アウディとして特別な後輪駆動
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
アウディR8 RWDが英国にやって来た。フロントのドライブシャフトを持たないR8は、かなり特別なモデルだといえる。
アウディといえば、四輪駆動システム、クワトロによる安定性の高いスポーツモデルのイメージで牽引するブランド。これまでのモデルからすると、後輪駆動は造反的な選択だといえる。
確かにアウディR8には、LMSという後輪駆動モデルが以前から存在している。しかしアウディ・スポーツの手による、サーキット走行前提の特別モデル。アウディ自らが、量産の後輪駆動モデルを公道で走らせることは今までなかった。
2017年にも、アウディはR8 RWSという限定仕様をリリースしたことがあった。RWSは、リア・ホイール・シリーズの略。生産台数は限られており、それ以上の台数をアウディが販売することはないだろうと考えていた。
もしRWSが標準の四輪駆動のR8より運転が楽しく、満足度の高いものだったら、クワトロを軸とするマーケティング手法自体が危うくなる可能性もあるからだ。その心配は理解できる。
果たして実際に、RWSは四輪駆動のR8よりより楽しく、充実したドライビング体験が得られた。しかし、標準のR8とは驚くほど異なる体験で、クルマのキャラクター自体が巧みに作り変えられたようにすら思えた。
バーゲンプライスと呼べるR8 RWD
その仕上がりを見たアウディは、よりパワフルで高速な、四輪駆動のR8との競合はないと判断したのだろう。R8 RWSは呼び名を変え、量産モデルの8R RWDとしてわれわれのもとにやって来た。素晴らしい判断だ。
そしてもう1つ、R8 RWDには特別な意味がある。2020年の今、323km/hの最高速度を誇り、自然吸気V10エンジンをミドシップするスーパーカーを、11万5000ポンド(1518万円)程度で売っているメーカーはアウディだけ。
この価格を英国で比べれば、最新992型のエントリーグレード、ポルシェ911カレラSと同程度ということになる。オプションを追加すれば、価格は逆転すらしてしまう。R8はバーゲンプライスと呼んでいいだろう。
2代目へと代替わりしたR8も、2020年で5年目。すでにフェイスリフトを受けており、アグレッシブなルックスを得たが、どこか昆虫のようにも見える。最先端モデルらしい雰囲気は放っている。
同時に控えめなボディ色に塗られたR8は、日常の交通にも難なく溶け込むことができる。ルックスも含めて、とても順応性の高いスーパーカーであることにも変わりはない。
アウディはコンパクト・ハッチバックのA1から、大型のSUVまで幅広いモデルを製造している。そうだとしても、アウディR8は生粋のサラブレッドだ。
スーパーカーらしいシリアスな構成
ドライサンプで8700rpmまで回る、自然吸気のV10エンジンを積むのはご存知の通り。シャシーは主にアルミニウム構造で、リア周りにはカーボンファイバーの複合素材も用いている。
R8 RWDは後輪駆動となったことで、電動油圧式のマルチプレート・クラッチとフロント側のデフは搭載されない。機械式のLSDがリア用に残されている。
サスペンションは、一般的なパッシブタイプ。四輪ともにアルミニウム製のダブルウイッシュボーンを採用し、ホイールは19インチ。タイヤはグリップに優れるピレリPゼロがチョイスされた。
スペックシートを見る限り、R8 RWDの構成はシンプル。それだけに、シリアスさも感じられる。いかにもスーパーカーらしい。
インテリアデザインは新鮮味が薄れているが、具体的にどこが、と指摘するのも難しい。見た目も触感もいまだに上質で、レイアウトもよく考えられている。ミドシップのスーパーカーとしてみれば、保守的なデザインなことは以前からだ。
一部のスイッチ類は、アウディの他のモデルと共有している。モノとしてはアップデートを受けていても、共有するという事実に変わりはない。
ポルシェ911ターボを除いて、スーパーカーに毎日乗りたいと考えているなら、R8ほど親しみやすい車内は他にないだろう。荷物の置き場にも困らないし、不安になるような部分もまったくない。兄弟モデルといえるランボルギーニと違って、太陽光がドライバーを照らしてくれる。
日常への入口となる快適なシート
モニター式のメーターパネル、アウディ・バーチャルコクピットは見やすく、ダッシュボード中央のモニターは必要ないとすら思える。インフォテインメント・システムはスマートフォンとのミラーリング機能に対応。グラフィックの精細さは別として、機能的に不満はなくなった。
シートに座れば、付き合いやすいマシンであることが良くわかる。R8の個性を端的に表していると思う。
カーボンファイバーのシェルパネルは見えない。アルカンターラに包まれた、彫りの深いワンピースのバケットシートでもない。
控えめなサイドサポートを持つ、快適なレカロ製スポーツシートが付いている。乗り降りは、マツダ・ロードスターより簡単なほど。バケットシートも3000ポンド(39万円)で選べるが、こちらも同じくらい豪華な仕立てだ。
このシートが、R8 RWDの日常への入口となっている。乗り心地も驚くほど良い。スーパーカーの枠を超え、普通のクルマの水準で考えても良い。これより優れるモデルといえば、メルセデスSクラス級になるだろう。
走り始めれば、速度抑制用のコブ、スピードバンプを何事もなく見送れることに気づく。軽量になったフロントのおかげだ。高速道路の追い越し車線に出れば、静かに素早く、滑るように走る。英国の荒れた郊外の道ですら、スムーズに運転できる。
この続きは後編にて。
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