエンジンを搭載する車体については、インド現地でのサーベイの後、エンジンの搭載方法やディメンションなどほぼすべてを見直すことになったという。試乗した方々の評価は概ね好評だったが、「感動」を与えられなかった、と山本さんは感じたそうだ。
山本:インドではコミューターとして毎日の通勤通学にも使うのですが、とはいってもファンモデルを作るわけです。週末には何処かへツーリングしたり。いつかはヒマラヤ山脈へ走りに行きたいと思ったり。その上で、インドの道路事情や街中の様子を考慮して、コミューターとしての使い勝手に軸足を置いた各ディメンションや部品の配置をしました。それが、(感動を与えられていなかったという)失敗の要因と考えています。
感動を与えるには? 悩んでいる山本さんの助けになったのは、ネイキッドスポーツのCB400スーパーフォアでも通勤する人はいるだろう? というアドバイスだった。
山本:そういう考えは確かになかったので、軸足の置き方を少し変えました。優先順位を変えることで、やり直すことができました。やはり、お客様の日常の使い勝手にハメてしまうとどうしても期待を超えない、期待どおりのものになってしまう。彼らが一番憧れていること……週末の短い時間だけれども、そこにフォーカスした方がお客様の夢に近づく、期待を超えることができる、というのは大きな気付きでした。チャレンジするより手堅く、販売台数が見込める方が良いという考え方もありますが……。
趣味的なファンモデルという、ホンダが初めてインドに投入するカテゴリーの開発を任された山本さんには当然不安はあったが、昨年からインドでリリースされたハイネスCB350は好調なセールスを記録。そしてホンダ熊本製作所で組み立て、日本市場向けに販売されているGB350も、納車待ちを強いてしまうという、悩ましい状況にある。
10年とちょっと前、同じ大学からともにホンダに入社した山本さんと若狭さんに、最後に聞いてみた。学生のころに語った、ふたりで1台の完成車を作る夢は、このGB350で叶ったのか、と。
若狭:私は叶ったと思います。120%、奇跡的なめぐり合わせだったと。空冷のシングルで、ちょっと伝統的なイメージのモデルに最新技術を入れる……。これは運命ですね(笑)。
山本:私も夢が完全に叶ったな、と。こんなに早くできるとは思っていなかったというのが、正直なところです。今入社12年目なのですが、入社したときは10年以内にLPLになりますと、偉そうなことを言っていたのですが、9年目くらいにやらせていただいて……。若狭と学生のときに話していた、自分の知識と経験を最大限活かせる題材であり、魅力がお客様に確実に伝わったということに喜びを感じています。自分たちの自己満足だけなら全く満足感もないですが、お客様に高くご評価いただいているということが、がっちりハマって夢が叶ったと本当に思いました。
長らく歴代ホンダ製2輪車に「ドリーム」という名前が使われていたことは、多くのオートバイ好きが知るところだ。若きエンジニアふたりが学生のころ想い描いた夢は、ハイネスCB350とGB350の完成によって、これから多くの人々の夢としても、共有されることになったと言えるだろう。
文・宮﨑健太郎 写真・奥村純一 編集・iconic
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みんなのコメント
開発者を見て納得した。
カフェスタイルに仕上げてるだけで、中身は東南アジア用の
実用車。