「斬新なコンセプト」と聞くと抱く印象・イメージはいい。しかしそれを打ち出す側からすればけっこうな「冒険」に違いない。
「斬新なコンセプト」とは「これまでにあまりなかったもの」であり、「これまであまりなかったもの」というのは商売上「売れるかどうかまったくわからない」と同義であることが多いからだ。
最近多いぞ車名の復活! タフト ロッキー スープラ…あの復活車たちのご先祖を巡る
だからこそ、経営を担う者はその扱いに慎重にならざるを得ないし、社会に出て経験を積めば積むほど「こんなのよく出せたよね」の言葉の重みは増してゆく(そしてやはり評価されずに消えていくもののほうが圧倒的に多いのだ)。
そんななかで晴れて陽の目を見、見事新たな地平を切り拓いた国産車たち10台をご紹介する。
【画像ギャラリー】出てきたときはみんな“異端”だった!!? 斬新なコンセプトで巷を席巻したクルマたちをギャラリーでチェック!!!
※本稿は2020年5月のものです
文:清水草一/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年6月26日号
■コンセプトの斬新なクルマほど失敗もあるが、その勇気に感動する
斬新なコンセプトのクルマは、斬新であるがゆえに往々にして失敗する。しかしクルマ好きは、その勇気ある挑戦を決して忘れない! 買わないけど忘れはしない!
個人的には、その筆頭はスズキツインであります!
2人乗りのシティコミューターというコンセプトは、スマート・フォー・ツーが以前から試みてはいたけれど、ツインはそれとはほとんど重ならない。なぜってカッコも値段もまるで違うから!
ツインのあの丸虫みたいなデザイン、そして最安49万円からという価格! スマートが富裕層のゲタだったのに対して、ツインは結局ほぼ営業車向け! それも超レア!
ツイン(2003年)…全長2735mmという短い全長で2人乗りの軽シティコミューター。日本では4人乗りの軽がすでにシティコミューターみたいなものだが、さらに小さな2人乗りでトライしたのが斬新!
一般人はシティコミューターにも4人乗りを選ぶのでありました! まったく受け入れられなかっただけに、そのトライがより清々しくも涙を誘う。なかでも鉛バッテリーをたくさん積んだハイブリッドは、涙なしには語れない。こんなこと、メルセデスにゃできまいて。ナイストライ!
ネイキッドもよかったなぁ。なにしろいきなり軍用車が登場したんだから、ミリタリーマニアはこぞって息をのみました。軍用車だけに機能的で実用性も高かった。でも値段もちょっと高かったし、女性に嫌われたみたいで売れなかった。ありがとうネイキッド! タフトでリベンジだ!
ダイハツ ネイキッド(1999年)…1999年に登場した軽ハイトワゴンだが、4枚のドアに外付けヒンジを採用してレトロな雰囲気のスタイルを演出。ほかにはない個性を放った
S-MXもすごかった。なにしろデート用のハイトワゴンだもん。当時はギリギリ、ドライブデート文化とハイトワゴンブームがだぶっていたのですね。ティッシュ置き場まであって、カーセックスしてくださいみたいな設計も衝撃。当時はまだカーセックスするカップルがいたのですね……。最近とんと聞きません。カムバックカーセックス!
ホンダ S-MX(1996年)…若者をターゲットとして1996年に登場した5ナンバーサイズトールワゴン。ベンチシートを採用し、前後2列シートをフルフラットにすることができた
ムーヴラテは、日本が世界に誇るカワイイカーの初の本格版だと認識しております。こんなクルマ、日本にしかない! まさに世界を大量リード! 世界をブッチギリの超斬新なコンセプト!
日本のカワイイ文化は世界進出を果たしているが、カワイイカーはいまだ海外には絶無! ナゼ? 本邦では現在もムーヴキャンバスやミラトコット、アルトラパンがその血脈を守っております。ムーヴラテありがとう!
ダイハツ ムーヴラテ(2004年)…丸目ライトをはじめ、丸と曲面を基調としたカワイイ系コンセプトを採用し、2004年に登場した3代目ムーヴの派生モデル
さて、ここらあたりから大成功した斬新コンセプト車に入ってまいりましょう。
初代ワゴンRの斬新さは、いまさら申すまでもございますまい。すべてのハイトワゴンの元祖ですから。デザイン部門でも超絶な存在です。
スズキ 初代ワゴンR(1993年)…小さくて室内空間が限られていた軽を背の高さで克服し、スタイルのよさも相まって軽ハイトワゴンという新ジャンルを確立した革新的モデル
続いて初代オデッセイ。全高低めの都会派ミニバンの草分け! 現在は絶滅寸前状態ながら、一時は大ブームを巻き起こした! 工場のラインの高さ制限で瓢箪から駒で生まれたというのも、まさかの大当たり的でストーリーとして面白うございました。
ホンダ 初代オデッセイ(1994年)…アコードをベースに開発され、そのセダン的な乗り味もウケて、ロールーフミニバンブームの火付け役の一台にもなった初代オデッセイ。1994年登場
初代タントは、軽スーパーハイトワゴン。どこまでも広く高く! という貪欲さが生んだ大勝利でした。出た時は見るのも嫌だったけど、脱帽するしかありません。
ダイハツ 初代タント(2003年)…1700mmを超える全高によりさらに広い室内空間とスライドドアの使い勝手のよさで、軽スーパーハイトワゴンの新ジャンルを確立したパイオニア
RX-8は、まぁ大成功はしなかったけど、4ドアスポーツカーのひとつのありかたを見事な形で提案してくれておりました。ちゃんとカッコよく仕上がってたことがなによりもスバラシイ。さすが前田育男デザイン。
マツダ RX-8(2003年)…スポーツカーの性能とスタイリッシュなデザインを、観音開きを採用した4ドアで実現。4ドアスポーツカーのひとつのありかたを示した
初代ハスラーの、気軽でカジュアルな軽SUVというコンセプトも秀逸だった。もはや国民車の一台ですからね。田舎にいくとウヨウヨいる。
スズキ 初代ハスラー(2014年)…軽ハイトワゴンとSUVのクロスオーバーという新ジャンル軽自動車として2014年にデビュー。愛嬌のあるエクステリアもウケて大ヒット
そしてアヴァンシア。これは大失敗でしたが、その高い志、忘れはしません。広すぎるのは貧乏くさい、ファミリーカーももっとスタイリッシュにエレガントに! という前向きな気持ちが痛いほど伝わって参りました。
ホンダ アヴァンシア(1999年)…ステーションワゴンとは違う独特なワゴンスタイルの5ドアハッチバックとして1999年登場。販売的には成功しなかった
最後に番外でX-90を挙げさせてくださいませ。SUVと2シーターオープンの融合、まさに水と油の極致! あまりにもデキが悪すぎたので、コレを称賛する気はありませんけども。
1998年登場のスズキX-90。2ドアオープンのSUVコンセプトは今でも斬新!
【番外コラム】編集部が選ぶもう1台 日産フィガロ(1991年)
日産フィガロ(1991年)
バブル期にブームにもなった日産のパイクカー。特にフィガロの凝った作りは感動モノ!
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