クルマを買うときに重視するポイントはどこだろう? 走り、快適性・乗り心地、静音性、安全性・安全装備、車格……。あるいはそのいくつか、またはすべてだろうか。
ひとつひとつのポイントは、またそれを見る人によっても評価が分かれる。そんななかで絶対的な尺度となるのが価格だが、時には「あれっ? 価格は安いけど、こっちのほうがよくないか?」と思うようなモデルがあるのも事実なのだ。
おお!? カッコいいぞ!?!? 新型カローラひと足早く中国で世界初披露!!
そこで今回は編集部から同一メーカー内における「こんな下克上対決アリじゃないすか?」を提案、国沢光宏氏、渡辺陽一郎氏のモータージャーナリストお二人に徹底検証してもらった。
果たして同一メーカー内での下克上はなるか。
※本稿は2018年9月のものです
文:国沢光宏、渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年10月10日号
【TOYOTA/LEXUS対決】 クラウン 3.5L → レクサス LS500h
●レクサス LS500h…1121万4000円~1680万5000円
●トヨタクラウン 3.5L…623万7000円~718万7400円
(TEXT/国沢光宏)
クラウンの3.5L、V6ハイブリッドとLS500hのパワーユニットはまったく同じ。なのにクラウンが623万円スタートで、LSは1120万円スタート。500万円差となる。そして車重差400kg! スペックと価格を並べたら、もうまったく違うクルマのように思う。そして当然のごとく「LSのほうがずっといいクルマなんでしょうね!」と考えることだろう。
しかし! この2車を乗り比べてみると、楽しさでもクルマの奥ゆきでも、クラウンに軍配を上げたくなってしまう。
もちろん見た感じの質感や、静粛性、インテリアの上質感でLS優勢なのだけど、クルマとしてのレベルはクラウンのほうが私からすれば高い。そもそもハンドル握っていて圧倒的に楽しいです。というかLS、ハンドル握ってると、けっこう不満あるのに対し、クラウンはない。日本における高級車としてのイメージだって、クラウンとLSで大差ない? けっこうな下克上です。
【下克上度判定…80点】
後席の快適性も重視されるモデル同士だが、レクサスLSはその後席が狭いと評価される。では走りはどうかというと、そちらも高い評価とは……。マイチェンでの大幅改良を期待します。
【NISSAN対決】 ノートe-POWER → リーフ
●リーフ…315万360円~403万2720円
●ノートe-POWER…142万1280円~264万600円 ※NISMOは除く
(TEXT/国沢光宏)
ノートもいいクルマだと思う。走り出しは滑らかなモーター。アクセル踏むと超スムーズに走り出す。しかし! すぐエンジン始動し、爽やかな気分に水を差す。ノートにかぎらず、すべての“モーターだけで走り出すハイブリッド”に共通するガッカリ感です。
片やリーフは当たり前ながら最後までエンジンかからない。走り出してから止まるまで徹底的に爽やか。電気自動車の気持ちよさは、長く乗ってると、よ~くわかります。
さらにノートとリーフじゃ車格も違う。ノートはBセグメントだからボディ剛性だって普通。したがって150万円級のクルマである。リーフのプラットフォームってCセグメントだし、重いバッテリーを搭載するためボディ剛性は猛烈に高い。ラリー車を作った時も、ボディ補強いっさいナシでミシリともしないクルマに仕上がった。高いお金出したぶんのよさや質感はキッチリ持っている。ノートの下克上は叶わず。
【下克上度判定…20点】
人気モデルとはいえ、ベース車のあるノートe-POWERにオリジナルボディのリーフを打ち倒すだけの力はなかったようだ。でも人気はノートが圧倒的に上。
【HONDA対決】 N-VAN → フリード+
●フリード+…190万円~274万8200円
●N-VAN…126万7920円~145万440円 ※+STYLEは除く
(TEXT/渡辺陽一郎)
N-VANは軽乗用車のN-BOXをベースに開発された軽商用バンだ。後席と同様に助手席も小さく畳めるから、運転席以外はすべて平らな荷室になる。左側のピラー(柱)をドアに埋め込んだから、前後ともに開くと開口幅が1580mmに広がり、畳んだ助手席部分から荷物を出し入れできる。専用のボードを使うと、運転席まで平らになって車内の就寝も可能だ。
フリードプラスはミニバンのフリードをベースにした2列シート車で車内が広い。専用のボードで平らにすると車中泊もできる。
つまり同じように使えるが、N-VANの小さく畳める助手席と後席は、シートとしては座り心地が悪い。重い荷物の積載に対応した足回りは、乗り心地が硬い。外観がN-BOXに似ていて乗用車風と錯覚するが、実際はプロユースの商用車だ。乗用車のフリードプラスとは、対象とする用途とクルマ作りがまったく違う。
【下克上度判定…5点】
ホビーユースも見据えた点で共通する部分はあるが、積載性最重視のN-VANに、乗用モデルのフリードの相手をさせるのは、さすがに荷が重すぎたか?
【MAZDA対決】 CX-5 vs CX-8
●CX-8…289万4400円~446万400円
●CX-5…257万400円~388万2600円
(TEXT/国沢光宏)
CX-8はCX-5のストレッチじゃなく上級にあたるCX-9の派生モデルだといわれる。とはいえマツダの場合、CX-5もCX-9も基本的に同じプラットフォームなので、剛性などの考え方が若干違うということなんだろう。
したがってCX-5もCX-8も乗り比べたら“ほぼ”同じ。絶対的な車重あるせいか、気持ちCX-8のほうが静かなくらいだ。
半面、同じエンジンだから車重軽いほうが負荷少なく、アクセルワークに対する反応よい。したがって両車を比べたら勝ったり負けたり。どちらが一方的によいということにならないです。
つまりこの2車の価格差は質感や車格からきているのでなく、単に2列シートか3列シートか、ということ。CX-8のドッシリした重厚感を好む人もいるだろうし、CX-5のカジュアルさを好む人だって多いだろう。乗り比べると、下克上というより同じクラスの違うジャンルという評価が妥当かと。
【下克上度判定…50点】
外見も似ているので、本当に3列シートが必要か2列で充分かで選べばヨシ。
【MITSUBISHI対決】 デリカD:5 → パジェロ
●パジェロ…339万1200円~495万1800円
●デリカD:5…240万8400円~405万5400円
(TEXT/渡辺陽一郎)
デリカD:5のプラットフォームは先代アウトランダーと共通だ。前輪駆動をベースにした4WDは多板クラッチ式だが、ロックモードを備える。4WD仕様の最低地上高は210mmだから、悪路のデコボコも乗り越えやすい。エンジンは2.2Lクリーンディーゼルが注目される。
パジェロは本格的なオフロードSUVだ。後輪駆動をベースにしたセンターデフ式4WDを備え、悪路で駆動力を高める副変速機も備える。最低地上高は225mmに達して、エンジンは3.2Lのクリーンディーゼルを選べる。
デリカD:5の4WDも走破力はSUV並みだが、パジェロはさらに優れているから下克上は成立しない。
しかし、走破力以外は、ほぼすべてデリカが勝る。ミニバンだから居住性と積載性は圧勝で、床が少し低いから乗降性もいい。舗装路における安定性もデリカD:5が勝る。そういう面では、下克上は成立するといえる。
【下克上度判定…88点】
国内にSUVは数多いが、SUV並みの走破力を持つミニバンとなるとデリカD:5しかない。比べるもののない孤高の存在だ。
【SUBARU対決】 インプレッサ G4 → WRX S4
●WRX S4…336万9600円~409万3200円
●インプレッサG4…194万4000円~261万3600円
(TEXT/国沢光宏)
この2モデル、乗り比べると「役者が違いますね!」と誰でもハッキリわかる。インテリアなど一部は、新しい世代になるインプレッサG4のほうが質感あっていいね、と思うけれど、走りの質についちゃ圧倒的です。
WRX S4の場合、Dレンジをセレクトしアクセル踏むと太いトルクとパワー感に驚く。低い回転域からグイグイ加速していくのだった。エンジン音だって静か。考えてみたらs4のトルク、G4の2倍ある! パワフルなエンジンで車体が軽く感じるだけでなく、高級感あるから不思議。
S4からG4に乗り換えたら賑やか。絶対的なエンジン振動も大きいというほどじゃないけどS4と比べちゃうと厳しい。街中にかぎらず、高速道路からワインディングロードに至るまで、すべての走行パターンでS4のほうが好ましい。一世代前のシャシーながら負けていないです。ということで残念ながら下克上に至らず! 高いぶんだけS4のほうがよい。
【下克上度判定…25点】
G4は新世代プラットフォームを使うが、総合力では1世代前のプラットフォームを使うS4の勝利。クルマ作りの難しさが垣間見える。
【SUZUKI対決】 ハスラー → クロスビー
●クロスビー…176万5800円~218万9160円
●ハスラー…110万520円~174万8520円
(TEXT/渡辺陽一郎)
ハスラーは鈴木修会長が「Keiの後継になる軽自動車のSUVを作れないのか」と指示して商品企画が始まり、ヒット作になった。対するクロスビーは、イグニスと共通のプラットフォームを使ってエンジンは1Lターボだが、フロントマスクなどの外観がハスラーに似ている。
両車を比べると、全長はクロスビーが365mm長いが、車内の広さはあまり違わない。クロスビーも空間効率は高いが、ハスラーの室内空間は先代ワゴンRと同じで、さらに効率に優れるからだ。室内幅を重視するとクロスビーになるが、4名乗車時の居住性と積載性はハスラーでも充分に満足できる。したがって実用性の下克上は成り立つ。
しかし走行性能はクロスビーが明らかに勝る。1Lターボエンジンは余裕があり、小型車の全幅で安定性も高い。乗り心地はハスラーが硬めだから、クロスビーの快適性が際立つ。この機能では下克上は成立しない。
【下克上度判定…72点】
2台の価格差は約50万~70万円。5人乗車がマストでないのなら、ハスラーでいいかも?
【DAIHATSU対決】 ムーヴキャンバス → トール
●トール…146万3400円~208万1160円
●ムーヴキャンバス…125万2800円~167万9400円
(TEXT/渡辺陽一郎)
ムーヴキャンバスは、全高が1700mm以下の軽乗用車では後席ドアが唯一スライド式になる。水平基調の外観に丸みを持たせ、アルトラパンに似た手法も採用して柔和に仕上げた。内装は上質で軽乗用車では乗り心地も快適だ。
トールは急増する背の高い軽自動車の売れゆきに対抗する目的もあり、約2年の短期間で開発された。プラットフォームは2004年に発売された初代パッソ&ブーンと同じだが、車両重量は150kgほど重く、全高も約200mm高い。したがって安定性と乗り心地がよくない。1LのNAエンジンは動力性能が足りず、ターボは2000回転付近のエンジンノイズが耳障りに感じる。
その代わり荷室のボードを反転させると汚れ防止シートになり、自転車を積みやすい。収納設備も豊富だ。使い勝手では工夫したが、やはり走りの機能と上質感に不満があり、ムーヴキャンバスのほうが総合的に優れた商品に仕上がっている。
【下克上度判定…95点】
トールは、ムーヴキャンバス+20万~30万円という価格で買える。この差額をどう判断するかも大事だ。
【番外コラム】 「ハイブリッドじゃないのに意外と燃費いいんだ」な下克上 6選
見た感じの既成概念だけでは「実燃費、悪いんじゃないの?」と思えるクルマが、実は燃費がいいんです、と紹介するコーナー(なので下克上相手はいない)。登録会員の実燃費(一般道+高速道路)の数値を随時掲載するサイト「e燃費」。そこの協力のもと、燃費達成率のいい主なモデルを左で紹介してみたぞ。
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