アルピナとBMW Mの違いについて、輸入元のニコルオートモビルズの広報担当者に訊くと「アルピナは、快適なツーリング・カーを目指し開発されています」と述べた。
たしかに試乗した「D5 S」は、乗り心地がよく、静かで、その気になれば速い、というアルピナ車の特徴がほどよくバランスした大人っぽいモデルだった。
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【主要諸元】全長×全幅×全高:4960mm×1870mm×1485mm、ホイールベース:2975mm、車両重量:1940kg、乗車定員:5名、エンジン:2993cc直列6気筒DOHCディーゼルターボ(326ps/4000~4600rpm、700Nm/1750~2500rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:フロント255/35ZR20、リア295/30ZR20、価格:1299万円(OP含まず)。もとになっているのは、BMWの「530d xDrive」で、そこに「540d xDrive」と基本的には共通の3.0リッター直列6気筒ディーゼル・エンジンを載せている。
日本では540d xDriveが販売されていないので、おなじエンジンを搭載する740d xDriveの3.0リッター直列6気筒ディーゼル・エンジンと比較すると、740dの最高出力が235kW(320ps)であるのに対しD5 Sの出力は240kW(326ps)に、最大トルクは680Nmに対し700Nmに向上している。
マフラーはもとになる5シリーズと異なり、左右2本ずつの計4本出し。H.Mochizukiフロントのリップスポイラー(アルピナロゴ入り)は専用デザイン。日本仕様のアルピナのボディサイドは、すべて専用ステッカー付き(本国ではオプション)。D5 Sは、バランス感覚に優れたモデルだった。トルク、回転マナー、ハンドリングなど、どこかが突出していない。もとになっているBMW 5シリーズの美点もおなじくバランスの良さである。優れた部分を、チューニングによってさらにうまく伸ばしているのだ。
徹底したバランス感覚BMWの直列6気筒ディーゼル・エンジン搭載モデルには、海外で乗った経験を有するが、そのときはバランスのよさに感心した。
D5 Sも、おなじくパワー、レスポンス、静粛性などあらゆる面において優れていた。なお、車名に含まれる「S」は「(搭載エンジンの)最高性能版」を、意味するという。
搭載するエンジンは、2993cc直列6気筒DOHCディーゼルターボ(326ps/4000~4600rpm、700Nm/1750~2500rpm)。D5 Sの“S”は、「(搭載エンジンの)最高性能版」を意味する。バランスのよさこそ、アルピナが最重要視するポイントであるのは先ほど述べた通り。どれほどこだわるのか? というと、ピストンの重量を1本ずつ、またシリンダー容積を1本ずつ計測し、エンジンを組み立てていくのはよく知られた話だ。また、タイヤとホイールを単一銘柄(ミシュラン)の単一径(20インチ)に統一し、足まわりの設定にブレが出ないようにもしている。
さらにエンジン制御技術は、燃料噴射のマッピングを独自に書き換え、パフォーマンスと燃費を同時に追究したという。熟練工によってバランスどりされたピストンなどと合わせ、アルピナ独自のフィーリングを目指しているのだ。
巡航最高速度は275km/h。H.Mochizukiヒーター機能付きステアリング・ホイールは、アルピナ専用デザイン。ステアリング・ホイール裏側には、シフトアップ/ダウン用のスウィッチ付き。見た目以上に快適試乗したD5 Sは、全長5mになんなんとするボディを持つ高級セダンだ。といっても、もとになる5シリーズと異なり、専用デザインのエアロパーツやアルミホイールが備わるから、雰囲気は大きく異なる。かなりスポーティな印象だ。
とはいえ、アルピナのクルマづくりの目標のひとつに、“快適性”もある。だからなのか、フロント35%、リア30%の扁平率を持つ薄いタイヤを履いているにもかかわらず、意外なほど乗り心地がよかった。
JC08モード燃費は14.7km/h。もちろん使用油種は軽油だ。H.Mochizukiタイヤサイズはフロント255/35ZR20、リア295/30ZR20。トランスミッションはZF製8AT。もとになる5シリーズと、シフトプログラムは異なる。走行モードは、もとになるBMW 5シリーズとおなじく、「スポーツ」や「コンフォート」などから選べる。ステアリング・スピードは比較的スローで、中立付近での反応もあえてクイックにしていないかんじだ。このあたりは3シリーズ・ベースの「B3ビターボ」の活発さとは一線を画している。
もちろんスローなクルマではない。アルピナがチューニングしたスポーツ・サスペンションと、専用制御の可変ダンパーが組み合わされた足まわりゆえ、その気になればコーナリングも速い。
上質なウッドパネルとレザーをふんだんに使ったインテリア。グリーンのステッチが各所に施されるのはアルピナらしい。メーターパネルは、フルデジタル。バックカラーはブルーだ。もちろん、ディーゼル・エンジン特有の太いトルクバンドを使って、ゆったりした気分で高速走行も出来る。また、エンジン音もよく抑えられていて、東京から御殿場までの約100kmのドライブは、ほぼ疲労感ゼロだった。
ちなみに、D5 Sの駆動方式は4WDだ。今回の試乗では4WDの性能を試す機会はなかったが、ふつうに運転する限り4WDとは気づかないはずだ。なお、室内のセンターコンソールには4WDであることを示す「Allrad」と、記されたプレートが付く。
電動調整機構付きのフロントシート。シート表皮はレザーが標準。ウッドパネルにはアルピナのロゴが刻まれる。センターコンソールには、車名をしめすプレート。リアシートの居住性は、もとになる5シリーズとなんら変わらない。D5 Sの歴史をさかのぼると、1999年に発表された「D10ビターボ」にさかのぼる。当時のBMW 5シリーズをもとに、”世界でもっともパワフルなディーゼル・エンジン搭載モデル”として話題になった。D5 SはこのD10ビターボの後継であり、第3世代モデルだ。
アルピナは今後、プラグ・イン・ハイブリッドや、ひょっとしたら代替燃料車を手がけるようになるかもしれない。それらも気になるところであるが、熟成されつつあるハイパフォーマンス・ディーゼルも十分魅力的であるのを伝えておく。
文・小川フミオ 写真・望月浩彦
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