この記事をまとめると
■かつてのヘッドライトユニットはバルブやレンズが一体型だった
丸いテールランプといえば「スカイライン」も間違いじゃないけど……じつは丸テールが代名詞のクルマはかなり多かった
■一体型のヘッドライトを「シールドビーム」と呼び規格がほぼ統一されていた
■現在新品はほぼ売っておらず交換の際は代替品を使うことになる
かつてのヘッドライトはレンズごと交換していた!
運転免許をもっている人なら、「ハイビーム」という言葉はお馴染みでしょう。夜に人里離れたところを走ることがある人なら結構な確率でハイビームを使っている人も少なくないと思います。
ハイビームは国内での正式名称は「走行用前照灯」というらしいです。一方のロービームは「すれ違い用前照灯」と呼びます。
実際の運転のシーンを見ていると、いつも運転するときに使っているロービームのほうが「走行用前照灯」だといわれたほうがしっくり来ますので、ちょっとややこしいなと感じている人も少なくないでしょう。
普通のクルマ乗りの会話では、「ビーム」という名称は上記のハイとローの2種くらいなものだと思いますが、旧車好きの間では「シールドビーム」という馴染みのない言葉がちょくちょく出てきます。
「シールド」と聞くと、ゲームやアニメが好きな人なら「盾」のことかな? と思い浮かぶかもしれませんが、「盾」+「ビーム」って、なに? となるでしょう。
ここでは旧車には欠かせない存在である「シールドビーム」とは何なのか、というところにフォーカスして紹介していきます。
■「ビーム」って何?
さて本題に行く前に、よくよく考えてみると素朴な疑問が浮かんできませんか? 「ビームって、なに?」ということに。
「ビーム」は英語で「beam」と書き、意味は「光線,光束」というのが一般的です。ちょっと古めの人ならヒーローや巨大ロボがおでこや指先から出す光線のことが連想されるかもしれません。目に見えない指向性の電波もビームと呼ばれることがあるようです。
また、細い「梁(はり)」のこともビームと呼びます。クルマでは補強の棒状の部分にそう名付けられていることも多いので耳にしたことがあるでしょう。
ハイ/ロービームの例でもわかりますが、もっともよく使われるのは、ライトから発せられる光線を指すケースです。
光源からある方向に放たれる光線がビームということですね。
■一体式のランプユニットが「シールドビーム」
旧車のヘッドライトを思い浮かべてみてください。とくに1970年代以前のクルマのヘッドライトは、そのほとんどが丸いランプをふたつ、あるいは4つ組み合わせてノーズ部に配置したものだということに思い当たるでしょう。ボディに直接埋め込まれたものやグリルのなかに組み込まれたものなど、デザインによって工夫が凝らされていろんな顔が作られていますが、実際のところ、人の目に当たるライトユニット自体は丸いものしかなかったといっていいでしょう。
このヘッドライト(ユニット)を総称して「シールドビーム」と呼んでいるのです。
新品はほぼ絶滅!
■「シールドビーム」とはどんなビーム?
「シールドビーム」という単語を聞いたことがあるという人は、1970年頃よりも前に生まれた人か、旧車にしっかりハマっている人のどちらかでしょう。
「シールド」は英語で「shield」と書きます。意味は先述のように「盾、または盾のように守るもの」という解釈がまず出てきますが、「盾の光線」では、実際のライトユニットとは結びつきません。
「シールド」にはもうひとつ「遮蔽する覆いや壁、または封じ込めるもの」という意味もあります。クルマの「シールドビーム」はこちらの意味合いが当てはまります。
「遮蔽された光線(の発生機器)」ということなのですが、それでも「なんのこっちゃ?」と思う人も少なくないでしょう。
ここでちょっとだけクルマのヘッドライトの歴史を振り返ります。
ガソリンの内燃機関を使った自動車が実用化されたのは1880年の半ば頃です。そのときのヘッドライトは、馬車の時代から使われてきた「ローソク」を光源に使ってレンズや反射板で前方に光線が集まるようにしたものでした。
その後、もっと強い光を求めて光源が灯油からアセチレンガスになっていくのですが、1900年代初頭に電球式のヘッドライトが実用化されます。当初は反射板を備えたユニットに電球を仕込んだものでした。
その後のモータリゼーションの進化に伴ってライトユニットも熟成されていきます。その過程で規格化が進み、1940年頃のアメリカで、シンプルな構造の「シールドビーム」が生み出されました。
それまでの電球式は、電球、反射板、レンズ部、筐体など部品点数が多く、製造のバラ付きの影響も大きく信頼性は高くありませんでした。それをひとつのユニットにまとめてしまったのが「シールドビーム」の1番の特徴です。
円錐状の後ろ部分を反射板としてその後端に発光部分を配置。前面には配光を調整するレンズを備え、発光を効率よくするためのガスを封入した、円形の大きなひとつの電球という構造のユニットです。
すべてをひとつにまとめてガスを封じ込めた構造から「シールド」という名称が使われたのでしょう。
そのシンプルな構造からの高い信頼性と組み付けの容易さなどのメリットが評価され、アメリカでは装着が義務化されたこともあって世界的な規格となっていきます。
■丸形のサイズは2種類のみ
シールドビームは「規格式ヘッドライト」とも呼ばれ、規格に則ったサイズで分類されています。細かくはほかにもあるようですが、主なサイズは4灯式用の100φと、2灯式用の180φの2種です。※メーカーや用途により、実際の直径は数mmの誤差があります。
大ざっぱにいってしまうと、ポルシェ911(930系)のライトも日産フェアレディZ(S30系)のライトも同じ180φ規格のものなんです。
ちなみに「シールドビーム」には角形も存在します。乗用車のほかにトラックなどの商用車によく使われていました。
こちらもサイズが2種類(2灯用が幅200mm/4灯用が幅170mm)あり、丸形と同様にデザインで使いわけられていました。
■いまでは入手困難なアイテム
そんな「シールドビーム」ですが、より明るいものが出てきたり、デザインの傾向がかなり変わったことなどの理由でいまではほぼ使われなくなっています。
実際、1990年代の頭くらいまでは採用車種がかろうじて残っていたこともあって、少量ながら生産されていたようです。しかしいまでは国産のシールドビームは絶滅してしまいました。現在では、形状はそのままに、ハロゲンバルブが使えるものが代替品として販売されています。
旧車乗りのなかでは当時のテクノロジーにこだわって使い続けたいという人も少なくないので、「シールドビームの替えが利かない問題」が以前から悩ましい問題になっています。
ハンドメイドで作れるようなものではなく、いまとなっては新規で製造するのが難しい事情もあり、今後新たに発売される可能性は低いと思います。古き良きものを愛でる人たちにとっては寂しい限りです。
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