長引くコロナ禍。新車を売る販売現場のみなさんは奮闘中だが、その最前線では今、「これは見過ごせないぜ」という話がタンマリ転がっている。販売店に精通する自動車ジャーナリスト・小林敦志氏がお届けする!
※本稿は2021年5月のものです
文/小林敦志 写真/TOYOTA、AdobeStock、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2021年6月26日号
2カ月連続販売台数ダウン! いよいよ「アルファードバブル」の崩壊が始まったのか?
【画像ギャラリー】コロナ禍のなか開催迫るオリンピック…。そんななか飛び込んできた車販売現場のウラ話10コをギャラリーでクイックチェック!!!
■01 今、販売現場は車両電動化の波で大揺れ状態に!?
電動化の波で今、販売店は揺れ動いている……。
昨年末、経済産業省が「2030年代半ばまでに電動車のみにすることを検討」と発表。その報道は世の中に強いインパクトを与えた。当然、新車販売現場も強い関心を持っている。
あるセールスマンは、「2030年代半ばまでの電動化(ここではBEV[純電気自動車]やFCV[燃料電池車]のこと)は厳しいですよ。うちの店でこの前ミライ(燃料電池車)を売りましたが、最寄りの水素ステーションまで片道20km。これでは興味のあるお客様には販売しますが、積極的には売れません」と話してくれた。
また、ある日産系ディーラーのセールスは、「リーフを売るにはまだまだ敷居の高さを感じる」と話す。
筆者が「集合住宅に住んでいる」というと、「そのようなお客様には積極的にリーフはオススメできません」と話す(集合住宅に充電施設を新設するのは至難の業なのである)。
まずガソリン車並みに手軽に乗れるインフラ整備(充電施設など)を優先させてから電動化を行ってほしいところなのだが、残念なことに政府や行政からはそのような動きがなかなか見えない。
このような状況なら、“不安を感じるセールスマンが多い”のも致し方ないことか。
水素ステーションの充実が課題のトヨタ MIRAI。よいものをオススメできないのは忸怩たる思いが募るのではないだろうか
■02 東京オリンピック やってもやらなくてもトヨタは笑う!?
東京オリンピックが7月に開催されるならば、いつも通りのオリンピックとはいかないものの、ある程度世の中がお祭り騒ぎになるだろう。
そうなると、新車購入に関心を示すお客が激減。販売の現場では、思うような活動ができなくなるはずである。
新車販売業界では6~7月は夏商戦と銘打った増販期となっている。ただ、ここ数年は6月に比重を置く傾向が目立っているが、7月がまるまる期待できないとなると事態は深刻。頭を抱える店も多い。
ただ、トヨタは7月19日に新型アクア、そして8月下旬には新型ランドクルーザーがデビュー予定。カローラクロスも同時期に国内投入予定との情報も入っている。
これだけ“ウリのクルマ”を持っていれば前述した話は別。オリンピックをはねのけるほどの集客効果が期待できるのは確実。
仮にオリンピックが中止となり、さらに感染拡大による“旅行に行くな”など、遠出の自粛要請が出されれば、「新型アクアが出たんだよなぁ」などと、新型車があり訪れやすい“近所の”トヨタ販売店に足を向ける人が充分期待できる。
……いずれにしろトヨタだけが笑うことになるかも!?
五輪の思わぬ影響もトヨタには無関係!?
■03 長引くコロナ禍で“ローン慣れ”に用心すべし
新型コロナウイルス感染拡大以降、販売現場ではローンを利用した新車購入が目立つ。そんななか、販売現場ではお客の“ローン慣れ”を警戒する声を聞くようになった。
まずは、フルローンが目立ってきたという。支払総額で600万円になるのも珍しくないハリアーの最上級でも、フルローンを組んで購入するケースが多く、月々8万円近くの支払いでも平気でローンを組んでいくとのこと。
さらに残債のある下取り車を下取り査定額で残債整理しようとしても整理しきれずに、そのぶんを乗り換える新車のために新たに組むローンの元金に上乗せして、再ローンを組む“借り換え”を選ぶお客も目立って増えている。巧みにローンを操っている感じだ。
「例えば新車購入のために、250万円を元金にローンを組んだところ、下取り車の残債のうち50万円が整理できず残ったとします。
そこでこの50万円を新車のための250万円に上乗せし、300万円を元金とするようなリスキーな組まれ方をするお客様が増えました」
とは、現場のセールスマンの話。うむむ……。
「ローン慣れ」で次々新車に乗り換えられてしまうのも困るのだ
■04 免許自主返納が多く車検入庫が激減。只今飛び込み募集中!
若者世代の“クルマ離れ”というのはよく聞く話。マイカーを持たないどころか、運転免許証すら持っていない若者も多い。
そのような社会状況のなかで、販売現場で深刻な問題となっているのが、真逆世代の運転免許自主返納による“卒車”の増加である。
「若い人がなかなかクルマを購入していただけないなか、高齢のお客様が運転免許証を自主返納して、マイカーを持たなくなるケースが目立ってきました。つまり、新規のお客様獲得より、管理しているお客様が“卒車”するスピードが圧倒的に早いのです」とは現場のセールスマン。
“卒車”が目立ってきたことで、車検や法定点検などの入庫台数の減少傾向にも歯止めが利かなくなっているという。新たに買う高齢層が減っているので、新車へ乗り換えてもらう販売促進活動にも影響大。
事態は深刻で、「どのメーカー車でも車検できます」などの、のぼり旗を掲げるディーラーを見かけたこともある。
最近は運転免許証の自主返納は一時期より減少傾向にあるそうだが、自動車保有人口が高齢化傾向にあり、現状で稼ぎ頭のメンテナンス収益すら脅かされており、販売店はさらに追い込まれている。
「新規のお客様獲得より管理しているお客様が“卒車”するスピードが圧倒的に早いのです」という言葉は重い
■05 続く“働き方改革”!? セールスマンの休日増え続けている
かつて、長時間拘束で、しかも週に1日休むのがやっとという“ブラック企業”状態だった新車販売の世界も、“働き方改革”が進んでいる。
今は新型コロナ感染拡大中ということで、時短営業の実施もあるが、2019年頃のコロナ前から19時頃に閉店する販売店が大半となった。
日本の販売店は完全定休日が設けられているが、世界的には珍しいこと。筆者が見てきた範囲では、販売店は年中無休が世界標準。
ただ日本ではこの業界も人手不足が深刻で、交代で週に2日休むのが難しく、お店の定休日を設けるようになった、というワケ。
その定休日を含めて週に2日は休めるようになっているのが現状。さらに有給休暇の消化もすすめられており、決算月の3月に半ば無理やり休みを取らされたという話も聞く。
とにかく休んでいることが多いので、あらかじめ「いつなら店にいるの?」と聞いてから出かけるお客も多いようだ。
出かける前にチェックは必須かも!?
■06 アルファード超絶人気。ワケは“転がし”目的のお客が目立つから
2020年事業年度締め(2020年4月から2021年3月)において、年間で10万台強を販売したトヨタアルファード。トヨタの販売店で話を聞いていると、すでに“財テク”がてらに購入する人も多いようである。
コロナ禍前には“アルファード転がし”というものが話題となった。
決まったボディカラーやグレード、オプションを付けたアルファードを半年くらい乗ったら転売を繰り返すことを指す。詳細は不明だが、転売するたびにどんどん儲かっていくそうである。
また、「下取り査定したら、新車価格より高い査定額になったケースもありますよ」とはセールスマンの話。
今はコロナ禍で海外への中古車輸出が滞っているので、そこまでバブルな話はないが、コロナ禍で社会不安が増大するなか、少しでも資産価値の高いものを買いたいという、消費者ニーズがアルファード人気をさらに高めているようだ。売れている理由の一端だ。
トヨタの販売店ならばどこでもアルファードは購入できるが、専売車として長い間扱ってきたトヨペット店のセールスマンのほうがノウハウを多く持つので、購入を検討しているなら……おすすめである。
最近販売台数に陰りが見えてきたアルファード。ひょっとしてこの話題も絡んでる?
■07 台数だけ売るのが優秀なセールスマンではない
かつて台数を売りまくる“トップセールスマン”は英雄視されていた。しかし、今は台数を売りまくるだけが優秀セールスマンではない。
例えば、軽自動車を10台売ったセールスマンと、コンパクトカー2台、フルサイズミニバン2台、ミドルサイズSUV1台を売ったセールスマンがいたとしたら、後者の評価が圧倒的に高い。
そのワケは、軽自動車10台売るよりこの5台は収益が圧倒的に多いから。つまり、台数だけでなく会社にもたらした利益も重視されているのである。もちろん値引きを抑えればさらに評価は高くなっていく。
また現在では「ひとりの優秀者より、みんなで均等に一定以上販売する」という考え方も広まっている。トップセールスマンはたくさん売るので、同じ店のスタッフが納車準備などのバックアップに入ると、店全体の営業活動がおろそかとなり、店のトータルで見ると効率的ではない。
そのような考え方が定着するなかで、トップセールスマンが“洗車係”に左遷人事されたといった話も! これ、事実。
ネットでよく見かけるのは(ホンダさんごめんなさい)、「N-BOXばっかり売れてもホンダの利益にならない」。それはメーカーだけの話でもないようだ
■08 残価設定ローンは完済するな! が販売現場の合言葉
メーカーを問わず販売店のセールスマンの共通認識は、「残価設定ローンは完済しないほうがいい」ということ。
例えばトヨタでは、標準残価率の前後5%の間といった感じで残価率を任意に選択することができる。
しかも、設定される残価率は実際の相場よりやや低い“安全マージン”を持たせたものとなっている。
例えば、支払い最終回分として据え置いた残価相当額が180万円とする。
しかし、支払い途中(完済に近いタイミング)に下取り査定で残債整理しようとした時、査定額が220万円となり、残債整理しても“お釣り”があれば、新車購入資金に回すことができるのだ。
だから、“できる”セールスマンほどタイミングを読んで、支払い途中での新車への乗り換えをすすめてくる。
このような傾向があるためなのか、今は残価設定ローンの利用が増えるなか、よりフレキシブルに動けるように、リセールバリューを重視してクルマ選びするお客が目立ってきているということも、販売現場でよく耳にする話だ。
買うときから得るときのことを考える…これも時流だろうか?
■09 コロナ禍で「キッズゾーン」の閉鎖が続く。寂しい雰囲気に……
子どもを含めた一家総出で販売店を訪れ、賑やかに商談を進める……。かつて、よく見かけた光景だが、今はほとんど見かけない。
新型コロナ感染拡大状況下の現在、スーパーへの買い物でも少人数が要請されていることもあり、一家総出で販売店へ行くのも難しいのだろうが、「キッズゾーンの閉鎖」、これも販売店で子どもを見なくなった要因と言える。
程度の差はあれど、ほとんどの販売店でキッズゾーンが設けられていたが、今は感染予防のため閉鎖状態。
店内全体にどこか明るさがなくなったのは寂しいかぎり……。
かつてあった、元気な子どもたちの姿がないというのは販売にも影響するのかも
■10 紙コップ、ペットボトルが飲み物サービスの定番になる?
コロナ禍となってから販売店での飲み物サービスも変化を見せている。使い捨ての紙コップで飲み物が出てくることが多くなった。
お店によってはペットボトルのお茶やジュースがポンと置かれることもあり、やや味気ない……。店によってはフリードリンク・サービスもあったが、もちろんそれも今はなし。
自販連(日本自動車販売協会連合会)のガイドラインどおりの感染予防対策を実施し、安心・安全なのだが……、こちらもやや寂しい感じがする。
顔を突き合わせてゆっくりと商談…なんてシーンが帰ってくるのはいつだろうか
* * *
……お届けした10の話。コロナ禍での販売店の変化とみなさんの奮闘ぶりが伝わってきました!
【番外コラム】販売店舗よもやまバナシ3選
●働き手不足で新人教育もままならない
新人教育は“現場で仕事を覚えさせる”ことが多い。ただ、今どきの若者は、パワハラだセクハラだと、すぐに訴えてきたりするので、すすんで指導役になろうとするベテランがいないとの話も聞く。
また、店舗におけるスタッフ不足もあり、日常業務に忙殺されることも多く、新人教育に手が回らないこともあるという。お得意様への販売促進が活動の中心となる店も多く(つまり新人教育に適さない環境)、放置される新人も多いと聞く。
●今どきの納車、実は時間がかかる!?
納車はとにかく時間がかかる。当該車両の傷などの有無、オプションや車検証の確認など基本的な流れに加え、同意書のようなものの説明を聞いて署名するという作業が実に多い。
“セールスマンからきちんと説明を受けましたか”などといった書類への署名が延々と続くのである。今でも大安の日曜日は納車が集中して営業活動ができないとはいわれるが、納車が3台もあればそれで1日が終わってしまう。営業に貴重な日曜日が……。
●商談テーブルのアクリル板がウザすぎる
飲食店などでおなじみとなったのが、飛沫防止のための透明なアクリル板。販売店にも商談テーブルの真ん中に置かれている。カタログや見積書の説明をしやすくするために、アクリル板の下部に隙間があるのが特徴。
ただ“アクリル板あるある”ではないが、お互いの話が聞き取りにくいので、アクリル板のないテーブルの端にセールスマンとお客が顔を移動して、ついつい商談し、結局あまり意味のないことになっている(汗)。
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